1 はじめに

相続財産,仮装隠蔽,裁判事例
(画像=チェスターNEWS)

相続税調査において相続財産の申告漏れが発覚し、その申告漏れが「隠蔽又は仮装」(国税通則法第68条1項)に該当する場合、当該申告漏れは重加算税の対象となります。

ただ、課税当局が「当該申告漏れは隠蔽又は仮装に該当する」と判断して重加算税の対象としたとしても、その後、当該重加算税が審査請求によって取り消される場合が少なくありません。

そこで、重加算税が取り消された最近の裁決事例を紹介いたします。

2 共済契約に係る権利の無申告が「隠蔽又は仮装」に該当するかが争点の事例

ⅰ)事例

被相続人は、生前、被相続人自らを共済契約者及び被共済者とする農協の建物更生共済契約(以下「共済契約」とします。)を締結していました。そして、被相続人の死後、相続人である請求人は、当該共済契約について、満期到来による満期共済金を農協の請求人(相続人)名義の口座に入金するとともに、継続する共済契約の共済契約者及び被共済者を請求人(相続人)に変更する手続きをしました。にもかかわらず、請求人(相続人)は、相続税の申告手続きを依頼した税理士に共済契約の存在を告げなかったため、共済契約に係る権利が相続財産に含まれていませんでした。

その後、税務調査が行われ、調査担当者が、共済契約に係る権利が申告漏れになっていることを請求人(相続人)に指摘しました。そこで、請求人(相続人)は、修正申告書を提出しました。

これに対して、原処分庁は、本件申告漏れは「隠蔽」行為に該当するとして、重加算税を賦課しました。

これを不服とした請求人(相続人)は、審査請求をし、本件申告漏れに「隠蔽」行為はないと主張して重加算税の取り消しを求めました。

ⅱ)原処分庁の主張

請求人(相続人)が、共済契約に係る権利が相続財産と認識していたにもかかわらず、その存在を税理士に伝えていなかった。また、当該共済契約に関する資料を税理士に提示していなかった。これらの事情からすると、請求人(相続人)は、当初から相続財産を過少に申告することを意図しており、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当するため、当該申告漏れは「隠蔽又は仮装」に該当し、重加算税が賦課されると主張した。

ⅲ)審判所の判断(平成30年10月2日裁決)

〇審判所は、税理士が請求人(相続人)に対して相続税の申告手続きの説明の際に共済契約に関する具体的な説明を行っていなかったと認めました。

〇請求人(相続人)が税理士に共済契約の存在を告げなかったとしても、共済契約の存在が念頭にあったにもかかわらずあえてこれを告げなかったとまで直ちに認めることはできないとしました。

〇よって、請求人(相続人)に過少申告の意図があったと認めることはできないし、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動であるということもできないとしました。

〇請求人(相続人)が満期共済金を原処分庁が容易に把握し得ないような他の金融機関や請求人名義以外の口座などに入金したのではなく、共済契約の締結先である農協の請求人(相続人)名義の口座に入金していることからしても、原処分庁による満期共済金の発見を困難とさせるような意図や行動をしていないとしました。

〇以上から、審判所としては、請求人(相続人)が共済契約に係る権利の財産的価値を認識した上で、その存在を税理士に告げなかったとしても、これをもって過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動であるということはできないと判断した上で、重加算税を取り消しました。

3 請求人名義の定期預金の無申告が「隠蔽又は仮装」に該当するかが争点の事例

ⅰ)事例

請求人(相続人)は、相続税の当初申告の際には、請求人(相続人)名義の定期預金を相続財産として申告していませんでした。

その後、税務調査が行われ、調査担当者から請求人(相続人)名義の定期預金の申告漏れを指摘された請求人(相続人)は、当初申告から漏れていた請求人(相続人)名義の定期預金を相続財産に含める旨の修正申告をしました。

これに対し、原処分庁は、当該申告漏れは、「隠蔽」に該当するとして重加算税を賦課しました。

これを不服とした請求人(相続人)が審査請求により、「隠蔽」行為はないとして本件重加算税の取り消しを求めました。

ⅱ)請求人(相続人)の主張

請求人(相続人)名義の定期預金が相続財産に含まれることを認識していなかったことから、過少申告の意図はなかったと主張しました。

ⅲ)原処分庁の主張

請求人(相続人)は相続財産であると知りながら当初から過少に申告することを意図し、税務代理人である税理士に請求人(相続人)名義の定期預金の存在を秘匿し、過少な相続税額が記載された当初申告書を作成させ、提出したものと認められると主張した。

よって、請求人(相続人)の当初申告書の提出には「隠蔽又は仮装」があったと主張した。

ⅳ)審判所の判断(平成30年11月12日裁決)

請求人(相続人)が当初申告の当時、請求人(相続人)名義の定期預金が被相続人に係る相続財産に含まれると認識していたか否かについて

〇請求人(相続人)は当時高齢であり、長年にわたって被相続人と2人で農業に従事していた。その所得の全部が被相続人に帰属するという法的知識を有していたものとは認めがたい。よって、請求人(相続人)名義の定期預金を請求人(相続人)固有の財産と理解していたとしても不自然とまで言うことはできないとした。

〇請求人(相続人)は、税務調査の直後に、定期預金の通帳を税理士に提示して、税理士を介して調査担当者にも提示した。よって、請求人(相続人)は、税理士や調査担当者に請求人(相続人)名義の定期預金の存在を隠匿する意図はなかったと認められると認定した。

〇以上から、請求人(相続人)が請求人(相続人)名義の定期預金を相続財産に含まれると認識していたと認めることはできないことから、請求人(相続人)に過少申告の意図は認められないと判断しました。

〇請求人(相続人)が、税理士や調査担当者に請求人(相続人)名義の定期預金の存在を告げなかったとしても、それが過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動と認めることもできないと判断し、重加算税を取り消しました。

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