鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

リスクアセスメントは、安全衛生が問われる現場に求められるプロセスだ。しかし、新型コロナウイルスの感染リスクが日常的に潜む今、業界を問わずに必要となっている。

今回はリスクアセスメントの概要をはじめ、目的や手法、事例などを簡単に解説する。

目次

  1. リスク管理に欠かせない「リスクアセスメント」とは?
    1. リスクには良い現象も含まれる
  2. なぜリスクアセスメントが必要なのか? 2つの目的
    1. 目的1.リスク対策の効率化
    2. 目的2. リスクの優先順位を明確化
  3. リスクアセスメントの手法と基本的な流れ
    1. ステップ1.前提条件の明確化
    2. ステップ2.リスクの特定
    3. ステップ3.リスクの見積
    4. ステップ4.リスクの優先度を設定
    5. ステップ5. リスク対策の検討
    6. ステップ6.リスク対策の実施
  4. リスクアセスメントの業種別のポイント
    1. 製造業は「現場の安全性」が優先事項
    2. 建設業は案件ごとの違いに目を向ける
    3. 医療業は特有のリスクへの対処が必要
  5. リスクアセスメントの事例
  6. コロナ対策でもリスクアセスメントを実践
  7. リスクアセスメントのよくある質問集
    1. Q1.リスクアセスメントはどういう意味? 別名は?
    2. Q2.リスクアセスメントの目的とは?
    3. Q3.リスクアセスメントの進め方は?
    4. Q4.リスクアセスメントをすべきタイミングは?
    5. Q5.リスクアセスメントで最初に取り組むべきことは?
    6. Q6.リスクアセスメントのメリット・デメリットを知りたい
リスクアセスメントとは?目的や手法、事例を簡単に解説
(画像=wirojsid/stock.adobe.com)

リスク管理に欠かせない「リスクアセスメント」とは?

リスクアセスメントとは、リスクの特定・分析・評価といった一連のプロセスである。

リスク管理では、リスクを定量的に測定すると同時に、許容値を設定する。リスクの度合いが許容値を超えたとき、軽減あるいは回避の意思決定と対策を講じ、安全な状態を実現するのだ。

リスク管理の意思決定に必要なプロセスがリスクアセスメントに該当する。

リスクには良い現象も含まれる

リスク=危険という認識が一般的だが、実態は異なる。

リスクは、将来に何か悪い事象が起きる可能性を指すが、具体的な意味は場面によって変わる。

経済学では、事象の変動に関する不確実性を意味し、良い現象も悪い現象もリスクの対象に含める。つまり、リスク=危険とは限らない。

労働安全衛生法では、リスクを「危険性又は有害性等」と表現している。労働災害でのリスクは、人にとって良くないことが起きる可能性だ。

仕事で負傷または疾病が発生する確率と、発生した負傷または疾病の程度で測る。

なぜリスクアセスメントが必要なのか? 2つの目的

リスクアセスメントの目的は主に2つある。

目的1.リスク対策の効率化

リスクは日常に存在していることを誰もが頭でわかっているが、なかなか向き合おうとしない。特に、目先の利益にとらわれると、不都合な情報や都合の悪い事実を見て見ぬふりをしてしまう。

企業であれば、「前期比プラス10%の売上を達成」といった目標を掲げると、それ以外は疎かになりがちだ。また、根拠が不明確な他人の言説に頼ると、自ら考えなくなる。

しかし、日常に潜む危険要素を取り上げ、顕在化しうるリスクを特定・評価すれば、状況をある程度コントロールできる。リスクが顕在化しても、反省して次につなげられる。

すべてのリスクに対応するのは現実的に無理だが、安全ラインを決めておけば効率よく対策を講じられるほか、残留するリスクにも意識を向けられる。

目的2. リスクの優先順位を明確化

すべてのリスクは同じではない。「受入可能なリスク」「許容可能なリスク」「許容不可能なリスク」がある。

子どもの朝の登校で考えてみよう。「横断歩道で転んでかすり傷を負う」が受入可能なリスク、「転んで骨を折る」が許容可能なリスクだとするなら、「交通事故に遭って死ぬ」は許容不可能なリスクである。

受入可能なリスクは、顕在化しても微細な影響で留まるので、広く受け入れられる。すべてのリスクを最も軽微なレベルにできれば理想だが、対策コストの点からすべてをコントロールするのは難しい。

「信号を必ず見る」「左右を見てから渡る」「保護者と一緒に渡る」といった対策を講じれば、許容不可能なリスクを軽減できる。対策を講じてリスクが顕在化しても、死なずに済めば許容可能になるというわけだ。

このようにリスクアセスメントでは、優先順位を明確にしてリスクをコントロールしていく。

リスクアセスメントの手法と基本的な流れ

リスクアセスメントの手法を見てみよう。わかりやすくするために、高いところから物が落ちて人に当たる事故を例にして考える。

ステップ1.前提条件の明確化

リスクアセスメントは、作業と危険源の関係を調査するプロセスだ。対象者や作業などに関して前提条件を洗い出す

対象者は家の中の人だが、それだけでは不十分だ。幼児や小学生、高齢者など、具体的に把握する。

対象者によって、リスクの許容に関する判断が変わるからだ。

作業については、物が落ちるきっかけだと考えられる。例えば、台所の上の棚にある物が落ちるのは、シンクの上に乗ったときかもしれない。

タンスの上から物が落ちるのは、子どもがタンスの引き出しを階段代わりにしてよじ登ったときかもしれない。

そのほか、作業でなくても地震といった自然災害で物が落ちる恐れもある。

ステップ2.リスクの特定

リスクの特定は危険要因を把握する作業だ。高いところにある物がリスクとして特定できるが、もう少し具体的に検討しなければならない。

高さの度合いや対象の重さなどまで考える。たとえば、「母親の身長よりも高いところに置かれている1㎏以上の物」といった具合に特定するのが理想だ。

ステップ3.リスクの見積

特定されたリスクごとに危険性を見積もる。物と関わる頻度や、物の重さ・形状といった要因まで考えていく。

見積もるのは、トラブルが発生する可能性だけではない。実際に危険が発生したときの負傷や疾病について、被害の度合いまで見積もる。

台所やリビングにある物には頻繁にかかわるが、物置にある物にはあまり関わらないだろう。つまり、前者のほうが危険性は高い。

また、落ちてくる物がゴムボールのように柔らかければダメージは小さいが、大きな壺のように硬くて重いなら頭を打って重傷を負ってしまう。つまり、後者のほうが危険性は高まる。

このように、観点によってリスクが変動することを忘れてはならない。

ステップ4.リスクの優先度を設定

リスクの見積もりにもとづいて、対策の観点からリスクの優先度を設定する。たとえば、利用頻度の低い物置は優先度が低いが、利用頻度の高いリビングや台所は優先度が高い。

また、落ちてくる物が柔らかいのなら優先度は低いが、硬くて重い物なら優先度は高くなる。

ステップ5. リスク対策の検討

優先順位が決まったらリスク対策を検討する。最初に考えるのはリスク要因の除去だ。危険源となる物を小さくしたり、除去したりする。

硬くて重い物で重傷を負うリスクがあるなら、タンスの上には何も置かない。台所の高い棚に複数の皿があるなら1枚だけにする。

次に、リスク要因との関係を許容したうえで、事故が起きる可能性を減らす。リスク要因の多くは除去できないことが多いからだ。

例えば、台所の高い棚にある皿は、別の場所に置くと不便になるので移動しづらい。その場合、扉にストッパーを設置してリスクを軽減する。

また、リスクへの意識を高めることも重要な対策だ。危険の発生頻度が低いと、リスクに対する注意が薄れてしまうかもしれない。

しかし、「物置の高いところから物が落ちるかも」という意識があるだけでも、危険を回避できる可能性は高まる。

ステップ6.リスク対策の実施

最後に、検討したリスク対策を実際に講じて、改善すべきポイントがあれば改善する。状況を追跡して評価することも大事だ。

また、評価内容を現場の関係者や関係部署と共有することも欠かせない。

リスクアセスメントの業種別のポイント

事業活動に係るリスクは、業界や業態、会社の規模などによって異なる。ここからはリスクアセスメントのポイントを業種別にまとめたので、計画を立てる際の参考にしてほしい。

製造業は「現場の安全性」が優先事項

製造業に潜むリスクとしては、転倒や転落、はさまれなどの事故が挙げられる。作業員の労災が多い業種なので、現場の安全性を向上させることが優先事項になるだろう。

近年では従業員の位置情報を知らせるシステムなど、IT化によって安全性を向上させる例も増えてきた。簡単な施策(労災グッズやルール整備など)だけで現場環境が改善されない場合は、新しいシステムの導入も検討したい。

建設業は案件ごとの違いに目を向ける

建設業も、墜落や激突などの事故リスクが高い業種である。競争激化によってコストをかけにくい業界ではあるが、だからこそ他社との差別化を図るために、徹底した安全対策を心がけたい。

また、シンプルな作業が多い製造業とは違い、建設業は案件ごとに業務内容やプロセスが異なる。その点にも留意しながら、設備や人材を慎重に配置する必要があるだろう。

医療業は特有のリスクへの対処が必要

医療業は特有のリスクが多く、例としては化学物質による健康被害や、ウイルス・細菌の感染などがある。また、現場で働くスタッフは生活スタイルが崩れやすいため、勤務管理のシステムも見直すことが重要だ。

ほかにもメンタルヘルスケアなど、医療業では幅広いリスクアセスメントが求められる。

リスクアセスメントの事例

日本では、2006年4月に改正労働安全衛生法が施行された。建設業の事業者は、作業場における危険性や有害性等の調査、労働災害の防止を義務づけられた。

危険性や有害性等の調査がリスクアセスメントに当たるといえよう。

また、同時期に厚生労働省からリスクアセスメントの実施に関し、「危険性又は有害性等に関する指針」も公表された。

生産や作業の過程が複雑化し、材料に有害物質が含まれる可能性が高くなった今、製造や看護の場面ではリスクアセスメントが欠かせなくなっている。

コロナ対策でもリスクアセスメントを実践

現在私たちは、新型コロナウイルスに対しても、リスクアセスメントの実践が求められている。

コロナ対策においても、リスクアセスメントの考え方は同じだ。まず前提条件を洗い出し、リスクの特定を行う。そして、対応策の効果を測定し、次につなげる。

面倒な作業だが、一つひとつの積み重ねで重大な被害を避けられるだろう。

リスクアセスメントのよくある質問集

多くの業種でリスクアセスメントは欠かせないが、十分な知識がないと計画を立てることは難しい。ここからはリスクアセスメントのよくある質問をまとめたので、おさらいの意味も含めて一つずつチェックしていこう。

Q1.リスクアセスメントはどういう意味? 別名は?

リスクアセスメントとは、経営に係るリスクを特定・分析し、対策の優先度を評価するプロセスである。日本語では「危機評価」と訳されており、多くのリスクを抱える業種には欠かせない施策と言われている。

リスクアセスメントには正しい進め方があり、効果検証や記録を繰り返すことでブラッシュアップをする。つまり、見直しが必要な施策であるため、会社全体で常に意識することが求められる。

Q2.リスクアセスメントの目的とは?

リスクアセスメントの目的は、快適な労働環境を作ることである。

基本的なプロセスは「特定・分析・評価」の3つだが、単にリスクを洗い出すだけでは意味がない。優先的に対策すべきリスクを把握し、あらゆる障害を解消することがゴールとなる。

そのため、リスクアセスメントは現場の従業員に任せるのではなく、経営トップや各管理職も含めて全社的に取り組むことが重要だ。

Q3.リスクアセスメントの進め方は?

リスクアセスメントの流れは企業によって異なるが、一般的な進め方は以下の通りである。

【1】前提条件の明確化
【2】リスクの特定
【3】リスクの見積
【4】リスクの優先度を設定
【5】リスク対策の検討
【6】リスク対策の実施

リスク対策を実施したら見直しを行い、その結果を次回のリスクアセスメントに活かすことがポイントになる。目の前のリスクに対応するのではなく、あくまで計画的に進める必要がある点に留意したい。

Q4.リスクアセスメントをすべきタイミングは?

リスクアセスメントの実施時期としては、以下のタイミングが挙げられる。

○リスクアセスメントの実施時期
・受注契約をしたとき
・製品などの設計をしたとき
・製品の試作段階
・製品の量産体制を構築するとき
・事故や災害の情報を得たとき
・新しい技術を確立したとき

すべてのタイミングで実施する必要はないが、新製品の設計時には入念に実施することを意識したい。「構想設計・試作段階・組立段階」のように複数回取り組むと、新たなビジネスを始めるときのリスクを抑えやすくなる。

Q5.リスクアセスメントで最初に取り組むべきことは?

一般的なリスクアセスメントでは、最初に「リスクの特定」を行う。

分析や評価のプロセスは、対処すべきリスクが明確になっていないと進められない。また、すべてのリスクに対応することは難しいため、優先的に解消すべき障害も把握しておく必要がある。

Q6.リスクアセスメントのメリット・デメリットを知りたい

リスクアセスメントを実施すると、会社の成長や安定を妨げる障害を解消できる。また、安全な労働環境を整えられるため、従業員の生活を守ったり、優秀な人材を集めやすくなったりする効果も期待できる。

一方で、施策を進めるにはコストや労力がかかるので、費用対効果は慎重に判断することが重要だ。優先度の低いリスク対策に力を入れると、コスト増大によって競争力が低下することも考えられる。

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文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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