ヒューマンエラーはなぜ起こる?具体的な対策を徹底解説
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人が業務を行ううえで行ったミスは「ヒューマンエラー」と呼ばれる。ヒューマンエラーは時に大きな事故や損失の原因となり得るため、なるべく重点的に対処することが重要だ。

「気の緩みがすべての原因」と考える人は多いかもしれないが、実はヒューマンエラーにはあらゆる原因があり原因によって最適な対処法も変わってくる。

そこで今回は、ヒューマンエラーの種類や原因、対策について網羅的に解説していく。

目次

  1. ヒューマンエラーとは
    1. 労働災害の8割がヒューマンエラー
  2. ヒューマンエラーの種類2つ
    1. 1.ついつい・うっかり型
    2. 2.あえて型
  3. ヒューマンエラーの原因
    1. すべてのエラーに共通する原因
    2. 認知エラーを引き起こす原因
    3. 判断エラーを引き起こす原因
    4. 行動エラーを引き起こす原因
    5. 記憶エラーを引き起こす原因
    6. あえて型のエラーを引き起こす原因
  4. ヒューマンエラーをなくす5つの手順
    1. 手順①:過去に発生したヒューマンエラーを整理する
    2. 手順②:未対策のヒューマンエラーを特定する
    3. 手順③:原因を検討する
    4. 手順④:対策を決定する
    5. 手順⑤:対策を実施する
  5. ヒューマンエラーの具体的な対策4つ
    1. 1.人が関わる余地を減らす
    2. 2.あらかじめエラーの原因を除去する(間違えにくい仕組みを構築する)
    3. 3.エラーが生じた際に、すぐ発見できるようにする
    4. 4.間違いが生じた際の影響を最小限に抑える
  6. ヒューマンエラーを減らすために様々な視点で対策を考えよう

ヒューマンエラーとは

ヒューマンエラーとは、意図しない結果を引き起こす人間の行動を意味する。本来行うべきではない行動を人間が行うと生産性や品質の低下といった業績に直結する悪影響が生じやすくなる。

またヒューマンエラーは、健康や生命に重大なダメージを与える事故のきっかけとなることもあるだろう。

労働災害の8割がヒューマンエラー

厚生労働省の「労働災害原因要素の分析」によると労働災害の8割に人間の不安全な行動(ヒューマンエラー)が含まれているとのことだ。そのため業績の低下や事故の防止を実現するためには、ヒューマンエラーを減らす取り組みが不可欠である。

ヒューマンエラーの種類2つ

厚生労働省が公表している「生産性&効率アップ必勝マニュアル」によるとヒューマンエラーは、「ついつい・うっかり型」「あえて型」の2種類に分けられる。この章では、それぞれの概要や具体例を解説していく。

1.ついつい・うっかり型

本人が意図せずに発生させてしまうヒューマンエラーの総称である。ついつい・うっかり型のヒューマンエラーは、さらに以下の4つの種類に細分化されている。

・認知エラー:作業やマニュアルの見間違えや上司の指示の聞き間違えなど、認識違いで生じるミス
・判断エラー:現在の状況や次に行うべきことについて間違えて判断することで生じるミス
・行動エラー:方法や手順を間違えることで生じるミス
・記憶エラー:特定のルールや作業を覚えられない、思い出せないことなどで生じるミス

2.あえて型

あえて型とは、本人がある程度意図した行動がきっかけで生じるヒューマンエラーの総称だ。例えば「決まりごとを守らない」「横着をする」「手抜きする」などの行動がきっかけで生じたエラーは、あえて型のヒューマンエラーに該当する。

ヒューマンエラーの原因

冒頭で解説した通りヒューマンエラーの原因はさまざまだ。ヒューマンエラーの原因は、エラーの種類によって変わってくる。
ご自身の会社で生じているエラーと照らし合わせながら何が原因となっているかを考えてみてほしい。

すべてのエラーに共通する原因

すべてのヒューマンエラーに共通する原因としては、以下の3点が考えられる。

・作業で疲労が蓄積している
・作業環境の劣悪さによってストレスが蓄積している
・長時間または過度の集中が要求されるなどの理由で注意がうまく働きにくい

認知エラーを引き起こす原因

認知エラーを生じさせる原因は、主に以下の3点である。

・復習や反復しないことで記憶内容が薄れている
・作業内容やマニュアルが覚えにくい(情報量が多い、意味のない情報が羅列されているなど)
・作業内容やルールを思い出す手がかりが不足している

判断エラーを引き起こす原因

判断エラーは、主に以下4つの原因で生じると言われている。

・マニュアルや上司の指示など情報の質が低い(情報が誤っている、情報に漏れや不足、曖昧さがある)
・情報を伝える側の発信力が弱い(マニュアルの文字が小さくて読みにくい、上司の声が小さくて聞き取りにくいなど)
・情報を受け取る側の受信力が弱い(近眼で文字が読みにくい、耳が聞こえにくいなど)
・ルールや指示を与える環境に障害がある(暗くて文字が読みにくい、話し声がうるさくて指示が聞き取りにくいなど)

行動エラーを引き起こす原因

行動エラーを生じさせる原因は、主に以下の4点である。

・作業やルールの目的や目標、予定などが不明確(上司の指示不足など)
・現状の把握や将来の予測が困難な業務内容である
・周囲の影響や思い込み、能力の過信により、正しい判断がしにくくなっている
・作業を行う際の評価基準や行動基準などに不備がある(作業マニュアルが用意されていないなど)

記憶エラーを引き起こす原因

記憶エラーは、作業で用いるツールや機器などの操作性が悪いことで生じやすい。操作性の悪さに直結する具体的な原因は以下の2つである。

・機器自体が扱いにくい(持ちにくい、つかみにくいなど)
・機器の配置や操作方法、間隔などが人間の自然な操作に合わない

あえて型のエラーを引き起こす原因

あえて型のヒューマンエラーは、主に以下に挙げた3つの原因で引き起こされる。

・職場全体でルールや法令を遵守する意識が不足している
・働いている人の間でルールや法令の内容や必要性が理解されていない
・ルールや法令について理解してはいるものの納得していない

ヒューマンエラーをなくす5つの手順

ヒューマンエラーをなくすためには、手当たり次第ではなく正しい順序を踏んで対策を講じることが重要である。具体的には、以下の5つの手順に沿うことでスムーズにヒューマンエラーをなくすことが期待できるだろう。

手順①:過去に発生したヒューマンエラーを整理する

まずは、過去に発生したヒューマンエラーを一度すべて洗い出すことから始める。なおこのプロセスでは、実際に事故や損失につながったミスだけでなく「ヒヤリハット」も洗い出しておくことが重要だ。

ヒヤリハットとは「ヒヤリ」や「ハッ」となるような事故や損失につながる直前の現象を意味する。

例えば「機械の誤動作で指をケガしそうになった」という現象などが当てはまる。

手順②:未対策のヒューマンエラーを特定する

次に洗い出したヒューマンエラーの中からまだ対策していないものだけを特定する。すでに対策済みのエラーを取り除くことで費用や時間、労力を無駄にせずにピンポイントで問題を解消できるだろう。

手順③:原因を検討する

未対策のヒューマンエラーを特定したらミスが生じた原因を検討しよう。原因を検討する際には、ヒューマンエラーが属する種類を特定するとより的確に原因を判断できるようになる。

手順④:対策を決定する

原因が判明したら具体的な対策や実施するスケジュールなどを決定する。具体的な対策については、次章で解説する。

手順⑤:対策を実施する

対策を決定したあとはそれを実行に移すのみだ。なお対策を実施するにあたっては、担当者や実施日、得られた効果などをしっかり記録しておこう。

対策のプロセスや結果をしっかりと記録しておくことで施策が結果につながったかを一目で把握できる。また万が一同じエラーが生じた際に迅速に対応できるようになるだろう。

ヒューマンエラーの具体的な対策4つ

最後にヒューマンエラーをなくすための具体的な対策を4種類紹介する。ヒューマンエラーをなくす具体策を知りたい人はぜひ参考にして欲しい。

1.人が関わる余地を減らす

まず根本的な対策として人が関わる余地を減らすことが考えられる。ヒューマンエラーは、人間によって引き起こされるため、関わる余地を減らせば必然的にミスは減少するだろう。

具体的には、人が行っていた作業を機械に行わせる施策が有効である。例えば製品の製造や加工を手作業ではなく機械で行えば誤操作などによる事故を防げるだろう。

確実性の面では非常に有用な手段であるものの機器の導入に多額の費用が生じる傾向があるため注意が必要である。

2.あらかじめエラーの原因を除去する(間違えにくい仕組みを構築する)

2つ目の対策は、あらかじめ人が間違えにくい仕組みを構築しエラーの原因を根本から除去するというものだ。例えば作業を覚えにくいことでヒューマンエラーが生じるならば作業自体を簡単なものに変更したり作業量を減らして覚えやすくしたりすることが効果的である。

飲食店を例にすると一度に注文を受ける量を減らすことで顧客が注文したメニューを間違えるリスクを減らせるだろう。

またマニュアルを整備したりグループウェア(社内SNSなど)でスキルを高め合ったりするなどの施策も考えられる。対策によっては比較的費用や労力をかけずに済むため、予算に余裕がない企業には非常におすすめである。

3.エラーが生じた際に、すぐ発見できるようにする

どれほど事前にミスの原因を除去しても、人が関わる以上ヒューマンエラーを100%なくすことはできない。そこで重要なのが、「ヒューマンエラーが生じた際にすぐに発見できるようにする」という考え方である。

例えば複数の作業者で業務内容を点検したり顧客に注文内容を確認したりするといった対策を行えば間違いをすぐに発見・修正することが可能だ。

またミスを自動で表示・指摘してくれるツールを導入するのも良いだろう。

4.間違いが生じた際の影響を最小限に抑える

ここまで解説した対策をすべて行っても想定外のヒューマンエラーが生じる可能性は残っている。万が一ヒューマンエラーが生じた際に備えてエラーによる影響を最小限に抑える対策を施しておくことも重要だ。

例えば発注ミスで販売する商品を多く仕入れてしまった場合には「通常よりも安く販売して販売数を増やす」「従業員に配って廃棄する事態を回避する」といった対策が考えられる。

ヒューマンエラーを減らすために様々な視点で対策を考えよう

ヒューマンエラーの原因は、記憶の薄れや不十分な指示などさまざまである。ヒューマンエラーを的確に減らしていくには、原因を特定したうえで的確な対策を講じることが大切だ。
ヒューマンエラーを減らすうえで最適な対策は、業務内容や保有するリソースなどによって変わってくる。

経営陣や現場の従業員が一丸となってあらゆる角度から対策を考えてみよう。

また対策を実行した際には「ヒューマンエラーを減らせているか」についてしっかりと観察・記録することも忘れてはならない。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)

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