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日本M&Aセンターが行うM&A大学。 その卒業生として最前線で活躍するOB・OGバンカーにインタビューする企画の第9弾。

今回は北陸銀行 コンサルティング営業部 第1グループ 主査 竹松達矢氏にインタビューした。

M&A大学とは
日本M&Aセンターが協業する地域金融機関に向けて行う、研修・出向制度。M&A大学入学者(地銀からの出向者)はM&Aシニアエキスパート研修(JMAC)、評価・概要書研修などの座学と日本M&AセンターとのコンサルタントによるOJTなどを経て、自ら顧客への提案からM&Aの成約、契約の締結までを完結できるM&Aコンサルタントとなることを目指す。

――まず、これまでのご異動の経歴やM&Aチームに来られてからの経歴、チーム構成などをお伺いします。

竹松:初任店は石川県の金沢でした。金沢には丸3年いて、続いて福井に丸4年、その後東京へ赴任し出向を入れて丸4年在籍しました。それから現在の北海道という感じです。

M&A業務の経歴としては、M&Aセンター様への1年間の出向を経て、現在の北海道地区で1年、通算2年となります。

当行のM&Aチームは全体で11名在籍しており、北海道地区は私を含め2名体制です。もう1人は日本政策投資銀行(DBJ)へ出向していました。当行のM&Aチームは、金融機関やM&A仲介会社への出向後に配属されるメンバーが多いです。

M&Aを担当した理由とM&Aチーム

――M&Aチームに異動するタイミングは、自ら志願されたものでしょうか。

竹松:志願というわけではないのですが、東京地区勤務時代にシンジケートローン等のコンサル業務に触れたことで、漠然とコンサルティング営業部に興味があると話したことはありました。

――御行で取り扱うM&A案件が多くなっていますね。

竹松:確かに件数は増えてきました。ただ、一方で滞留案件も多くなってきています。受託までは進むことも多いのですが、M&Aは最終的に成約しないと意味がないと思っています。受託前にどんな相手先があるのかをイメージし、お客様や相手方の置かれた状況や経営者の考え方などを確認しながら対応するようにしていますが、なかなか上手くいかないことも多く、自身の課題でもあります。

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M&A業務を推進させる取り組み

――北陸銀行様はベテラン勢がサポートしている銀行という印象があります。御行の教育や皆さんのレベルアップには、どういうことをされていますか。

竹松:M&Aの勉強会にはよく参加しています。昨日も、他の業者様ですが、東京で勉強会を開くという連絡が来ました。参加できるメンバーはZoomで、同じ場所にいなくても繋がって勉強会に参加しています。

他地区のM&A担当者とは遠方ですが、毎週月曜に駐在場所、出張の現地からオンラインでミーティングを行っており、案件の進捗共有や情報交換を行っています。

当行のM&Aチームでは、例えば「日本M&Aセンターとこういう話があって、こういう展開をしていこうと思ってリストを作ったから活用してみてほしい」ですとか、当行内部の回覧システムを使って「ニーズ把握にはこういう切り口やツールがあるよ」などの周知や良好事例の発信を営業店に対して行っています。

また、残念ながら他行や他社主導で当行メインの取引先が譲渡された事例が発生した際は、起こったケースについて、譲渡日や受託日、相手先、譲渡理由などについて可能な限り営業店から報告を上げてもらい情報として蓄積するようにしています。

そうした事例は営業店と適宜共有しており、例えば「北陸でも介護の事業譲渡が多いので、今一度ニーズの洗い出しを徹底してください」などと周知することで、同じ事例が発生しないよう努めています。 当行ではM&Aが自分の仕事と身近な存在であると感じている行員は多くなってきていると思います。当行コンサルティング営業部では親族承継も支援していますが、入口で親族承継として話を伺った結果、実際はM&Aのニーズが強かったという事例も多いです。

そのため営業店には事業承継のツールとして、M&Aや親族承継、あるいは従業員承継といった選択肢があり、そういったニーズや課題はお客様の身近に存在していると伝えています。

積極的な取り組みをされている他行さんでも、役員が危機感を持って全支店長にM&Aに関するアンケートを取った結果、自分の業務じゃないと思っている人が多かったという話を聞いたことがあります。仲介会社からDMが届いていない会社などないはずですので、もっと危機感を持って取引先へM&Aの話をしていく必要があるはずです。

コロナ禍で苦しむ北海道の観光とM&Aの可能性

―――北海道も、新型コロナの影響で観光客が減ってしまうなど、経済が厳しい局面にあると思いますがいかがでしょうか。

竹松:北海道の経済の中心は何と言っても観光業です。そして北海道に来て思ったのは、閉鎖的なところがある点です。有名なお菓子屋さんでも、東京など大都市圏に出店していないところが多く、「北海道に食べに来てね」という姿勢なのです。

北海道に来ないと買えない、味わえない地元の名産を売り物にしている所が多いので、新型コロナで全部裏目に出ているのです。せめてエリアのリスク分散をしようとか、ネット環境を整えてEC販売を強くしようと考えればいいのですが、依然として「来て楽しんでね」という観光関連業者が多いのでかなりダメージを受けています。

そういった観光関連の資産は、もっと、東京や都市部の大手やファンドの力を借りれば、北海道だけに収まらない大きなビジネスに展開させることができると思います。

その買い手というのが、日本M&Aセンター様が抱えているストロングバイヤーなどになると思います。財政の厳しい北海道でも取引先に積極的に受託しにいく、買い手を作るという仕組みを作れたらいいと思います。

―――確かに北海道は他支店に比べてこれまでのM&Aの実績は多いですね。

竹松:当行の支店では北陸3県に比べて北海道が14店舗と数は少ないですが、グループの北海道銀行を合わせると160を超える店舗があり、切磋琢磨しながら推進しております。また、他の道内の銀行である北洋銀行は地方銀行の中でもM&Aに積極的なので刺激されています。

そのため、北海道の営業店は北陸の営業店に負けないぐらい意識が高いと思います。やらないとやられるという意識は支店長の中に強くあります。結果的に、北海道地区の受託案件がメインバンク以外に多くあることも面白い結果のように思います。

―――北海道は激戦区ですね。どのような対策をされていますか。

竹松:数少ない取引先でもその全部で買いか売りかのニーズを徹底的に探ることに努めています。そして、「M&Aに限らず北陸銀行はコンサル機能が強いです」というのを全面に出して活動しています。 コンサルティング営業部専用のパンフレットをお客様に提示して、「この誌面のどこかに興味のある項目はないですか、専門の担当者がご説明にまいります」とアピールし、差別化を図るように取り組んでおります。

また、M&A業務以外(PB(親族承継)、経営コンサル、DC(確定拠出年金)、FN(ファイナンス)など)のコンサル業務の専門部隊も北海道地区に常駐し、他行と変わらぬ距離感でアプローチできることも重要な対策になっていると思います。

―――お客様と面談されるときに心がけているアクションであったり、言葉であったり、大事にされている思いはありますか

竹松:キラーワードというわけではないのですが、「北陸銀行にお任せください」という言葉ですね。面談の最後にお客様が「大丈夫なの、任せていいの?」と聞かれることが多いので、そう言うことにしています。 もちろん、言ったからには必ず実行します。

当行の支店長や私が対応するときには、過去の実績、特に日本M&Aセンター様をご紹介するときには、協業実績は累計で約100件あることを全面に出します。実績があるのでお任せください、ということです。

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日本M&Aセンターに求めること

――今後、日本M&Aセンターに期待することがあれば教えてください。

竹松:やはり業界のトップとして、今まで以上に協業を深められたらと思っています。日本M&Aセンター様のメンバーとは、基本的に連絡をとらない日はありません。電話やメールはもちろん、御社の札幌営業所と当行の北海道事務所は場所も近いので直接会いに行って相談するなど頼りにしています。

個人的にはサテライトオフィスはすごくいい取り組みだと思っています。他の仲介業者は東京からの出張ベースが多いようです。日本M&Aセンター様も基本的にはそうだと思いますが、サテライトオフィスがあることで、フットワークが軽く、コミュニケーションが取りやすい環境にあると思います。

私見ですが、自行仲介中心の金融機関についても、今後相談するパートナーが居ないと受託件数や成約件数(成約率)に伸び悩むと思います。過去のノウハウや成約事例は、自行で扱ったケースだけでは限られたものになりますし、取組中の案件が過去の事例のいずれかに当てはまる可能性は低いでしょう。日本M&Aセンター様と協業する意義については、広域でマッチングできるという理由はもちろんですが、やはり実績や経験に基づいたアプローチが出来るところにあると思います。