今回は、ビジネスパーソンが成長するためのキーワードの一つとして、コンフォートゾーン(Comfort Zone)という概念についてお話します。コンフォートゾーンは、文字通り「居心地のいい場所」という意味です。結論を先に言えば、居心地のいい場所に居続けると人間は成長しません。
私たちがビジネスをして行く上では、3つのゾーンがあると言われています。1つ目がコンフォートゾーン、2つ目がラーニングゾーン、3つ目がパニックゾーンです。これらは、元GEのノエル・ティシーさんによって整理されたコンセプトです。
コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、パニックゾーンとは?
コンフォートゾーンにいると、自分が今持っているスキルセットで手の内に諸事を収めることができ、あまり汗をかく必要がありません。むしろ、皆にちやほやされたり、尊敬されたりすることもあるでしょう。他方、ラーニングゾーンは、コンフォートゾーンから一歩出たところに広がっています。要するに、未知の領域です。自分の今までのスキルセットがあまり通用しないため、冷や汗をかいて、いろいろなことを探していかなければなりません。そしてパニックゾーンは、ラーニングゾーンよりさらに外側に出たところに位置します。今までのスキルセットが通用しないばかりか、そこで何が起きているのかもよく分かりません。自分のコントロール外の世界で、ややもすると精神的な不調をきたしかねないゾーンです。
この3つの領域のうち、私たちビジネスパーソンが成長していくためには、ラーニングゾーンに身を置いた方がよいと考えられています。コンフォートゾーンでは成長しにくいということは、皆さん、感覚的に分かると思います。新しいスキルセットが必要とされないばかりか、自分の目と鼻の利くところで諸事を片づけることができてしまうためです。一方でパニックゾーンでも、ポジティブな学びを得ることはできません。ストレスのために胃が痛くなって精神的に疲れてしまうなど、生産的な学習を生まない環境であるためです。そこで、これら2つのゾーンの中間であるラーニングゾーンが、学習のためには最適なのです。
自分はどういう環境に身を置いていて、どこのゾーンにいるのか?
ここで最も大事なのは、自分が今どのゾーンにいるのか、的確に診断することです。その際には、相対的な比較によって自分のことを評価することになります。具体的には、自分が抱いているあるべき姿、過去の自分、他人の3者と、現在の自分を比較します。これらと比べて、今自分がコンフォートゾーンにいるのかどうかを判断していくのです。
この判断はなかなか難しいものです。あるべき自分のバーが低かったり、過去に十分な経験を積んでいなかったり、周りのメンバーにあまり恵まれていなかったりすると、「それなりに汗をかいている」という理由で、自分はラーニングゾーンにいると安易に判断してしまいがちです。
チャレンジを続けている人や、自分のスキルセットをどんどん刷新しながら頑張っている人が近くにいると、「自分はコンフォートゾーンにいるかもしれない」と考えることになるでしょう。そんな時に「自分はラーニングゾーンにいる」などと言うと、周囲からは「自分が描いているあるべき姿が低いのでは?」という目で見られてしまいます。どういう環境に身を置くかということが、重要なのです。
3つのモデルを理解することは、難しいことではありません。コンフォートゾーンから抜け出すことの重要性についても、成長を志すビジネスパーソンであれば素直に理解できると思います。ただし、自分がいるゾーンを冷静に判断することが難しいのです。
「自分はもうパニック状態なので、今、パニックゾーンにいます」と言っていた人が、他の人と比べてみて「自分は実はあまり汗をかいていませんでした。実は、コンフォートゾーンにいたようです」と、認識を変えることがあるのです。
自分がどこにいるのかを把握することができると、初めて、ではコンフォートゾーンから一歩踏み出すにはどうしたら良いのか、という話につながっていくのです。
※本記事は、FM FUKUOKAの「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容を、GLOBIS知見録用に再構成したものです。音声ファイルはこちら >>
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(執筆者:荒木 博行)GLOBIS知見録はこちら