D2Cブランドのリアル店舗進出は小売の原点回帰なのか?
(画像=GLOBIS知見録)

オンライン・ビジネスが進んでいるアメリカでは、D2C(Direct to Consumer)ブランドの競争激化が進み、今やオンライン通販から飛び出しリアル店舗を構える企業が増えつつある。大手企業との業務提携やD2Cブランド専門のデパート等も登場している。店舗の運営費用を抑えるために自社のECサイトで販売を行ってきたはずだが、小売業の原点回帰ともとれる新たな動きが出てきたようだ。D2Cブランドがリアル店舗を持つ目的は何なのだろうか?そして、今後どのような進化を遂げていくのだろうか?

D2Cとは?
D2Cとは、中間業者を使わず自社で企画から販売を行うことで、低価格で製品やサービスを提供するビジネスモデルだ。彼らは、情報発信からマーケティングや販売に至るプロセスすべてをデジタルで完結するのが一般的だ。OEM企業や広告代理店などのいわゆる仲介業者を挟まないので、製品にかかるコストを抑えられることが、メリットのひとつだ。

他にも製品やサービスのベネフィットや物作りにおけるこだわりといった情報をダイレクトに顧客へ伝えることができるため、顧客との関係を構築しやすいこと、さらに、顧客情報の収集や顧客の声を製品開発にダイレクトに活かせるといったメリットもある。

従来のビジネスモデルでは、高コストだった業務を自社で運営、またはデジタルに置き換えることで、低コストで起業が可能となり、多くのスタートアップが参入した。業種はアパレルが多く、他にもインテリア、食料品、日用品など多岐にわたる。

例えばアパレルであれば、こだわった材料を使用し高品質で低価格の製品を提供や生産コストを開示、他にも小児科医監修の安全なベビーフード、愛犬用にカスタムできるペットフードなどがある。D2Cブランドは、社会問題の解決や消費者が従来品に満足してない製品・サービスを見つけ出し、消費者の課題解決にアプローチするケースが多く見られる。

しかし、いかなる製品でも競合に容易に真似されては事業が長く続かない。顧客との高いエンゲージメントを構築するため、自社のブランド哲学やストーリー、製品を生み出すまでの背景等を明確に訴求していくこともD2Cブランドとして、成功する重要な要素である。

D2Cブランドの消費者と課題
主な消費者は、20代~30代のミレニアル世代だ。彼らは、触れたり、試着したりできなくても、SNSの画像やライブ配信などをみて購入することに抵抗がない。さらに有名ブランドに対しても関心が高くないので、ネット通販から生まれた無名のD2Cブランドであっても需要を満たせば、購入するというのがD2Cブランドの消費者の特徴だ。

D2Cブランドはオンラインを主戦場にしてきたが、最近は、リアル店舗を持つ企業も増えつつある。D2Cブランド増加の影響で、いっそうの差別化が必要な状況になっていることに加え、SNSの広告費高騰も影響している。店舗運営のコストがかかったとしても、事業拡大や新たな消費者獲得が必要なフェーズにきているのだ。

海外のD2Cブランド事例
D2C先進国であるアメリカの状況はどうなっているのだろう。Warby Parkerは、市場には高価格の商品しかないという課題意識から起業し、眼鏡を手頃な価格帯で提供している。オンラインでの購入に抵抗のある消費者の取り込みも視野に入れ、リアル店舗の展開を始めた。新たな消費者に、実際に商品に触れ、試すことで安心してもらったら、購入はオンラインでしてもらうショールーム的な役割の店舗を展開している。

Allbirdsは、履き心地の追求とサステイナブルな取り組みを重視し、セレブリティにも愛用されている靴のブランドだ。すでにアメリカでは、店舗を構えているが、リアル店舗を中国や日本にも出店し、海外の消費者を取り込む狙いだ。

日本のD2Cブランド事例
日本でもD2Cブランドは増えつつある。ファブリックトーキョーは、オーダーメイドの紳士服は高額で特別な人のものという概念を打ち破り、手頃な価格でオーダーメイドのビジネススーツを提供している。彼らは、大手企業の丸井と業務提携を行い、丸井の新業態である“売らない店”のひとつとして、消費者にブランド体験やコミュニティの場としてのリアル店舗を作った。

逆にリアル店舗を運営する側から、D2C領域に参入したのが、大手アパレルのレナウンだ。消費者の価値が所有価値から利用価値に変化したことや環境問題への関心の高まりなどで、ビジネススーツの市場は2007年以降、4割程度落ち込んでいた。その状況を打破するべく、レナウンは長年培った紳士服作りのノウハウを活かし、スーツのサブスクリプション・ビジネス「着ルダケ」を開始した。「着ルダケ」は、スーツのレンタル以外にもクリーニング、保管、提案、チャット接客サービスを行い、従来のビジネスでは接点のなかった新たな消費者にアプローチに成功し、リアル店舗以外での活路を見出した。

大手アパレルのワールドもポップアップ型百貨店、246st Marketを手掛けている。そこでは、リアルで見る機会の少ないD2Cブランドや若手クリエイターの作品の商品を期間限定で販売している。ワールドの持つ業界のネットワークや生産リソースを若い起業家に提供する、プラットフォーマーのような役割を果たしている。ワールド側にとっても売上不振の売り場を活用する役割としても意味がありそうだ。

丸井、レナウン、ワールドといった大手企業も様々な形でD2Cの領域に参戦している。アパレル不況でモノが売れなくなってきている今、事業拡大や新たな消費者獲得を模索する大手企業にとって、若い世代の消費者とのダイレクトな関係構築を強みとするD2Cブランドは魅力なのだ。

D2Cブランドのリアル店舗進出が意味するのは、小売の原点回帰ではなく、D2Cビジネスモデルの進化を意味していると考えられる。ブランドの世界観を体験するリアル店舗やオンライン上の買い物をサポートする存在のリアル店舗など、消費者の買い物する場所や買い物のスタイルの選択肢がますます広がりつつある。D2Cブランドも大手企業もその対応をせずに、モノを売るということは厳しい時代といえよう。

(執筆者:山本 知子)GLOBIS知見録はこちら