対面でのミーティングが困難になりZoomなどのビデオ会議システムの利用が広がる中、1対1で行う1on1ミーティング(ワンオンワンミーティング)が改めて注目を集めている。1on1ミーティングとは何か、メリットとデメリット、実際のやり方や成功させるポイントなどについてまとめた。
目次
1om1ミーティングとは何か?
1on1ミーティング(ワンオンワンミーティング)とは、文字通り上司と部下が1対1で行うミーティングを指す。「インテル」「Google」「Yahoo!」「Adobe」などのシリコンバレーのIT企業で一般的に行われている傾向がある。
特にインテルは古くから1on1ミーティングを実践しており、創業者のアンディ・グローブが著書の中でその重要性を訴えている。
グローブは「90分の1on1ミーティングは、2週間か、あるいは80時間以上にわたって部下の仕事の質を大きく高めてくれる」と説明している。
日本ではヤフー株式会社が本格的に導入
日本では、ヤフー株式会社が2012年に本格的に導入しその名が知られるようになった。ヤフー株式会社では、すべての管理職に1on1ミーティングの実施を求め、7,000人の社員全員が週1回の1on1ミーティングに臨んでいるという。ヤフー株式会社は、1on1ミーティングを「経験学習サイクルを実務の中に組み込む方法」と認識し、会社の文化として定着させている。
ヤフー以外に1on1ミーティングを行っているのは、以下のような企業だ。
- クックパッド株式会社
- 株式会社スペースマーケット
- グリー株式会社
- SBテクノロジー株式会社
- 日清食品株式会社
例えば日清食品株式会社では、2017年から1on1ミーティングを導入し「1on1を通じた人材育成」を目指している。
1on1ミーティングの4つのメリット
1on1ミーティングを行うメリットにはどのようなことがあるのだろうか。
1.社員の転職防止
1on1ミーティングは、社員の転職防止が期待できる点がメリットの一つだ。アメリカ人の給与情報をデータベース化しているサラリー・ドットコムによると「アメリカ人労働者の23%は毎日職場で転職先を探している」という。
また、その最大の理由は「上司と考えや性格が合わない」だ。別の調査会社の調べでは、調査対象者の75%が自分の上司を「現在の職場における最悪のもの」と答えている。
上司と部下のコミュニケーション不足は、お互いの不信を招きかねない。最悪の場合、「部下の転職」という結果をもたらす。1on1ミーティングを定期的に行うことで、上司と部下の不信を除き良好な関係づくりへと向かわせることが期待できるだろう。
ハーバードビジネスレビューでは「定期的に1on1ミーティングを行っている会社の従業員は、定期的に1on1ミーティングを行っていない会社の従業員よりも離職率が67%低い」ことが紹介されている。
2.生産性の向上
定期的な1on1ミーティングの実施は、特に製造業の現場に生産性の向上をもたらすこともメリットである。例えばGEは、それまで行っていた従業員の勤務評価制度を廃止し2週間に1度の1on1ミーティングの実施を新たに制度化した。
その結果、全社的に生産性が向上し、ある部門においては12ヵ月間で生産性が5倍になったという。
3.労働意欲と忠誠心の向上
1on1ミーティングは、社員の労働意欲と忠誠心の向上も期待できる。ギャラップが1on1ミーティングを導入した企業を対象に行った調査によると1on1ミーティングを導入したことで、欠勤率が平均37%低下。
さらに安全に関わる事故の発生件数も48%減少し顧客による評価が10%向上したという。
一方、1on1ミーティングを全く行っていない企業では、わずか15%の社員しか「仕事にやりがいを感じている」と答えていない。1on1ミーティングを行わずに社員の労働意欲と忠誠心を求めるのは非常に難しいようだ。
4.社員のスキルアップ
1on1ミーティングは、社員のスキルアップにつながることもメリットの一つだ。1on1ミーティングを制度として行っているヤフー株式会社では、1on1ミーティングによって社員の「経験学習」を行うことに成功している。
週1回行われる1on1ミーティングにおいて、上司が部下の振り返りの時間を設け目標達成に向けた課題を共有し、それを乗り越える方法を話し合うという。
ヤフー株式会社によると1on1ミーティングの根底には「社員の潜在力やポテンシャルを引き出す」という考えがあるといいます。
1on1ミーティングの3つのデメリット
一方で1on1ミーティングにデメリットはあるのだろうか。
1.上司と部下の双方が時間をとられる
まず考えられるのは、1on1ミーティングによって上司と部下の双方が時間をとられることだ。特に多くの部下を持つ上司の場合、全員と1on1ミーティングを行うのに相応の時間をとられてしまうだろう。しかし1on1ミーティングの実践者の多くは、「たとえ上司が多くの時間をとられても1on1ミーティングを行うべきだ」と主張している。
2.ミーティングスペースが必要
1on1ミーティングを行うためのミーティングスペースが必要なこともデメリットの一つだ。特に社員が多い大企業の場合、全員と定期的に1on1ミーティングを行うスペースを確保したり時間を調整したりするのが大変だろう。
3.コストがかかる
コストの問題もデメリットとなりかねない。企業の中には、オフィスの外で1on1ミーティングを行っている企業もあり、例えばレンタル会議室やカフェなどでミーティングを行った場合、コストが必要だ。特に多くのミーティングを外で行った場合、それなりの金額になるだろう。
いずれにせよこうしたデメリットはささいなものといえるかもしれない。繰り返すが1on1ミーティングを行うメリットは、そうしたデメリットを大きく凌駕する。
1on1ミーティングのやり方
では、実際に1on1ミーティングを行う場合、どのようにやればいいだろうか。筆者は、以下のプロセスを経ることをおすすめしている。
1.ミーティングの目的を決める
最初のステップは、ミーティングの目的を決めることだ。目的を決めずにミーティングを行うと「雑談」に陥りがちだ。ちなみにヤフーでは、1on1ミーティングを行う目的を「経験学習というスキームを導入すること」「社員の才能と情熱を解き放つこと」としている。
2.時間と頻度を決める
次のステップは、1on1ミーティングの頻度と時間を決めることだ。ところで頻度と時間についてはどう考えればいいのだろうか。
ちなみにヤフーでは「週に1回、30分」と設定している。アンディ・グローブは「私の考えでは、1on1ミーティングは最低でも1回60分は行うべきだと思う。それ以下の時間だと、部下が委縮して重要なことを話さないケースが生じてくる」とコメントしている。
多分最低でも30分、可能であれば60分を想定すればいいだろう。また頻度については、1on1ミーティングの実践者の多くが週に一度の実施をすすめている。
3.場所を決める
次のステップは、ミーティングを行う場所を決めることだ。特に社員が多い会社の場合、適切なミーティングの場所を確保するのが難しいケースもあるだろう。企業の中には、社外の公園などを場所にしているところもあるようだがミーティングができれば問題はない。
4.ミーティングのアジェンダを決め、事前に共有する
ミーティングの場所と日時が決まったら、ミーティングのアジェンダを決め、上司と部下とで事前に共有しておこう。
5.ミーティングが終わったらノートやテイクアウェイを共有する。
ミーティングを実施したらノートやテイクアウェイを共有しよう。テイクアウェイとは、ミーティングの内容と結果を短くまとめたものだ。テイクアウェイを共有し次のアジェンダを決める参考情報として活用しよう。
1on1ミーティングを成功させる3つのポイント
最後に1on1ミーティングを成功させるポイントを紹介する。
1.毎週必ず実施する
1つ目のポイントは、1on1ミーティングを毎週必ず実施することだ。上司部下共にスケジュールを守りお互いにキャンセルしたりしないことが重要である。
頻繁にキャンセルするとお互いのモチベーションとモラルが下がりかねない。最悪の場合、ミーティングそのものが事実上の休止に追い込まれてしまう可能性がある。
2.上司は聞き役に徹する
2つ目のポイントは、上司は聞き役に徹することだ。ヤフー株式会社では、1on1ミーティングは「部下のためのミーティング」であるとし、上司に対して「週に1度30分間、場所を確保し、部下の話を聞く」ことを求めている。
また部下に対しては「上司が途中で遮らずに真摯に話を聞いてくれたか」「高圧的になることなく話がしやすい雰囲気づくりを提供してくれたか」などの評価も押さえておきたい。
そのため上司から部下に一方的に話し続ける状態にならないように注意が必要だ。
3.部下自身に考えてもらう
3つ目のポイントは、アジェンダとその解決策について部下自身に考えてもらうことだ。1on1ミーティングではさまざまなアジェンダが話し合われるが、それらの多くは部下の仕事に関するものだろう。
例えば、技術的な課題をアジェンダにした場合、上司のほうで答を出すよりも部下に考えてもらうほうがよい。1on1ミーティングの主役は部下であり部下に自主的な行動を促すものでもある。
上司から部下に答えをいうのではなく部下が答えを出せるようにコーチングするのがポイントだ。
1on1ミーティングの効能を理解し活用していこう
1on1ミーティングは、アメリカにおいて特に人材の出入りが激しいIT企業で普及している傾向だ。しかし、人材の流動化が進むことが予想されている今後の日本でも普及が進む可能性が高いだろう。また日本においては、特に新入社員の離職率が高い中小企業などで活用できる可能性がある。
アメリカの著名投資家のウォーレン・バフェットも1on1ミーティングの信奉者として有名だ。投資会社バークシャー・ハサウェイという「大企業」のトップでもあるバフェットは、長年の経験から1on1ミーティングの効能をよくわかっているのだろう。
文・前田健二(ダリコーポレーション ライター)