自分とつながる。チームとつながる。
(画像=AndreyPopov/stock.adobe.com)

(本記事は、中村 真広氏の著書『自分とつながる。チームとつながる。』=アキラ出版、2020年12月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

コロナ時代の働き方が引き起こすチームのバッドサイクル

新型コロナウイルス感染症「COVID–19」は、またたく間に世界に広がり、この本を書いている2020年10月現在も収束の兆しは見えない。しばらくは、感染の拡大を避けることを優先する「ニューノーマル」な暮らし方を受け入れていかざるを得ない状況だ。

そうなると、仕事の場で自分の感情を自覚し、それを分かち合うことの重要性がますます高まっていくと、僕は見ている。

緊急事態宣言の発令中は通勤の自粛が要請され、多くの会社がリモートワークに切り替えた。やってみて、「リモートワークって意外と仕事がはかどるな」と感じた人も多いんじゃないだろうか?

会議一つとっても、これまでだったら自席から会議室まで移動し、他社の人がいれば名刺交換したりお茶を出したりもして、みんなが席についたら資料を配布、それからようやく本題に入る――みたいなプロセスがあった。それがオンラインになると、全員が席についた状態で始まり、「資料は事前に送るから読んでおいてね」と言っておけば即座に本題に入れる。議題が終わって「じゃあ、今日はこれで!」という一声で、みんなあっという間に解散して次の仕事に移っていく。

デスクワークでも、オフィスでやっているときは誰かが話しかけてきたり電話がかかってきたり、近くで交わされる会話が聞こえたりするけれど、自宅であれば誰の邪魔も入らずに集中できる。

最初は「すごい効率いいな!」と感動したりするのだけれど、これが続くとだんだんと息切れしてくる。それは隙間の時間がなくて休まらないということもあるけれど、それ以上に仕事の合間に交わしていた何でもない雑談や相手の雰囲気から、インフォーマルな情報のやり取りをする機会がなくなっていることが大きいと思う。それによって感情が見えにくくなっているのだ。

僕は、職場で仕事そのものに関して話し合う時間を「アタマの時間」、自分が最近感じていることについて話し合う時間を「ココロの時間」と呼んでいて、会社のマネージャー陣には「ココロの時間も取ろう」と呼びかけている。

自分とつながる。チームとつながる。
(画像=『自分とつながる。チームとつながる。』より)

みんなとオフィスで会うことができたときは、「最近どう?」と話しかけるチャンスも多く、雑談をきっかけにした「ココロの時間」を持つことがそう難しくはなかった。また、ミーティング中など「アタマの時間」の中でも、目の前に相手がいると「あれ、なんだか今日は元気がないな」とか「気分が乗ってないみたいだな」といったココロのメッセージを感じとりやすい。

ところがオンラインでやり取りしていると、テキストメッセージや平面的な画面に映る相手の姿からは、なかなかココロに関する情報をキャッチするのは難しい。先にも指摘したとおり、雑談を交わす隙間の時間も生まれにくい。自然に任せていると「ココロの時間」はどんどんなくなっていく。そうなると、チームは次頁のようなバッドサイクルをたどっていくことになるだろう。

自分とつながる。チームとつながる。
(画像=『自分とつながる。チームとつながる。』より)

ニューノーマルな働き方で「ココロの時間」を増やす方法

僕らの働き方がコロナ以前のやり方に戻るのであれば、バッドサイクルも一時的なものとしてやり過ごせばいいかもしれない。

でも、当面は感染リスクがなくならないし、リスクが十分低くなったとしても、一度変化し始めた働き方が完全にもとの形に戻ることはないだろう。そういう見通しのもと、リモートワークの増加に合わせてオフィスを縮小する会社も増えてきている。ツクルバにも「オフィスを縮小したい」という相談が増えてきているし、自分たち自身も数フロアに分かれていたオフィスを一つのフロアに集約することにした。

暮らし方や働き方が「ニューノーマル」に移行していく今、マネジメントや組織のあり方も変えていかなければいけない。バッドサイクルを止めてグッドサイクルに転換するようなやり方が必要だ。

リモートワークが増えたチームにグッドサイクルをもたらす起点の一つは、「ココロの時間」を増やすことだ。例えば、仕事上の“フォーマル”なコミュニケーションの時間の一部に、雑談という“インフォーマル”な時間を取り入れることを提案したい。

「リモートワークが増えると雑談の機会が減る」というのはよく言われていることだ。その状況を変えるために、仕事用のグループチャットに雑談専用のスレッドを立てたり、あえて雑談をするための時間を取ってオンラインでしゃべる、といった取り組みをしている会社も多い。

僕もチームで「○月○日○時から、ビデオ会議にログインして雑談しましょう」みたいなことをやってみたのだけれど、あまり上手く行かなかった。普通、雑談というのはいつの間にか始まっていつの間にか終わる。

それをわざわざ予定を決めてやるのに違和感がある。インフォーマルなものである雑談を、フォーマルにスケジュールリングして集合をかけ、「はい、雑談始めましょう」というのがなんだかヘンな感じなのだ。それよりも、フォーマルなミーティングの中でインフォーマルな雑談の時間をとる方が、僕らのチームではしっくりきている。

具体的には、ミーティングの冒頭に5〜10分ほど「チェックイン」の時間をとり、各自が今の気持ちやその気持ちを引き起こした出来事について話していく。そうすると、ビデオ会議の画面からは分からなかったその人の気持ちのノリ具合やコンディションなんかが見えてくる。もし気になるチェックインをしていたメンバーがいれば「1on1のときに少し突っ込んで話してみよう」とか、個別の関わり合いを増やすきっかけにもなる。

チームを超えて「共にいる感覚」を増やすグッドサイクル

リモートワークでも、インフォーマルな雑談の機会、特に感情を軸にした共感の機会を持つことは関係の質を高めるきっかけになる。だが、チームを超えて会社としての一体感を持つには、さらに工夫が必要だ。

オンラインでは、チームが異なると会議で集まることすらも少ないので、そのままではチームを横断して近況が漏れ聞こえるような機会は生まれない。そこで、チーム内での「チェックイン」の内容を録音して社内に公開し、他の人も聴けるようにする実験を進めている。

ある日、ミーティングのチェックインの時間に「歯が痛くて、週明けに歯医者に行かなきゃいけないんです」と浮かない気持ちを吐露したメンバーがいた。すると、それを録音で聴いた他のチームのメンバーから「大丈夫ですか?私も虫歯になりやすいので、その気持ち分かります」というメッセージが送られてきたのだそう。他愛もないやりとりだが、彼女はそれを嬉しそうに報告してくれた。雑談がチーム内に閉じていたら、起こりなかった出来事だ。

何かの作業をしながらでも、ラジオを聴くようにみんなの感情にまつわる雑談を聴いてみる。そうすると、仕事上の絡みが少ない人でも、同じ組織に存在しているというリアリティや、親しみを感じられるようになるのだ。

このように、チーム内、チーム間の感情の共有を習慣にしていくと、次のようなグッドサイクルが期待できる。

自分とつながる。チームとつながる。
(画像=『自分とつながる。チームとつながる。』より)
自分とつながる。チームとつながる。
中村 真広
株式会社ツクルバ代表取締役ファウンダー/株式会社KOU代表取締役。1984年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産ディベロッパー、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年8月に株式会社ツクルバを共同創業。2019年に東証マザーズに上場し、2020年8月より代表取締役ファウンダーに就任。また、株式会社KOUの創業に参画し、2019年からは同社代表取締役(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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