自分とつながる。チームとつながる。
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(本記事は、中村 真広氏の著書『自分とつながる。チームとつながる。』=アキラ出版、2020年12月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

新しいメンバーシップ型組織をつくるために

ニューノーマルな働き方への転換に向けて、企業の中には「ジョブ型の人事制度への転換」を打ち出すところも出てきている。

これまで日本の企業が社員を採用するときは、新卒で会社のメンバーとして迎え入れ、その会社の企業文化のなかで教育しながら、その時々に必要な仕事を割り振る、いわゆる「メンバーシップ型」のやり方がほとんどだった。

一方、欧米諸国はまずはポストやタスクありきで、それに当てはまって即戦力になる人を採用をする。その人がやるべき仕事や期待される成果などを定義した「ジョブ・ディスクリプション」を提示して雇用契約を結ぶ「ジョブ型」と言われる人事制度だ。

日本で「メンバーシップ型」が主流だったのは、終身雇用という前提が大きい。その人が担当していた仕事がなくなっても他の仕事に回ってもらうことで解雇を避ける。そのためには「ジョブ・ディスクリプション」みたいな縛りがない方が柔軟でいいのだ。そして、これまでは場所と時間を共にしながら働くことで、自然にコミュニケーションしながら何をどのように進めているかを把握しやすかった。いつも上司が部下のそばで「ちょっと、この仕事頼むよ」とか随時臨機応変に指示することができた。これがリモートワークになるとやりづらいので、今はジョブ型に注目が集まっているのだ。

ジョブ型であればリモートワークがやりやすい。これは本当だろう。でも、今までメンバーシップ型だった会社が、急にジョブ型に転換できるものだろうか。

僕は「ゼロか100か」のように、どちらかを選ばなければいけないということはないと思う。せっかくメンバーシップ型で積み上げてきたものがあるのなら、ニューノーマルに合った新しいメンバーシップ型を作ればいいじゃないか。

常に顔を合わせていない状態で事業を回していくためには、上司が部下に逐一指示をするスタイルは変えなければならない。それぞれがやることを明確にし、途中のプロセスは本人に任せる形にしていくことは必要だろう。そうなると、評価方法もプロセスではなく成果による評価方法になっていく。それでも、各自がバラバラに自分のタスクだけを遂行していくのではなくチーム内で、そしてチームを超えて、「共にいる感覚」を保ち続けられるようにするのが僕の考える新しいメンバーシップ型だ。そしてそれを成功させる鍵が、チーム内で「ココロの時間」をつくることと、それをチームを超えて共有することなのだ。

自分とつながる。チームとつながる。
(画像=『自分とつながる。チームとつながる。』より)

マルチスタンダードを許容するホリスティックなマネジメント

コロナ禍の働き方で重要になったことがもう一つある。メンバーの様々な事情を許容することだ。

感染者の増加を受けて学校や保育園、幼稚園が休校になり、子どもの面倒を見ながらリモートワークをした人もたくさんいるだろう。我が家でも娘と家にいて、いつもどおりに仕事をするのが難しいときもあった。メンバーの中には、子どもが寝た後の深夜に仕事をし、昼間は育児をせざるを得ない人もいたくらいだ。

会社としては就業時間を定めている。でも、こういう状況の中では定時にこだわってはいられない。子育てに限らず、それぞれの家庭の事情や仕事環境の違いがある。これまでは、「働く場所はここ」、「時間はこれ」といった統一のルールでやっていくことにそれほど疑問を感じていなかったけれど、それでは無理をせざるを得ない人がたくさん出てきてしまう。みんなが違う事情を抱えているんだということを理解し、それぞれが異なるやり方でベストを尽くすというマルチスタンダードを許容しないと、組織は持続可能でなくなってしまうだろう。

家庭の事情や環境というのはハード面の話だけれど、ソフト面であるモチベーションも、人によって様々だ。最近の若者は社会貢献とか成長機会なんかにモチベーションを喚起されやすいとよく言われるけれど、中には「とにかく稼ぎたい」という人もいるだろうし、「仕事はそこそこで、趣味に時間を費やしたい」という人もいる。

どれが良くてどれが悪いという話ではなく、どんなモチベーションのあり方も認め、それぞれの適材適所を考えて力を発揮してもらう。そうやって各個人のあり方を尊重しつつ、それを組織のパワーに編集していくのが、これからのマネジメントが目指すべきところなんだと思う。

メンバーの生き方や価値観を包括するという意味で、僕はこれを「ホリスティック(全体的)なマネジメント」と呼んでみたい。これは、今の時代に求められていることでもあるし、僕らの会社が成長してきた結果、必要になったことでもある。

1章で振り返ったように、創業間もない頃のツクルバはサークルみたいなノリで、みんな若くて価値観も似通っていた。抱えている事情やモチベーションの違いを意識する必要がほとんどなかったのだ。でも、メンバーが200人くらいになった今は、新卒の若手もいれば子育て中のパパママもいたりと様々なライフステージの人がいて、同じ年齢層であっても抱えているものは様々であり、小さな社会のようになってきた。

そうなってくると、誰にでも同じルールを当てはめて同じように接していればいいというわけにはいかない。「時間的な制約があってフルタイムでは通えません」という人については、パートタイムやリモートワークなどの働きやすい方法を考える。「今はとにかく仕事に全力を注ぎたい!」という人には思いっきり暴れまわってもらえるような仕事を任せる。それぞれ個別に向き合うのは手間ではあるけれど、マルチスタンダードを前提にすることが今の時代のマネジメントに求められていることだと思うのだ。

自分とつながる。チームとつながる。
中村 真広
株式会社ツクルバ代表取締役ファウンダー/株式会社KOU代表取締役。1984年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産ディベロッパー、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年8月に株式会社ツクルバを共同創業。2019年に東証マザーズに上場し、2020年8月より代表取締役ファウンダーに就任。また、株式会社KOUの創業に参画し、2019年からは同社代表取締役(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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