「下請けいじめ」の成果?コロナ禍でもトヨタ2兆円超えの黒字
(画像=BjörnWylezich/stock.adobe.com)

大手自動車メーカーの2021年3月期決算が出揃った。特に純利益の金額では、トヨタが相変わらず突出した数字を残した。しかし、コロナ禍においても業績が堅調であることから、「下請けいじめの成果」と揶揄する声も出ている。その批判は正しいのか。

自動車メーカー各社の2021年3月期の決算概要

まず2021年3月期(2020年4月〜2021年3月)の自動車メーカー各社の決算を紹介していこう。全ての企業が売上高を落としているが、最終損益は黒字の企業と赤字の企業に分かれている。

<自動車メーカー7社の2021年3月期の売上高と最終損益>

自動車メーカー売上高前年比最終損益前年比
トヨタ27兆2,145億円8.9%減2兆2,452億円10.3%増
ホンダ13兆1,705億円11.8%減6,574億円44.3%増
日産7兆8,625億円20.4%減▲4,486億円-
スズキ3兆1,782億円8.9%減1,464億円9.1%増
マツダ2兆8,820億円16.0%減▲316億円-
スバル2兆8,302億円15.4%減765億円49.9%減
三菱自動車1兆4,554億円35.9%減▲3,123億円-

※出典:各自動車メーカーの決算短信から

トヨタ自動車:コロナ禍でも増益、最終利益2兆円超

トヨタはコロナ禍でありながら、2兆円を超える純利益を確保した。売上高を落としたものの、前期より10.3%増の増益という結果だ。諸経費の低減努力で700億円のコスト削減もあり、1,500億円の増益効果を生み出している。

ちなみに今期にあたる2022年3月期の通期(2021年4月〜2022年3月)は、売上高は30兆円、最終損益は2兆3,000億円の黒字を見込んでいる。達成できれば、それぞれが過去最高の数字となる。

日産自動車:2期連続の赤字、厳しい経営状況が続く

厳しい経営状況が続いている日産では、2018年3月期に7,469億円あった黒字が、翌期は3,191億円までしぼみ、2020年3月期には6,712億円の赤字に転落した。そして2021年3月期は4,486億円の赤字となり、2期連続で赤字を計上する結果となってしまった。

2022年3月期の通期業績も600億円の赤字を見込んでいる。

三菱自動車:赤字額3,123億円、日産自動車に次ぐ規模

三菱自動車の赤字額は3,123億円で、日産に次ぐ大きさとなった。赤字は2期連続だ。販売台数は前期から比べて29%減となり、力を入れているASEAN(東南アジア諸国連合)地域での販売が回復しなかったことが響いた。

ただし、2022年3月期は黒字に転換する見通しだ。販売台数の回復などにより、100億円の最終損益を見込んでいるという。

増益のトヨタに「下請けいじめ」との声

このように、自動車メーカー7社の決算の結果を比較してみると、赤字を計上した企業の経営の厳しさが目立つが、一方でトヨタ自動車の2兆円超の黒字も際立っている。ホンダも6,574億の黒字を残しているが、金額でいうとやはりトヨタ自動車が圧倒的だ。

コロナ禍において2兆円超の黒字を残せた理由はさまざまだが、その1つに原価改善や諸経費の低減努力があることは先ほど説明した通りである。しかし、この原価改善や諸経費の低減努力に関し、「下請けいじめだ」と批判する声も漏れ聞こえてくる。

では、トヨタは本当に下請けいじめをしているのか。そもそも、自動車業界における「下請けいじめ」とは、下請けの部品メーカーなどに対して価格引き下げを要求することを指す。確かにトヨタもコロナ禍において価格の引き下げを一部の部品メーカーに求めた。

日経新聞の報道によれば、通常の価格見直し時期の4月でも10月でもなく、2020年7月ごろに引き下げを要求したという。これは異例のことだ。トヨタに納品する際の価格が引き下げられれば、下請け企業の業績は当然、短期的には悪化することになる。

しかし、このような引き下げ要求を「いじめ」と呼んでいいかは、微妙なところだろう。なぜか。それはトヨタ本体と下請け企業は一蓮托生であり、トヨタの業績と下請け企業の業績は比例的な関係にあるからだ。

トヨタ本体の業績が悪化して、ほかの自動車メーカーとの競争力が低下していくことになれば、結果として下請け企業もダメージを受ける。つまり、長い目でみれば、いま下請け企業が値下げ要求に応じることは、結果として自社の将来の業績を守ることにもつながる可能性があるわけだ。

「下請けいじめ」と呼ぶかは自由だが・・・

トヨタの下請け企業に対する価格引き下げ要求を「下請けいじめ」と呼ぶかどうかは、究極のところは個人の自由ではある。しかし、トヨタ本体も下請け企業に支えられている状況の中、下請け企業の経営にマイナスとなる悪手をあえて打つはずはない。最も望ましくないのは、トヨタ本体が競争力を失うことだ。

実際のトヨタの考え方はトヨタの経営陣でなければ分からないが、下請け企業に対する価格引き下げ要求は、トヨタと下請け企業がともに生き残るための最善策だったと考える方が自然なのではないか。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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