東京電力関連会社が導入開始 停電が発生しにくい新電力網「スマートグリッド」とは?
(画像=PanyaStudio/stock.adobe.com)

スマートグリッドが導入されると、日本の電力事情は大きく変わる可能性がある。その影響はあらゆる業界に及ぶため、現代の経営者はいち早く現状を掴んでおくことが必要だ。仕組みやメリットなどの基礎知識と合わせて、重要な情報をしっかりと押さえていこう。

目次

  1. 次世代電力網として注目される「スマートグリッド」とは?
    1. 従来の電力網との違い
    2. スマートグリッドが注目された背景
  2. スマートグリッドの基本的な仕組みと使用される技術
    1. 次世代の電力量計「スマートメーター」
    2. 電力を管理する3つのシステム
  3. スマートグリッドを導入する3つのメリット
    1. 1.効率的かつ安定的な電力供給が可能になる
    2. 2.停電などのトラブルが発生しにくくなる
    3. 3.再生可能エネルギーを活用できる
  4. スマートグリッド化で日本はどう変わる?
    1. 日本全体の省エネ意識が高まり、多くの関連分野との協力体制が築かれる
    2. 2つの課題により、本格的な導入までには時間がかかる
  5. すでに実用化されている? スマートグリッドの導入事例
    1. 【事例1】スマートグリッド・シティの構築など、広い範囲での実証実験/アメリカ
    2. 【事例2】2030年の系統運用を目指したプロジェクト/東京電力パワーグリッド株式会社
  6. スマートグリッドの導入に向けて、関連企業は万全の準備を

次世代電力網として注目される「スマートグリッド」とは?

スマートグリッドとは、「次世代電力網」と呼ばれる新たな電力供給システムのこと。送電網に専用のソフトウェアや機器などを組み込むことで、供給側・需要側の双方から電力量をコントロールでき、電力の過不足をはじめとした情報共有も可能にしている。

従来の電力網との違い

現在の主流である電力網では、言うまでもなく双方向的な電力供給はできない。発電所から一方的に電力を供給するだけのシステムなので、供給される側のデータを発電所が収集することもできなかった。

その点、データの収集により効率的な電力供給を可能にしたスマートグリッドは、さまざまな環境問題や社会問題を解決する手段として注目されている。特に多くの電力を消費する企業や発電関連の企業にとって、スマートグリッドの重要性はますます高まっていくはずだ。

スマートグリッドが注目された背景

スマートグリッドの概念は、もともとはアメリカで誕生したものだ。アメリカでは電力網の老朽化や電力需要の変化が原因となり、過去に以下のような大停電が発生した。

・2003年にアメリカ東部のほぼ全域で停電
・2006年にカリフォルニア州で3時間弱にわたる大停電

上記のほか、IT企業が集まるシリコンバレーでも電力需要が急増するなど、アメリカの電力供給システムはさまざまな課題を抱えていたのである。

スマートグリッドはこれらの課題を解決する手段として、2000年頃から開発や導入が進められてきた。いまやその波は世界中に広がりつつあり、日本においてもスマートグリッド化の重要性が唱えられている。

スマートグリッドの基本的な仕組みと使用される技術

スマートグリッドの大きな特徴としては、「双方向的な電力供給・情報共有」と「発電量や供給量の柔軟な調整」の2点が挙げられる。では、スマートグリッドの導入を進めるために、どのような技術が利用されているのだろうか。

次世代の電力量計「スマートメーター」

ひとつ目の技術として、電力の消費予想を立てるための「スマートメーター」が挙げられる。スマートメーターとは、通信機器やマイクロコンピューターを埋め込んだ次世代の電力量計のことだ。

スマートメーターを導入した電力網では、電力使用量の計測や消費量データの検知が可能になる。また、スマートメーターには供給量の制御機能も備わっているため、集めたデータを電力会社に送信する機能と組み合わせることで、必要なところに必要な分だけ電力供給するシステムを実現している。

電力を管理する3つのシステム

電気エネルギーを最適化するには、電力網や発電所のシステムだけではなく、供給される側の電力を管理するためのシステムも必要になる。そのため、スマートグリッド化が進められている地域では、以下のシステムの導入も予定されている。

○電力を管理するシステム

東京電力関連会社が導入開始 停電が発生しにくい新電力網「スマートグリッド」とは? 食材高騰の可能性も?農家を守る種苗法とは?

ちなみに、上記の3つとコントロールセンターを結んだ仕組みは、「CEMS体制(Community Energy Management System)」と呼ばれている。スマートグリッドの導入を進めている地域は、このCEMS体制を広げてひとつの「スマートコミュニティ」を作り上げることを目指している。

スマートグリッドを導入する3つのメリット

では、スマートグリッドが実際に導入されると、その地域の電力供給システムにはどのようなメリットが生じるのだろうか。細かく見るとさまざまなメリットが考えられるが、以下では地域に与える影響が特に大きいメリットを中心に紹介していこう。

1.効率的かつ安定的な電力供給が可能になる

スマートグリッドが導入されると、需要に合わせて電力の供給量を調整できるため、電力供給の効率性や安定性が高まる。例えば、電気消費量の減少のデータが企業や家庭から電力会社に送られてきた場合、電力供給を減らし過度な発電量を抑えることができる。

また、スマートグリッドでは余剰電力をほかの建物に回すこともできるため、導入範囲が広いほど供給の効率性・安定性はアップしていく。

2.停電などのトラブルが発生しにくくなる

安定した電力供給により、停電をはじめとしたトラブルを抑えられる点もスマートグリッドのメリットだ。もともと日本は停電が発生しにくい環境だが、スマートグリッドによって発電や送電、蓄電が効率化すると、停電のリスクをさらに抑えられるようになる。

また、システムに不具合が生じた場合の電力復旧がスムーズになる点も、スマートグリッドを導入するメリットのひとつだ。「地震大国」と呼ばれる日本において、発電・送電をスムーズに復旧できる体制を整える意味合いは大きい。

3.再生可能エネルギーを活用できる

スマートグリッドを活用すると、太陽光発電システムや風力発電システムともスマートコミュニティを築けるようになる。これらのシステムによって発電した電力を効率的に供給すれば、再生可能エネルギーによって「地産地消」を実現することも可能だ。

天候の問題でスムーズに発電できなかったとしても、不足した電力は発電所から供給すれば問題ない。つまり、スマートグリッド化は再生可能エネルギーの活用につながるため、日本全国で導入が進めば環境対策としての効果も期待できる。

スマートグリッド化で日本はどう変わる?

上記のメリットを見ると分かるように、スマートグリッドは多方面にさまざまな影響を及ぼすため、企業がスムーズに対応するには今後の動向を予測しておく必要がある。

では、スマートグリッド化によって日本はどう変わっていくのか、ここまでの内容も踏まえて一緒に考えてみよう。

日本全体の省エネ意識が高まり、多くの関連分野との協力体制が築かれる

日本の停電対策はすでに優秀であり、なかでも電力供給の安定性は世界的に高く評価されている。欧州に比べても年間の停電時間は2分の1から3分の1程度であるため、停電対策という意味でのスマートグリッド化の必要性はそこまで高くないと言えるだろう。

しかし、その一方で日本は「環境意識が低い」と見られることもあり、過去にはCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)で化石賞(※皮肉を込めて授与される賞)を受賞した経験がある。SDGsやESG投資の重要性が世界中で唱えられるなか、日本の環境意識を世界レベルまでもっていくには、再生可能エネルギーを積極的に活用しなければならない。

このような意味合いで言うと、スマートグリッドの必要性は高まっていき、導入が進むとともに国内全体の省エネ意識も高まるはずだ。

ただし、スマートグリッド化をスムーズに進めるには、電気・電子工学はもちろんIoTの技術も必要になる。また、スマートコミュニティを全国的に発展させるとなれば、土木業や不動産業などあらゆる分野の協力が必須になるだろう。

したがって、このままスマートグリッド化が順調に進んでいけば、多くの関連分野(企業)が協力体制を築く可能性が高い。

2つの課題により、本格的な導入までには時間がかかる

スマートグリッドの実証実験は各地で進められているものの、現時点では以下の2つの課題を抱えていることも理解しておきたい。

○スマートグリッド化の主な課題

東京電力関連会社が導入開始 停電が発生しにくい新電力網「スマートグリッド」とは? 食材高騰の可能性も?農家を守る種苗法とは?

上記のなかでも【2】は深刻な課題であり、アメリカではすでにスマートメーターがハッキングされた被害が報告されている。セキュリティ対策を万全にした状態で導入しなければ、日本でも不正に電気料金を下げることを目的としたサイバー攻撃が発生するかもしれない。

2021年2月時点ではあくまで実験段階の技術なので、本格的にスマートグリッドが導入されるまでにはもう少し時間がかかるだろう。

すでに実用化されている? スマートグリッドの導入事例

スマートグリッドの導入には時間がかかるものの、すでに実用化に向けて動き出している地域や企業も存在する。スマートグリッド化に向けて準備を整えるには、現時点で「どの段階まで実用化が進んでいるか?」を押さえておくことも重要だ。

特にスマートグリッドとの関連性が強い企業は、以下の事例に目を通して現状を理解しておこう。

【事例1】スマートグリッド・シティの構築など、広い範囲での実証実験/アメリカ

アメリカのコロラド州ボルダーでは、すでに多くの実証実験が行われている。ボルダーはスマートグリッド化のテスト区域として、アメリカ初となる「スマートグリッド・シティ」に選ばれた。

2010年の時点ではコスト面などさまざまな課題が浮き彫りになったが、将来的には各家庭にスマートメーターを設置し、太陽光発電の導入も順次進められる予定だ。ボルダーは一般的な規模の都市(人口約10万人)であるため、この地域での実証実験の結果は世界中で参考にされるかもしれない。

また、アメリカはボルダー以外にも、カリフォルニア州やマサチューセッツ州、カンザス州など広い範囲でスマートグリッド化の実証実験を進めている。

【事例2】2030年の系統運用を目指したプロジェクト/東京電力パワーグリッド株式会社

東京電力の関連会社である「東京電力パワーグリッド株式会社」も、すでに実用化に向けて動き出している。2018年頃には東京都新島村に再生可能エネルギー設備を構築しており、蓄電や送電に関するさまざまな実証実験を行った。

また、スマートメーターについては、2021年3月末時点で約2,840万台設置されている。同社は2030年の系統運用を想定しているため、これから10年足らずの間に世の中は大きく変わるかもしれない。

スマートグリッドの導入に向けて、関連企業は万全の準備を

現時点では実用化していないものの、スマートグリッドが広く導入される未来はそれほど遠くない。スマートグリッドが実際に導入されると、国内の電力供給はより効率的・安定的になり、さまざまな業界にメリットが生じると予測される。

また、スマートメーターなどの導入に伴い、あらゆる業界が協力体制を築くことになる点も理解しておきたいポイントだ。業種によっては協力を要請される可能性も十分に考えられるため、関連する企業はしっかりと準備を進めていきたい。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
無料会員登録はこちら