紛争鉱物とは?種類や課題、日本企業の対策などを解説
(画像=NewAfrica/stock.adobe.com)

鉱物はアフリカやアジアなどさまざまな場所で発掘される。しかし、取り扱ってはいけない鉱物も存在する。人々の暮らしを脅かす紛争鉱物だ。今回は紛争鉱物の概要をはじめ、種類や課題、国内外で実施されている対策などについて紹介する。

目次

  1. 紛争鉱物とは?
  2. 紛争鉱物によって起こる3つの課題
  3. 紛争鉱物の課題に対する4つの対策
  4. 紛争鉱物の課題と向き合う日本企業
  5. 紛争鉱物を減らす仕組みを整備

紛争鉱物とは?

紛争鉱物とは、紛争や人権侵害などが行われている状況の中で発掘された鉱物のことだ。

たとえば紛争に負けた側のメンバーが強制的に鉱物の発掘を命じられているケースや、特定の人種が差別を受けながら発掘をしている場合がある。

鉱物の種類

鉱物の種類は金やタングステン、タンタル、スズなどだ。

主にコンゴ民主共和国(および周辺国)で発掘された鉱物をさす。紛争鉱物の発掘によって発生した利益は、武装集団の資金源になる恐れがある。紛争鉱物だと気付かずに製品の材料として使われる場合があるから厄介だ。

紛争鉱物によって起こる3つの課題

紛争鉱物によって起こる課題を3つ紹介する。

課題1.紛争・戦争の勃発

紛争鉱物の利益が武装集団に流れると、メンバーの増加や武器の強化、PR活動の活発化などにつながるかもしれない。武装集団が精力的に動き出し、紛争・戦争の勃発につながることも珍しくない。

紛争や戦争が起きれば、戦地付近の国民が死亡したり貧しい生活を強いられたりする恐れがある。

課題2.人権侵害

鉱物を発掘させるために、奴隷化や人身売買、性暴力などの人権侵害が起こる恐れもある。

【奴隷化】

鉱物を発掘させるために奴隷化する行為だ。指示者の命令に従わないことは許されない。飲まず食わずの状況で働かされたり、休日や休憩が与えられなかったりする場合もある。過酷な労働環境が原因で死んでしまう人々もいる。

【人身売買】

鉱物を発掘する人員を集めるために人身売買が行われるケースもある。親が借金返済のために子どもを売るなど、理由はさまざまだ。

【性暴力】

指揮者が奴隷化している人間を強姦したり、奴隷化している人間がストレス発散のために別の奴隷を強姦したりすることがある。

コンゴ民主共和国は性暴力被害が多い地域として知られており、女性にとっては危険な場所だといわれている。

課題3.鉱石の価格下落

風評被害によって、一般的な鉱石の価格が下落してしまう恐れがある。たとえば、コンゴ民主共和国で採掘される鉱物が全て紛争鉱物に該当するわけではない。ルールを守って発掘された鉱石もある。

しかし国内に紛争鉱物が存在するおかげで、他国で採れた鉱石の価値まで下落する原因になる。関係ない業者の収益まで下がってしまい、貧困の助長につながるかもしれない。

紛争鉱物の課題に対する4つの対策

紛争鉱物の課題に対する対策を4つ見てみよう。

対策1.法律や規則の制定

世界では紛争鉱物に関する法律や規則が制定されている。

たとえばアメリカには、2010年7月に制定した金融規制改革法と呼ばれる法律がある。上場企業は紛争鉱物を使用した製造の有無に関して米国証券取引委員会に報告しなければならない。

EUでも紛争鉱物規則が2017年に公布された。紛争鉱物をEU内に流入するEU輸入者に対し、サプライチェーン・デューデリジェンス(サプライチェーンの様々な階層やパートナー企業を調査する)の義務を課している。

対策2.責任ある鉱物調達検討会の設置

責任ある鉱物調達検討会とは、2012年に電子情報技術産業協会(JEITA)によって設置された委員会だ。

紛争鉱物関連の取り組みを先導している団体であるRMI(世界中で300を超える企業・団体が加盟)と連携し、紛争鉱物を使用しないようにアピールしている。

そのほかに、紛争鉱物の理解度を高めるセミナーを開いた実績もある。紛争鉱物を使用してはいけない理由や紛争鉱物に関する世界の流れなどについて話された。紛争鉱物に関して知見がない人に勉強の機会を設けているのも特徴だ。

対策3.コンフリクト・フリー

コンフリクト・フリーとは、紛争鉱物となっていないことを示す証明だ。日本国内には、コンフリクト・フリーの証明がない鉱物を使用しないと宣誓している企業もある。

対策4.RMAPプログラムによる調査

RMAP(Responsible Minerals Assurance Process)プログラムは紛争鉱物の調査方法だ。

各社で調査すると莫大なコストや手間がかかる。RMAPプログラムでは、調査票を統一したり調査対象のサプライチェーンを分別したりして効率的に調査する。

紛争鉱物の課題と向き合う日本企業

日本では紛争鉱物に関する法律が定められていない。しかし、欧米で制定されている法律をもとに取り組む企業は存在する。紛争鉱物に関する取り組みを行う3社を紹介する。

企業1.リコーグループ

印刷機器を取り扱うリコーグループでは、紛争鉱物に関する取り組みを展開している。

鉱物に関して正しい情報提供を行っており、取り扱うトナー製品に紛争鉱物が使われていないことも確認済みとしている。リコーグループサプライヤー行動規範の中で「責任ある鉱物調達」の項目を設けてあり、紛争鉱物を使用しない旨が記入してある。

2013年より、リコーグループの製品に含まれる原材料や部品のサプライヤーに紛争鉱物の調査を行った。結果は公式サイトで紹介し、コンフリクト・フリーと認定した件数まで載せている。

そのほかにも、自動車企業と一緒に「コンフリクト・フリー・ソーシング・ワーキンググループ(CFSWG)」に参加して、紛争鉱物を使わないための取り組みも行っている。

企業2.日本電産コパル電子株式会社

スイッチや圧力センサなどを製造している日本電産コパル電子株式会社では、アメリカで制定された金融規制改革法のルールに則って紛争鉱物の対応に力を入れている。

公式サイトでは、人権侵害を助長する紛争鉱物の使用を禁止したり、もし調達材料に紛争鉱物が含まれていたときは排除に向けて適切に対処したりする方針を示している。

企業3.TDK株式会社

TDK株式会社は、受動部品やセンサ応用製品、磁気応用製品などを製造している。

2013年4月に制定された「紛争鉱物」に関するポリシーは、2019年1月に「責任ある鉱物調達」に関するポリシーへと改定された。紛争だけでなく人権侵害や環境汚染への加担を抑制していくことが狙いである。

紛争鉱物に関する対応窓口を完備しているのも特徴だ。顧客に対応する部署(本社品質保証機能)や取引先への調査をする部署(本社資材機能)まで設けている。

また、JEITAに所属して紛争鉱物に関する課題解決に取り組んでいる。たとえば製錬所支援チームとして活動したときは、製錬業者が紛争鉱物を扱うリスクについて考えた。

さらに啓発・広報チームでは、責任ある鉱物調達調査説明会において説明者としての役割を果たした。TDK株式会社は、幅広く紛争鉱物に関する活動をしている会社といえるだろう。

紛争鉱物を減らす仕組みを整備

鉱石の採掘によって苦しむ人達を減らすには、紛争鉱物をなくさなければならない。そのためには、紛争鉱物が出回らない仕組みを整える必要がある。採掘地や鉱石輸出業者を調査することで、紛争鉱物の取り扱いは減らせる。

鉱物の仕入れ業者も、紛争鉱物が含まれていないか明確にしておくべきだ。紛争鉱物の仕入れが発覚すると、評判が落ちて売り上げダウンにつながる恐れがある。

事業に悪影響を及ぼさないためにも紛争鉱物への理解を深めておきたい。

文・津田剣吾(フリーライター)

無料会員登録はこちら