個別指導塾「スクールIE」やバイリンガル幼児園「キッズデュオインターナショナル(KDI)」を始め、教育領域で7ブランドのフランチャイズを展開するやる気スイッチグループ。近年は既存事業のブラッシュアップに加え、新業態の開発、また組織改革にも積極的に取り組んでいる。グループ代表として第二創業を掲げた高橋直司氏に、重点課題とその対応策について聞いた。(2021年6月号 「トップ直撃」より)

高橋 直司社長(52)
(画像=高橋 直司社長(52))
加藤友康
高橋 直司社長(52)
たかはし・なおし
1969年静岡県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、1998年拓人(現・やる気スイッチグループ)に入社。「スクールIE」の拡大に貢献。2008年英語で預かる学童保育「キッズデュオ」を、2012年にはバイリンガル幼児園「キッズデュオインターナショナル」を立ち上げる。2018年やる気スイッチグループホールディングス(現・やる気スイッチグループ)代表取締役社長に就任。第二創業を進める。

1989年、千葉県君津市で創業者の松田正男氏がグループ前身の拓人を創業し、「スクールIE」の一校目を開校。以降、フランチャイズ展開と並行して教育領域で多分野のブランドを開発。現在、全グループの約8割がFC教室に当たり、今年1月末時点では国内外1800以上の教室で、11万人以上の子どもたちに学びの場を提供している。ー

――グループ全体の代表に就任してから丸3年が経ちました。高橋社長は「第二創業」というキーワードをもとに、この期間内、様々な取り組みを行ってきたと伺いました。

高橋 利用者向けにやるべきことをちゃんとやろうということで、新しい制度を設けました。元々、当社のブランドは、教室業務をきちんとこなせばかなり顧客満足度の高いパッケージ作りをしています。しかし、その業務に少しゆるみが出ていました。たとえば当社では、生徒や保護者との面談を行うことになっていますが、いつからかそれをやらなくても済んでしまっていた。

そこで「クオリティサポート」という評価制度を導入して、見直しを図りました。私自身、教室長を務めましたが、教室には社員や責任者が一人しかおらず、周りから見られて仕事をしている訳ではない。孤独で寂しいんですよ。拠点に一人しかいないので、たとえ売上を達成しても誰も喜んでくれない。この制度はそこに労いをする制度で、単純にチェックをするためのものではありません。保護者面談の回数など定性的な品質を重視しています。現場を確認して、気付いた点や問題点を上長に伝える。そしてそれ以降は自分のマネジメントの中で直してくれというものになっています。問題を把握していても他の課題を優先していることは十分にあり得ますから、それを頭ごなしに指摘されたら腹が立ちますからね。こうした取り組みを行うことで、教室はだいぶ変わってきました。

――具体的にどのような変化が見られましたか。

高橋 主力の「スクールIE」については、生徒の平均在籍期間が21カ月に伸びています。これは当社と同じ市場をメインとする学習塾の平均水準の2倍以上と言われています。一度入塾して長く続けて頂けることは、生徒さんにとってもプラスのことです。長く通っていただく間、以前より当社で注力している「PCS」と「ETS」といった2つのアセスメントで学習履歴を残し、指導に当たっています。

▲主力の「スクールIE」の教室外観
(画像=▲主力の「スクールIE」の教室外観)

――「PCS」や「ETS」とは、具体的にどういったものなのでしょうか。

高橋 PCSは学力テストの履歴から学習要素別に習熟度を明示するもので、小学生〜高校生向けに13教科のテストで単元ごとの理解度と一歩踏み込んだ要素分析を行います。ETSは図形、文章記憶問題や選択問題など約200の設問で構成される個性診断テスト。学習習慣や生活習慣、育てられ方など、子どもの個性や性格の傾向が分かります。この2つのテスト結果をもとに、フルオーダーメイドテキスト「夢SEED」を作成します。

一般的な学力テストは、分野別に得点と偏差値を判断するものです。しかし生徒にとって有用なのは、「どの要素が分かっていないか」を見つけること。PCSであれば、たとえば中学2年生で学ぶ一次関数につまずいた際、過去の習熟度を元に「小学5年生で学ぶグラフの傾きが分かってないから」という理由まで分かり、そこを復習しようということが分かります。学校の先生に相談しても、よく「中学一年生の教科書を全部やりなさい」とか言われるじゃないですか。本人は理解している部分もあるはずなのに、です。我々はそんなことはできません。全部一律ではなく、「この学校が目標なら、これだけ勉強するといいよ」と指導する。生徒の学力や生活習慣、生活をしっかりと把握することで、それぞれにあった無理・無駄・ムラのない学習カリキュラムを組み立てているのです。

少子高齢化の影響で、教育市場の規模が縮小していくと言われて久しいが、実際にはむしろ逆だ。実際、団塊ジュニア世代から現在に至る40年間で、塾の単価は約3・5倍に増加しているという。そして今後特に期待値が高いのが、幼児向けの習い事や教育分野。子どもの数がさらに減少していくが、一方でより幼少期からしっかりと教育させようと考える保護者が増え、市場は成長していくと高橋社長は話す。こうした中で、同社の新たな柱になりつつある事業が、バイリンガル幼児園の「キッズデュオインターナショナル」(以下:KDI)だ。

――御社で手掛ける「スクールIE」を含め、展開するブランドのFC加盟初期費用は180万円〜2500万円のレンジです。その中で突出しているのがKDI。同ブランドの初期費用は1億6000万円〜となっていますが、それでも出店数は増えているようですね。

高橋 2013年に開園した直営1号園のセンター南を含め、首都圏を中心に合計9園を運営しています。そのうち7園がFC運営です。初期費用はあくまでも概算で、エリア等により金額は大きく異なりますが、KDIの初期費用が突出して高額なのは、新築で建てる際の建物代や備品代によるものです。それでも加盟いただく企業様は増えています。また加盟企業の業種も多岐にわたりますが、面白いのは各社の見込む相乗効果の部分です。大丸・松坂屋百貨店を手がけるJ・フロントリテイリングさんにも加盟をいただいていますが、同社が運営するKDI青葉台園には、「デパート」の職業体験プログラムコーナーがあるなど、百貨店ならではの特色があります。

▲「KDI」の授業風景
(画像=▲「KDI」の授業風景)

――様々な業種の企業がFCに参画すれば、出店余地も広がりそうですね。

高橋 KDIの利用料は月額保育料は9万円台からになりますが、ニーズは確かにあるので、今後も引き続き1都3県での出店、また札幌や名古屋、大阪や福岡エリアでの出店も拡大していく予定です。

既存業態の拡大と並行して、現在同社では新業態の開発にも注力している。この春にプログラミング教育の新業態「HALLO」のフランチャイズ展開を開始、先行して2〜3月に行われたグループ加盟店の加盟選考受付では、250教室が加盟した。この流れに乗り、同社では今年8月までに500教室、今後3年以内に1500教室の開校を目指すという。

――3月からスタートしたプログラミング教室は、人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)さんと共同出資した「YPスイッチ」で手掛けているそうですが、どのような経緯で協業が実現したのでしょうか。

高橋 実はこの事業も、先ほど申し上げたKDIがきっかけとなっています。プリファード・ネットワークスさんが当社のホームページを見ていただき、お声がけいただいたのですが、当社はすぐにお話をお受けしませんでした。なぜなら、まずは私たちの幼児園を見ていただきたかったのです。

手前味噌ですが、KDIの学習成果は非常に高い。幼稚園の年長児の一般的な知能指数(IQ)に比べて、KDIの平均は高い結果が出ています。また英語教育に関しては、年長児の3〜4割が英検3級を取得しており、約1割が準2級、最近は準1級の合格者も輩出しました。ほかにも学力だけではなく、50メートルを8秒7で走る子どもがいるなど、運動能力の面でもバイオメカニクスをもとにしたプログラムを取り入れているため、大体の子が小学3年生くらいの運動能力が身に付いた状態で卒業を迎えます。園児たちが本当に楽しそうに、明るく挑戦しているところを見てもらい、その上でプリファード・ネットワークスさんとプログラムやコンテンツ作りを融合していきたいと思ったのです。

▲HALLO武蔵小杉校の授業風景
(画像=▲HALLO武蔵小杉校の授業風景)

――完成した「Playgram(プレイグラム)」という教材はどのようなものなのでしょうか。

高橋 バーチャル空間上で自分のアバターを操作するもので、ロールプレイングゲームの「ラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」のようなイメージのゲームです。ゲーム上で作曲や街並みを作ることを通じて、自然とプログラミングを覚えていただくような仕組みになっています。細かく言うと、日本語の表示言語からスタートし、ビジュアル言語の「Py thon(パイソン)」、テキストコーティングといったスキルがシームレスで習得できる内容です。

――デジタル教材を活用して、サービスの幅を広げていくということですね。

高橋 日本には東京だけでもおよそ4000の学習塾があると言われています。中には集客に苦労されているところもあるはずです。そういった教室はこのHALLOを役立ててほしいですね。 また当社は現在、「グローバルLIVE 英会話」という集団塾向けのアドオン型コンテンツも準備していす。これはオーストラリアのスタジオと日本の教室をオンラインで結び、リアル感のある双方向型のインタラクティブ授業が成立するというものです。その結果、ネイティブ講師を雇用することなく、質の高い授業提供が可能となり、さらに小学生の通塾生を増やすことができます。

日本の内需が縮小していく中で、ライフタイムバリューを伸ばしてロイヤルカスタマーを作っていきたい。そのためには教育の領域でやりたいことはまだまだあります。社員は何事かと驚くかと思いますが(笑)、今後も幅広くコンテンツを提供していきたいと思っています。