話題のコンセプチュアルスキルとは、どのようなスキルか? この記事では、コンセプチュアルスキルの意味やコンセプチュアルスキルを構成する能力をわかりやすく解説する。コンセプチュアルスキルを人材育成に活かす方法も紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
コンセプチュアルスキルとは?
コンセプチュアルスキルとは、雑然とした知識や情報の中から本質を見極め、抽象化・概念化して理解する能力のことだ。コンセプチュアルスキルの高い人は、たとえば次のような行動をとることがある。
コンセプチュアルスキルが高い人の行動例
- 競合他社の成功事例を自社に合った形で取り入れ、マーケティングのチャンネルを増やすことを提案してきた。
- 現状の事業部の報告書には、現場管理に必要な数値が反映されていないとし、新しい報告書のフォーマットを独自に作成した。
- 現在の主力商品が時代の変化で廃れていくと予想し、異なるターゲットにアプローチできる商品の企画案を持ってきた。
コンセプチュアルスキルを提唱したのは、ハーバード大学の経営学者ロバート・カッツだ。役職が上がるほど、コンセプチュアルスキルの重要度が増すといわれている。現在、コンセプチュアルスキルを評価し、人材育成や人事評価に取り入れようとする動きが広がっている。
マネジメントで求められる3つのスキルのうちの一つ
ロバート・カッツは、「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」という3つのスキルがマネジメント層に求められると考えた。また、マネジメント層を「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つに分けた。
そして、「ロワーマネジメント」では、「コンセプチュアルスキル」より「テクニカルスキル」がより重要で、「トップマネジメント」では、「テクニカルスキル」より「コンセプチュアルスキル」がより重要と考えた。「ヒューマンスキル」は、どのマネジメント層でも等しく必要とされるスキルだ。
つまり、より上位のマネージャーになるほど、コンセプチュアルスキルの重要性が増していくということだ。
コンセプチュアルスキルを構成する14の能力
コンセプチュアルスキルは評価しにくく、有無を見極めるのは難しい。コンセプチュアルスキルを評価したり、持っている人材を見出したりする参考になるよう、続いてはコンセプチュアルスキルを構成する14の能力を紹介していく。
次に挙げるような能力を人事評価や採用基準に取り入れるのも面白いだろう。
1.ロジカルシンキング
冷静に情報を整理・分析し、複雑な物事の因果関係を把握して明確にしたり、問題に対する合理的な解決策を導き出したりする思考力。
2.ラテラルシンキング
「ラテラル(lateral)」は「側面からの」という意味。さまざまな角度から思考する能力。
3.クリティカルシンキング
物事をそのまま受け取らず、自分なりの判断ができる批判的思考力。
4.多面的視野
一面的な見方にとらわれず、物事をさまざまな角度から見る視野の広さ。
5.柔軟性
頑なにこれまでのやり方にこだわることなく、よりよい解決策を探し取り入れていく姿勢。
6.受容性
意見や解決策を拒絶せず、素直に受け入れる姿勢。
7.知的好奇心
新しいものに関心を持ち、アンテナを張り、意欲的に知識を習得し身に着けようとする姿勢。
8.探求心
よりよい情報や解決策を求め、積極的に情報収集したり思考したりする姿勢。
9.応用力
1つの問題から得られた学びを抽象化して理解し、他の問題の解決にも役立てる能力。
10.洞察力
観察によって物事の本質を見抜く力。
11.直観力
ひらめきによって物事の本質を見抜く力。
12.チャレンジ精神
困難にぶつかってもあきらめずに挑戦し続けるタフな精神。
13.俯瞰力
特定の視点にとらわれず、広い視野で物事を俯瞰して見る能力。
14.先見性
自分なりの仮説を立てて未来を予測する能力。
従業員のコンセプチュアルスキルを高める3つのメリット
コンセプチュアルスキルはさまざまな能力から構成されている。従業員のコンセプチュアルスキルを高めた場合、事業にどんないい影響があるのだろうか? 続いて、コンセプチュアルスキルを高めることによる経営上のメリットを3つ紹介する。
1.生産性が向上する
コンセプチュアルスキルを持つ従業員は、現状に満足せず改善策を考えるため、現場の生産性の向上が期待できる。
売れない商品に見切りをつけて主力商品にリソースを集中させたり、追客を自動化するシステムを新たに導入したり、個々人の営業成績を可視化して共有するような仕組みを作ったりすることが例として挙げられる。このような取り組みは、コンセプチュアルスキルを持つ人の得意とするところだ。
2.事業の成長スピードが上がる
現場の生産性が向上すれば、結果的に事業の成長スピードが上がる。
また、コンセプチュアルスキルを持つ人がマネジメントすれば、人材育成の質が上がり、従業員の成長とあわせて事業がますます成長していく。コンセプチュアルスキルを持つ人がブレーンとしてリサーチをしたり相談に乗ってくれたりすれば、経営者としても頼もしいだろう。
3.リスクに対応できる組織になる
コンセプチュアルスキルを持つ人は、俯瞰的に物事をとらえることができる。そのため、他の従業員が気づけなかった経営上のリスクに気づいたり、今後の時代の変化を踏まえた事業のリスクに気づいたりするケースがある。
このような意見を取り入れていくことで、リスクに対応できる組織となり、事業を永続発展させていけるだろう。
コンセプチュアルスキルを育成する3つの方法
コンセプチュアルスキルの重要性を理解しても、具体的にどう人材育成に活かせばいいか悩む経営者も多いだろう。続いて、コンセプチュアルスキルを培う方法を3つ紹介する。コンセプチュアルスキルを重視したい経営者はぜひ取り入れてほしい。
1.年次・役職にとらわれず意見を取り入れる
上位のマネジメント層はよりコンセプチュアルスキルの重要性が高いと説明したが、上位のマネジメント層であれば自動的にコンセプチュアルスキルが身についているというわけではない。年次の低い従業員や役職のない従業員の中に、コンセプチュアルスキルが高い人間がいるケースも多々ある。
そのため、コンセプチュアルスキルの高い人材を見つけるためには、経営者や上司が年次・役職にとらわれず意見を聞く姿勢が大切だ。「君の役職・年次なら、これだけやっておけばいい」などと頭ごなしに業務を限定してしまうと、コンセプチュアルスキルを持つ人は能力を発揮できない。
それどころか、上司に落胆して転職してしまうリスクすらある。
コンセプチュアルスキルの高い人材は「もっとこうすればいいのでは?」「既存のやり方は非効率的では?」といった発言をするため、上司から疎まれるケースがある。しかし、コンセプチュアルスキルの高い人材は、ケチをつけたり反抗したりしたいわけではなく、少しでも会社に貢献したいと考えて意見していることが多い。経営者や上司には、その気持ちを汲み取る器の大きさが求められる。
2.研修で「5Why分析」を行う
コンセプチュアルスキルを鍛える方法として、トヨタ式の「5Why分析」を取り入れた研修を行うのも効果的だ。「5Why分析」では、「5回のなぜ?」を繰り返す。たとえば、事業部でクレームが起きたケースを事例にしてみよう。
「なぜクレームが起きたのか?」
→渡した書類に記載ミスがあった。
「なぜ記載ミスがあったのか?」
→チェックがうまく機能しなかった。
「なぜチェックがうまく機能しなかったのか?」
→チェック者の業務量が多すぎて、十分に注意力を持てなかった。
「なぜ業務量が多すぎるのか?」
→書類が〇日に集中してしまう。
「なぜ集中するのか?」
→各部門の提出日が一律〇日だから。
日々の仕事の中では、最初の「なぜ」で止まってしまうことも多い。そうすると「次回から注意しよう」というだけで終わり、同じミスを繰り返すことになりかねない。しかし、5回の「なぜ」を繰り返すことで、「各部門の提出日を変更することで、書類が集中しないようにする」という新たな解決策が見えてくる。
「5Why分析」では、課題を設定し、5回の「なぜ」を繰り返す中で、問題の本質へと近づくことを目指す。研修にこのようなワークを取り入れることで、従業員のコンセプチュアルスキルを高める機会を持つようにしたい。
3.書籍や外部研修を活用する
書籍や外部研修を活用する方法もある。
たとえば、コンセプチュアルスキルに関する書籍をマネジメント層の指定図書にし、自部門でコンセプチュアルスキルを高めるための具体策を提出してもらう。社内研修で書籍の読み合わせを行い、従業員同士でディスカッションをする。このような活用が考えられる。
コンセプチュアルスキルを高める研修を行っている会社もある。このような外部研修を活用することで、コンセプチュアルスキルのノウハウを従業員に浸透させることができる。
ただし、書籍や研修を活用する時は「読みっぱなし」「やりっぱなし」にならないよう注意しよう。読んだ結果、研修を受けた結果、実際にどう業務に活かせるかという点までしっかり踏み込むことが重要だ。
コンセプチュアルスキルは新時代を生き抜くカギ
最新テクノロジーが次々と登場し、人々の求めるものが激しく移り変わる時代。企業として、どのように生き残りを図ればいいのか。カギとなるのは、人材育成だ。商品が売れなくなっても、競合他社が新しいサービスを開発しても、既存の技術が廃れても、優秀な人材がいれば起死回生を図ることができる。
物事の本質をとらえるコンセプチュアルスキルは、まさに新時代で必要とされる能力といえるだろう。コンセプチュアルスキルを人材育成に取り入れるとともに、そうした人材を活かす企業体質へと変化していくよう努めたい。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)