日本で普及しているスマホ決済サービスと言えば、楽天ペイ、PayPay、LINEペイなどが頭に浮かぶが、数年先には「Googleペイ」が真っ先に思い浮かぶことになるかもしれない。Googleが東京の新興企業pring(プリン)を買収し、日本のスマホ決済市場への参入の狼煙を上げたからだ。
Googleがスマホ決済スタートアップpringを買収
Googleは2021年7月、pringを買収することを発表した。pringはスマホ決済・送金アプリを開発・運営しているスタートアップ企業で、Googleはpringの全株式の取得のため、pringの筆頭株主であるメタップスなどと合意したことを明らかにした。
ただし、日本国内におけるスマホ決済サービスでは、pringの存在感は低い。楽天グループが展開している楽天ペイ、Zホールディングスが展開するPayPay、LINEが展開するLINE Payと比べると、ユーザー数は100分の1程度だ。
なぜGoogleはpringの買収に踏み切ったのか
このような状況の中で、なぜGoogleはpringの買収に踏み切ったのだろうか。
まず念頭に置いておきたいのは、Googleはすでに自社のスマホ決済サービスとして「Googleペイ」を展開しているということだ。Googleはこのサービスを日本で普及させることを目指しており、そのための足掛かりとしてpringを買収した。
pringは、日本国内ですでに資金移動業者として登録されており、日本の各銀行とのネットワークを有している。Googleペイを日本で普及させるためには日本の各銀行との連携が不可欠であり、Googleはpringの買収により、この「銀行とのネットワーク」を得ることになる。
Googleはpringのネットワークに買収価値があると判断したと思われるが、そもそもなぜGoogleはスマホ決済という、一見すでにレッドオーシャンな日本市場に参入しようと考えたのだろうか。公式には明らかにされていないが、その根っこにあるのは、日本におけるスマホ決済の普及の遅れだと予想されている。
Googleは日本市場のどこに勝算があると感じたのか
日本ではここ数年、スマホ決済を含むキャッシュレス決済サービスがかなり普及し始めている印象だ。経済産業省の資料によれば、2014年に16.9%だったキャッシュレス決済比率は、2019年に26.8%まで上昇している。
しかし普及し始めてはいるものの、中国や韓国などに比べると、日本の普及率はかなり低い。中国や韓国では、すでに国民の大多数がキャッシュレス決済を利用しており、その割合は7~9割にも上る。ここにGoogleは勝機を見出したと思われる。
日本国内では、楽天グループやLINE、Zホールディングスなどが大きなシェアを占めているが、それはあくまで既存ユーザーの中においてのことだ。まだ7割ほどの日本人がキャッシュレス決済を利用していないのであれば、新規ユーザーの獲得余地は十分にある。
Googleは「資金力」でライバルたちに勝つ!?
では実際のところ、Googleは日本国内で自社のスマホ決済サービスを普及させることができるのだろうか。Googleが一筋の光を見つけることができるとすれば、プロモーションに投じることができる多額の資金力だろう。
PayPayなどがユーザー獲得に向け、大規模な還元キャンペーンを実施したことは、記憶に新しい。各社はこのようなキャンペーンを赤字覚悟で実施しているわけだが、資金には限度がある。プロモーション合戦では必然的に資金力がある企業が勝者になりやすい。
Googleペイが日本を席巻する、という未来は実は考えられないことではない。その狼煙がpring買収によって上がったのだ。日本でスマホ決済の第二の超戦国時代が始まる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)