これからの事務所経営には、職員と事務所が信頼しあい、
相互に成長をサポートする関係、つまりエンゲージメントが重要となります。
今回は、プロジェクトチームで組織改革に挑む
TOMAコンサルタンツグループの取り組みに迫ります。
新たな時代に合わせてTOMAをシフトせよ
――まずは、TOMAコンサルタンツグループが目指す組織像を教えてください。
陣内 昔から、「明るく・楽しく・元気に・前向き」という経営理念を掲げていて、
この理念をベースにしたチームワークを大切にしています。
士業は専門性が高い仕事なので、会計事務所なら一人が何十件も担当を持って、
自分のやり方で仕事をしているのが従来のスタイルでした。
しかし、それなら独立して一人でやればいい。
私たちは、士業の枠にとどまらず、仲間として一緒に何かを成し遂げていきたい。
「中小企業の経営を成功させる、社長や社員を幸せにする」
という信念を共通の価値観として、
共にお客様を支援していけるような組織にしたいと考えています。
特に現在、中小企業は非常に厳しい状況です。
そこで、「いかに新たなビジョンを持って、
そこに共感してくれる社員と一緒に働きがいのある仕事ができるか」、
「みんなが満足して働ける会社をつくれるか」
というのをテーマにしています。
――そういった組織を目指すうえで、課題になっていたことはありますか?
陣内 近年、士業の枠にとどまらない業務を増やしていますが、
従来型の業務も忙しいのが現状です。
社員個人個人のマインドも、経営上の施策も、
改革したくても既存事業が忙しいというイノベーションのジレンマがありました。
さらに、デジタルシフトが起きて、会計業界でも若い世代の先生たちがすごく伸びてきた。
ビッグと新興事務所の間で、
自社のポジショニングを考え直さないといけないと感じたのです。
市丸 また、これも士業事務所に多い課題なのですが、
新人が入っても「仕事は先輩の背中を見て覚えなさい」という指導だったりします。
当社も以前は即戦力の中途採用のみでしたから、
教育の必要性はそれほど感じていませんでした。
しかし、5〜6年前から新卒採用を始めたことで、育成体制を見直す必要が出てきました。
TOMAのマインドや価値観の共有、
上司が部下をきちんとフォローできる体制をつくらなければいけないと感じたのです。
陣内 当社は現在約200名の規模ですが、
コスト的な兼ね合いから、人事部や人材開発部門を置いていません。
そこで、2017年に『SHIFT TEAM』(シフトチーム)というプロジェクトを立ち上げました。
代表である市原和洋直轄のチームです。
「TOMAをシフトせよ」というキャッチフレーズのもと、
社内向けに10年後のビジョンとして『シフトビジョン』を掲げて、
社内体制もサービスも、新しい時代に即したものにシフトしようと活動しています。
他部門との交流で 自社の価値を再確認
―― SHIFT TEAMは、どのような活動をしているのでしょうか?
市丸 大きく2つのチームがあります。
1つは、人材育成の管理や新卒社員の対応などを行う社内対応チーム。
もう1つは、私たちの強みを活かしたお客様向けのサービスを考えるチームです。
それと並行して、社内にシフトビジョンを浸透させる活動を継続的に行っています。
SHIFT TEAMで発案した企画は代表がチェックし、
その場で決裁されるものもありますし、大きなものは経営会議にあげられます。
――実際に始まった取り組みには、どのようなものがありますか?
市丸 人材育成に関しては、半年に一度、一般的なビジネススキル研修を受講し、
必ず上司がフィー ドバックするようになりました。
社員はそれぞれ優秀ですが、
足りない部分もありますから、それを埋めるのが目的です。
また、他部門の仕事に同行して体験するということを仕組み化しました。
これまでも他部門の仕事を経験することを推奨はしていましたが、
若手社員からはなかなか言い出しにくいようでした。
ですが、他部門の仕事を知ることは、長い目で見ると役に立つはずです。
陣内 当社は、税理士をはじめ、司法書士、社会保険労務士、行政書士など、
士業のワンストップサービスを提供できる事務所であることが強みであり特徴です。
他部門の仕事に同行することは、知識や経験が増えるだけではなく、
TOMAで働くことの価値、ワンストップの価値も感じてもらえるのではないかと思います。
ほかにも、IT部門と士業部門のコラボ商品なども、
SHIFT TEAMが中心となって企画しています。
市丸 各チームのメンバーは5〜6名で、
社歴や部門、意欲などのバランスを見て、毎年違う人を選んでいます。
現在のメンバーは、特に全社的な視点で意見をしてくれる人が多く、
上司に聞くと、部門内での発言も前向きになったなど、良い変化があるようです。
また、「管理職の人たちが、若手社員のことを一生懸命考えていることがわかった」
と話してくれる社員もいます。
システムを使って社員に光をあてる
――中途社員に対しては、価値観を共有したり、
マインドセットをする取り組みはありますか?
陣内 そこが課題なんです。
同じ業界にいた人でも、やり方や価値観は全然違います。
新卒は時間と手間をかけて育てていくことで変わりますが、中途は難しい。
これは業界特有かもしれませんが、
非常にシャイで、自分から組織になじめない人も多いんです。
また、 当社のマネージャーは全員プレイングマネージャーなので、
こまめに部下のケアをすることまでは、なかなか手が回らなかったのです。
そこで2019年に、アックスコンサルティングの「MotifyHR」を導入しました。
特に、オンボーディングコースという機能に興味がありました。
これは、例えば入社1週間したら、
「他部署の人と食事に行きましたか?」というようなアラートが出るんですね。
すると、上司や教育担当者が気づいて声をかけてくれます。
アプリからリマインドがくるのが便利だな、と思ったんです。
――ほかにはどのような機能を活用していますか?
市丸 社内のお知らせを投稿するニュースフィードはよく使っています。
特に、社員紹介が好評です。
毎月、月間表彰があるのですが、
受賞者にインタビューして記事を投稿しているんです。
コロナ禍になってから全員の前で表彰される機会がなくなってしまったのですが、
表彰は、頑張った人を褒めてあげて、みんなが「次は自分が」と励みにできる機会なので、
受賞者にちゃんと光をあててあげたい。
在宅勤務で社員同士もあまり会えない状況なので、
インタビューでは意外な一面を引き出したり、
未来の展望を話してもらうことを心がけています。
陣内 共通の趣味があったりすると、話すきっかけになりますよね。
当社のビジネスモデルからしても、 専門分野が違う人をどうつなぐかが大切。
そのためには、気軽に相談できる風土をつくることが重要です。
あとは、毎日の体調チェック機能やエンゲージメントサーベイは、
社員とコミュニケーションを取る際に参考にしています。
日々の言動などと合わせて観察していると、
もともと性格的に低めの点数をつけるタイプなのか、
本当にモチベーションが落ちているのかがわかります。
何もない状態で上司に「大丈夫?」と確認しても、
とりとめのない話で終わってしまうことがあるのですが、
データがあることで問題が見え、
SHIFT TEAMから上司に働きかけることができるのです。
会社や仕事を通じて仲間をつくってほしい
――従業員のエンゲージメント向上のために、
これから取り組んでいきたいことはありますか?
市丸 まずはマネージャーには人に興味を持ってもらうことが大事だと考えています。
まだまだこまめに部下のケアができているとはいえませんが、
時間をかけなくても、日々のちょっとした挨拶や声かけだけでも変わってくると思うんです。
私たちも、MotifyHRなどを活用しながら働きかけていきたいですね。
陣内 業界的には資格を取ったら独立するという世界ですが、
私は本気で「定年まで働いてほしい」と思っています。
そのために、働きがいがあって、チームで仕事をするのが楽しいという会社にしたい。
仕事を通じて仲間を持ち、いろいろな専門家と付き合って仕事の幅を広げてほしい。
TOMAのビジネスのコンセプトは、社員のやりがいのためのコンセプトでもあるのです。
シフトビジョンは、2029年がゴール。
新卒で入った社員が、10年後にTOMAのマインドを持ったマネージャーとして
活躍できるように教育しているつもりです。
少しずつ前進していますが、まだ改革途中。改善しながら継続していきます。
※月刊プロパートナー2021年2月号より抜粋
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- プロフィール
1999年入社。多くの顧問先の事業承継対策、自社株対策、相続税対策などのコンサルティングサービスを展開。2017年より現職。同社のビジョン達成のため、社内の組織改革を率いる。
2013年入社。行政書士、人材開発アドバイザー、 知的資産経営認定士。相続、許認可関係、会社法関係など法務のエキスパートとして活躍。社内改革プロジェクトチームの責任者も務める。