全世界共通の金融機関に対するbis規制 3つの柱を解説
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

「bis規制」とは、金融機関に対する世界規模の規制である。経営者にとって金融機関は、決済はもちろん融資で経営をサポートしてくれる存在である。bis規制が金融機関に与える制約について、気になる経営者もいるだろう。この記事では、bis規制の導入経過や詳細、国際統一基準と国内基準、自己資本比率の規制内容等について解説する。

目次

  1. bis規制とは
    1. bis規制の歴史
    2. bis規制の対象となる金融機関
    3. bis規制の「国際統一基準」と「国内基準」
  2. bis規制の内容
  3. bis規制における自己資本比率とは
    1. bis規制における自己資本比率の基準
    2. bis規制における自己資本比率の計算式
    3. 「Tier1」と「Tier2」、「コア資本」とは
    4. bis規制と貸し渋り
    5. bis規制の今後の取り組み予定
  4. bis規制の自己資本比率を知ろう

bis規制とは

bis規制とは、「国際決済銀行(Bank for International Settlements:BIS)」に対する自己資本比率などに対する規制のことであり、「バーゼル合意」の通称名である。1980年代に中南米で発生した債務危機を機に策定されたもので、日本で本格的に導入されたのは1992年度末からである。

bis規制の歴史

最初に導入されたbis規制を「バーゼルⅠ」といい、現在は「バーゼルⅢ」に取り組んでいる。

bis規制日本における開始時期主な内容
バーゼルⅠ1992年度末最低所要自己資本比率(8%)の導入
バーゼルⅡ2006年度末最低所要自己資本比率を含む「3つの柱」の導入
バーゼル2.52011年末バーゼルⅡの対応強化(証券化商品のリスクウェイトの引き上げ、外部格付によるモニタリング導入など)
バーゼルⅢ2013年自己資本の質・量の強化(資本バッファーの導入など)

bis規制の対象となる金融機関

bis規制はあくまで国際間の合意であって、日本の金融機関を直接的に規制する根拠にならない。

日本では、銀行法など関係法令に基準を設けることによって、各金融機関に対してbis規制と同質の健全性の基準を定めている。bis規制の対象となる金融機関は、下記のとおりである。

・銀行
・銀行持株会社
・信用金庫及び信用金庫連合会
・信用協同組合及び信用協同組合連合会
・労働金庫及び労働金庫連合会
・農林中央金庫
・農業協同組合等
・漁業協同組合等
・株式会社商工組合中央金庫
・最終指定親会社(※)

(参考)金融庁HP

・最終指定親会社とは

金融商品取引業者のうち「特別金融商品取引業者」では、その親会社や子会社等が、業務の健全かつ適切な運営を確保することが公益又は投資者保護に必要であるとされるときは、親会社を「指定親会社」とするルールがある。

「最終指定親会社」とは、「指定親会社」のうち、その親会社に指定親会社と同じ特別金融商品取引業者に係る指定親会社である会社が他にないグループの頂点となるものをいう。(金融商品取引法第57条の12第3項)

bis規制の「国際統一基準」と「国内基準」

日本では、bis規制の対象となる金融機関について、海外に拠点を置いている金融機関とそうでない金融機関とで、規制の内容に以下のような違いを設けている。

国際統一基準行海外に営業の拠点を有する銀行等
国内基準行海外に営業の拠点をもたない銀行等

国内にしか営業拠点のない銀行であっても、金融システムの一端を担う以上、破綻すればその影響は広く及ぶことから、日本では規制対象としている。なお、「国際統一基準行」の規制内容のほうがシビアである。

では、日本ではどのくらいの金融機関に「国際統一基準」が適用されているのだろうか。

銀行であれば、金融庁が公開する、全国の銀行の決算結果を取りまとめた「銀行の決算の状況」が参考になる。

金融庁による『主要行等の令和2年9月期決算の概要」では、集計対象である7グループのうち、4グループが「国際統一基準」、3グループが「国内基準」の対象となっている。また、『地域銀行の令和2年9月期決算の概要」によると、集計対象である103行のうち11行が銀行単体で「国際統一基準」、残り92行が「国内基準」となっている。

地方銀行であっても、およそ1割に国際統一基準が適用されているのだ。

(参考)金融庁HP:「銀行の決算の状況

<参考:国際統一基準を適用する銀行>

主要行等
(グループ連結ベース)
みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス(以上、4グループ)
地域銀行
(銀行単体ベース)
群馬銀行、千葉銀行、横浜銀行、八十二銀行、静岡銀行、滋賀銀行、中国銀行、山口銀行、伊予銀行、名古屋銀行、北國銀行(以上、11行)

bis規制の内容

bis規制の内容は、次の3つの柱からなる。

・第1の柱:最低所要自己資本比率
・第2の柱:金融機関の自己管理と監督上の検証
・第3の柱:市場規律

バーゼルⅠでは、第1の柱にあたる自己資本比率の最低水準(8%以上)が定められ、3つの柱が導入されたのは、バーゼルⅡからである。

自己資本比率の最低水準は、バーゼルⅠの段階で導入されているが、バーゼルⅠからⅢに推移する間、その算出方法には見直しが行われている。

bis規制における自己資本比率とは

自己資本比率とは、総資本(資産)に占める自己資本(純資産)の比率のことである。会社の資産のうち、返済の要らない財産の割合を示すもので、企業の安全性を見るときによく用いられる指標である。

bis規制における自己資本比率の基準

bis規制における自己資本比率の最低水準は、下記のとおりである。

国際統一基準行8%以上
国内基準行4%以上

かなり低いという印象を受けたのではないだろうか。一般企業であれば、業種や規模にもよるが20%~40%は確保されていることが多い。

古いデータになるが、2007年の『商工業実態基本調査(経済産業省)』では、企業の自己資本比率の平均値が、中小企業24.9%、大企業40.3%(いずれも製造企業)であった。

では、bis規制の達成は難しくないのかというとそうではない。bis規制では、自己資本比率の計算に用いる総資本や自己資本の計上方法が、通常と異なるからだ。

bis規制における自己資本比率の計算式

bis規制における自己資本比率の計算式の最大の特徴は、分母に「リスク・アセット(RWA)」が用いられることにある。

【国際統一基準の自己資本比率(2013年3月期~)】

bis規制を徹底解説!規制内容と自己資本比率の算出法とは

【国内基準の自己資本比率(2014年3月期~)】

bis規制を徹底解説!規制内容と自己資本比率の算出法とは
出典:金融庁「自己資本比率規制等について」掲載の資料「バーゼル3について」より

リスク・アセットは、リスクのある資産のことで、総資本(資産)に、それぞれの資産が内包するリスクを考慮した「リスクウェイト(RW)」をかけて合算する。

考慮されるリスクとは、信用リスク(貸倒れ等のリスク)、市場リスク(不況等によるリスク)、オペレーショナル・リスク(事故や不正行為、システム障害等によるリスク)である。
リスクの高い資産ほど、リスクウェイトは大きい。

そのため、リスクの高い資産が多い金融機関ほど分母が大きくなり、その結果、自己資本比率が低くなるということだ。

リスクウェイトは、資産の種別で以下のように定められており、中小企業でない事業法人は、格付けに応じて20~150%となる。

【リスクウェイトの例】

日本国債、地方債、現金等0%
政府関係機関等10%
金融機関20%
住宅ローン35%
中小企業、個人75%

(参考)金融庁:「バーゼル3(国際合意)の概要

なお、後述する「バーゼルⅢの最終パッケージ」(2023年~)では、リスクウェイトの一部見直しが予定されているので、必要に応じて最新版をチェックいただきたい。

「Tier1」と「Tier2」、「コア資本」とは

bis規制における自己資本比率では、分子となる自己資本にも細かなルールがある。

「国際統一基準」では、自己資本を以下のように「Tier1」と「Tier2」に分けている。

Tier1:普通株式や優先株式等などの損失吸収力の高い資本
Tier2:劣後債、劣後ローン等及び一般貸倒引当金等

「Tier1」の中でも、普通株式や内部留保等を最も損失吸収力の高い資本として「普通株式等Tier1」としている。リスク・アセットの4.5%以上が最低水準となり、さらに資本の安全性を高めるよう「資本保全バッファー」の上乗せも求められる。

優先株式等を「その他Tier1」としており、リスク・アセットの1.25%が算入の上限となる。

「国内基準」では、バーゼルⅡで「Tier1」と「Tier2」が用いられたが、バーゼルⅢからは「コア資本」として新たな計算方法が導入された。

「コア資本」は、普通株式や内部留保の他に、一定期間で普通株に強制的に転換される「優先株式(強制転換条項付優先株式)」や、優先的に配当を受けることができる出資などから構成される。

bis規制と貸し渋り

bis規制では、経済的な危機が生じると貸し渋りが起こりやすい。金融機関の保有する有価証券などが目減りすることによって、自己資本比率を上げるためにリスクウェイトの高い融資枠を縮小するからだ。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大への対策として、政府は「セーフティネット保証4号融資」の実施や危機関連保証融資のリスクウェイト0%化によって、積極的な融資を促しており、必要に応じて資本保全バッファーを取り崩すことも認められる。

bis規制の今後の取り組み予定

2017年12月7日に公表された、「バーゼルⅢの最終化パッケージ」では、以下の項目の実施が明らかになった。

・信用リスクやオペレーショナルリスク等の見直し
・資本フロアの導入
・レバレッジ比率(最低水準3%)の導入

(参考)金融庁:「バーゼルⅢの最終化について

当初は2022年1月より段階実施される予定であったが、コロナ禍の影響で1年延期され、2023年1月から段階的に実施される。(2028年に完全実施予定)

bis規制の自己資本比率を知ろう

今回は、bis規制について、日本への導入経過や「国際統一基準」と「国内基準」の違い、また、自己資本比率の規制内容について解説してきた。

金融機関がさまざまな企業に融資を行う中で、bis規制で自己資本比率の水準が定められていることは、経営者であれば知っておく必要があるだろう。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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