コロナ禍で進化するトヨタの企業文化
(画像=GLOBIS知見録)

新型コロナウィルスの影響により、多くの仕事はリモートワークで行えるということが浮き彫りになりました。けれども、製造業や運送業は誰かが現場で稼働しなければなりません。日本を代表するメーカーであるトヨタ自動車株式会社は、このコロナ禍でどのように進化したのでしょうか。トヨタ本社関係者の方々に聞きました。

新型コロナウイルス感染症によってトヨタの企業文化はどのように変わりましたか?
当社では、1)自動車産業自体が生き残ること、2)国や社会への貢献、という2つの点がより強調されるようになっています。

1)自動車産業自体が生き残ること
パンデミックのもたらした不確実な状況下でも生き残っていくために、元来のトヨタの「カイゼン」文化はいっそう加速することになりました。特にホワイトカラーの仕事に当てはまります。トヨタ生産方式には「原単位」(ある品物1単位を生産するのに必要な材料や工数等の量)という考え方がありますが、オフィスワークにおける原単位はあいまいになりがちでした。そこで「やめる、かえる、やり続つづける」という観点で仕事のプロセスを一から見直すなど、生産性向上をさらに追求しているところです。

2)国や社会への貢献
このような困難な時代だからこそ、トヨタの創業来の精神として「産業報国」という言葉がありますが、国や社会に貢献していかねばならないという思いが強くなっています。その一例として、当社では困窮する医療施設向けにフェイスシールドや救急車両を製造しています。さらに、仕入先の生産性向上支援も拡大しました。仕入先や販売店との協力が業界の未来を保証することになると考えるからです。

トヨタの従業員のうち、今後オフィスで働くのは何パーセントくらいになると思われますか?
部署や仕事の種類によって異なり、今後の見通しは難しいですが、現状に基づいて考えますと、いわゆる「ホワイトカラー」の従業員の場合、オフィスで働く人は(勤務時間の一部が在宅という人も含めて)7割程度になるかと予想されます。

直接製造に携わる従業員に関しては、基本的に職場に来る前提ですが、今後は、生産性向上や両立支援策として在宅勤務の可能性があるかどうかを検討しています。

出勤する必要がある仕事と安全対策、モチベーションのバランスをどのように取ろうとお考えですか?
感染リスクに関する従業員の不安を緩和するために、すべての職場に感染防止対策を導入しました。また、従業員一人ひとりが 、“うつさない・うつらない” 行動を心掛けるように各職場で周知しています。

具体例としては、シフト勤務の職場でのシフト見直しや、対面作業をする職場でのパーテーション設置、公共交通機関を避けて車通勤する従業員用の仮設駐車場などです。

また、メンタルヘルス維持の施策もあります。トヨタには、精神科医、臨床心理士、保健師による組織的なメンタルヘルスの保持体制があります。パンデミック中は、社内ウェブサイトにケア情報を掲載し、従業員や管理監督者が利用しやすいようにしたほか、外部団体によるストレスチェックも実施しました。

今後に向けて何が最大の課題になるとお考えですか?
組織の生産性を高めながら多様な働き方を支えていくにはどうすればよいか、そのための施策の検討と導入が課題です。また、それを実現するための従業員の評価やマネジメントの方法を変える必要があります。

たとえば以下のような施策を検討・実施しています。

特に職種・資格の面で、在宅勤務をさらに拡充すること
テレワークやサテライトオフィス、社内のフリーロケーション化など新たな就業形態に対応したインフラを整備すること
最新のデジタルツールやペーパーレスシステム活用により、自社をIT先進企業に変革すること
在宅勤務でも従業員を適正に評価する方法の展開や、マネジメントに対する評価者訓練

これらのすべてが、自動車産業の存続可能性、そして国と社会への貢献という、冒頭で述べた2つのポイントにつながることになります。

*本記事は、GLOBIS Insightsに2020年9月1日に掲載された記事を翻訳・編集して転載したものです。

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