地球上にはさまざまな生物が存在する。私たち人間も、その一種だ。
普段はあまり意識しないかもしれないが、ぜひ生物多様性に目を向けてほしい。生物多様性はあらゆる生物にとって重要なものだからだ。
今回は、生物多様性の重要性をはじめ、問題となる危機要因や対策となる取り組みなどについて解説する。
目次
生物多様性とは何か?
生物多様性とは、生き物や植物たちの個性やつながりをさす。この世に存在する生物は食物連鎖の仕組みにもとづいて生きている。人間は魚や卵、肉などを食べ、地球上に存在する生物や自然と関わっている。
人間以外の動植物にも生物多様性が存在する。ミツバチが花に受粉する行為や、海中で異なる生物が一緒に泳ぐのも生物多様性の一種だ。
生物多様性が重要な理由
生物多様性が重要な理由は、さまざまな範囲に影響を与えるものだからだ。
たとえば、生物多様性が乱れて生態系が崩れると、農作物が育たなくなって値上がりする可能性がある。食事を十分にとれない人も増え、健康を損なう人も現れるかもしれない。
生物多様性の3つの種類
生物多様性は3つのジャンルに分けられる。
ジャンル1.生態系の多様性
生態系の多様性は、さまざまな種類の自然が存在していることをあらわす。たとえば、海や川、森林、草原などが自然の例として挙げられる。
ジャンル2.種の多様性
種の多様性は、さまざまな種類の生物が存在していることをあらわす。人間のほかに犬や鳥、昆虫、植物、菌など、世の中には3,000万種類以上の生物が存在する。
ジャンル3.遺伝子の多様性
遺伝子の多様性は、同じ生物であっても遺伝子による違いがあることをあらわす。たとえば、人間も遺伝子によって見た目は異なる。背が高い人もいれば低い人もいるし、目や鼻、口の形も人によって違う。
生物多様性の5つの危機要因
生物多様性は5つの要因によって危機的状況に陥るという。
要因1.商業開発
商業開発では、建設やコンクリートの埋め立てなどが進む。
植物が枯れてしまえば、動物のエサが減る。エサが減ると、動物が市街地にエサを探しに来る。動物にはリスなどの小動物からクマなど大きな動物まで存在する。最悪の場合、人が動物に襲われてしまうことも考えられる。
要因2.生物の駆除や捕獲
商業開発が理由で生物を駆除する場合もあれば、売却目的で生物を捕獲するケースもある。
駆除や捕獲によって、今まで食べられていたエサが残ったり、別の生物が生息地を広める原因になったりして、生態系が変わるかもしれない。
要因3.自然環境の手入れ不足
自然環境を荒れたまま放置すると、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性がある。
たとえば、ゴミや荒れた竹林を放置することなどが該当する。自然の質が低下し、動植物の絶滅が危惧される。
要因4.外来種の持ち込み
持ち込まれた外来種は、山林などに放たれる恐れがある。放たれた外来種が、元々生息する動植物を食べるケースもあり得る。外来種の生息範囲が広がり、元々生息する動植物の居場所がなくなる可能性がある。
要因5.気候変動
地球温暖化などの気候変動も生物多様性を脅かす原因になる。たとえば平均気温が上がると、海面温度は上昇し、動植物の滅びる確率が増加することも考えられる。
また、集中豪雨や土砂災害などが頻発すれば、動物のすみかを奪ってしまうことになりかねない。
生物多様性に対する3つの取り組み
各国が生物多様性に関して危機感を持っている。
たとえば欧州委員会では、生物多様性を考えながら経済を維持していく流れを示した。そのほか、途上国や国際機関でも生物多様性に関連した取り組みが行われている。
取り組み1.生物多様性条約の施行
生物多様性条約は、1992年にブラジルで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」で署名が行われ、1993年に発効された国際条約だ。
190以上の国や地域で制定されている条約で、生物多様性の保全や持続可能な利用、遺伝資源に関する公正な利益配分などを目的としている。
取り組み2.UNDB-J(国連生物多様性の10年日本委員会)の設立
UNDB-Jは、2011年9月に設立された団体だ。2010年10月に開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で決まった「国連生物多様性の10年」を実現させるために誕生した。国連生物多様性の10年は2011~2020年の期間である。
UNDB-Jでは省庁や自治体、経済界などと連携し、生物多様性関連のフォーラムやセミナーなどを開いてきた。
そのほかにも、各地でミーティングを行ったり、マガジンやパンフレットなどを発行したりして、生物多様性の大切さを訴えてきた。
取り組み3.パートナーシップ活動の締結
生物多様性に関するパートナーシップ活動を締結している自治体もある。
たとえば、長野県では「人と生きものパートナーシップ推進事業」で、生物多様性に関連する団体(自治体や大学なども含む)と、自然問題に関心を寄せる企業のマッチングをしてきた。
また、福岡県は「福岡県生物多様性戦略」を策定し、行政や企業、団体などと連携しながら生物多様性を守っている。
生物多様性に関する活動を行う3つの団体
生物多様性に関する活動を行う団体を3つ紹介していく。
団体1.日本製紙連合会
日本製紙連合会は、紙やパルプ製造業などの発展を目的として立ち上げられた製紙業界の事業者団体である。
2014年6月20日に「生物多様性保全に関する日本製紙連合会行動指針」を作った。生物多様性に悪影響を及ぼさないための行動指針である。
たとえば、紙の原料となる木材の違法伐採を防いだり、生物多様性に配慮した伐採をしたり、森林の保全に貢献したりする行動指針などだ。
そのほか、省庁(経済産業省・環境省・林野庁など)や民間団体が実施している生物多様性関連の取り組みに、積極的に協力する方針も示されている。
団体2.日本旅行業協会
主に旅行業界の企業が加盟している団体だ。日本旅行業協会では、加盟企業の社員や家族などが生物多様性を維持するための活動を行っている。
たとえば2019年7月6日には、北海道地区でオオアワダチソウの駆除を行った。また、10月19日には、沖縄地区で海岸の清掃活動をした。
そのほか、エコツアーと呼ばれるプランを用意し、観光客が数日間かけて名所を回りながら自然について考えられるツアーを提供している。ツアーは、地元の動植物保全や文化尊重など、さまざまな視点で配慮されている。
団体3.プレハブ建築協会
プレハブ建築協会は、プレハブ建築の普及・発展やプレハブ住宅の品質向上・省エネルギー化などを目的に設立された団体だ。エコアクション2020にもとづき、生物多様性を維持するための活動を行ってきた。
代表的なのがカーボンニュートラルの推進だ。カーボンニュートラルとは、生活においてCO₂の排出と創出をプラマイゼロにすることだ。
自家発電を行って電気を使うときのCO₂排出を減らすことや、エネルギーを生み出すときのCO₂排出を減らすことなどは、カーボンニュートラルの取り組みといえよう。
そのほか、3R(リユース・リデュース・リサイクル)を意識した建築や、CO₂が排出されにくい素材を用いた建築など、生物多様性を壊さないための取り組みも行っている。
生物多様性を守るための行動を意識
生物多様性が変わると、生活環境が変わってしまうかもしれない。それを防ぐためにも、生物多様性を崩さないことが大事だ。
自治体や企業だけではなく、個人でも生物多様性を守るための行動はとれる。今一度、生物多様性について考えていきたい。
文・津田剣吾(フリーライター)