リモートワークで求められる『本物の「上司力」』
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リモートワーク下で「支援型マネジメント」を進めるための第4のポイントは、「ITツールの習熟化」です。遠隔での上司・部下間やチーム内での報・連・相(報告・連絡・相談)や会議には、パソコンやタブレット端末を活用したITツールの利用が不可欠です。したがって、これらに習熟しておくことは上司の必須スキルです。
そこで今回は、ITツールを職場で円滑に利用する上での上司の心得と、習熟のポイントを押さえます。

*マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力〜「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく 前川 孝雄』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。

目次

  1. リモートで生じがちなコミュニケーションロス
  2. ツールの習熟には、若手を頼る
  3. 各ツールに相応しい役割を見極める
  4. ツール利用のルールを定め、共有する
  5. 「リアルでしか出来ない」との固定観念を見直す
  6. リモートとリアルは不可分な相互補完関係。ITツールの習熟化度合いが企業差となる

リモートで生じがちなコミュニケーションロス

上司:「(少々苛立ちながら)いつまで待っても、先日の結果報告がないじゃないか!」
部下:「(驚きながら)えっ! 課長、それは、もう3日前にチャットで報告済みですが…。」
上司:「えっ、そうなのか!…しかし、そらならそうと、きちんとそのことを連絡してもらわないと困るな!」
部下:「あ?…はい…(その連絡のツールがチャットなのに、ちゃんとチェックしてくれないと仕事にならないなぁ…)」

…皆さんの職場では、こんなコミュニケーションロスは起きていませんか?これまでのリアル・コミュニケーションでは、日々対面での報・連・相や、会議、面談、書類の回覧などで、随時必要な情報交換を行ってきました。しかし、リモートワークでは多様なITツールを利用しますから、それらをいかに混乱なく円滑に活用するか、ルールづくりが必要です。

ツールの習熟には、若手を頼る

準備の第一段階は、上司自身がZoom、Chatwork、Teams、Slackなど主なITツールに習熟し、その特性を理解することです。これは書籍などで自習し、セミナー受講も有効ですが、自ら体験して覚えることです。また、この分野はデジタルネイティブな若手ほど得意な傾向があります。臆せず部下や後輩にツールの使い方を訊き、習いましょう。
テクニカルスキルで、上司が優位に立つことにこだわる必要はありません。部下が得意なことには素直に頼るのも上司力の一つです。部下の強みを活かすことに通じますから。また、ITツールはどんどんバージョンアップしていきますから、基本を習った後も最新情報や使い方はぜひ教えてもらいましょう。特にIT通の部下がいれば、チームの中の役割として情報のシェアを促し、柔軟に取り入れることが賢明です。

各ツールに相応しい役割を見極める

準備の第二段階は、どのやりとりをどのツールで行うのが効果的か、各ツールに相応しい役割を見極めながら職場での使い分けのルールを定めることです。
各ツールの役割を整理する一つの方法例として、を参考にしてください。縦軸は上がフォーマルで、下がインフォーマルな情報。横軸は左がリアルタイムで、右が若干タイムラグがあってもよい情報の、4象限に区分したものです。
【左上】フォーマルでリアルタイムが望まれる内容はWEBオンラインの会議や面談で、またより緊急性が高い内容は電話で、双方向のコミュニケーションをしっかり図ります。
【右上】確実な情報伝達が必要な内容、また情報量が多い内容などで、若干のタイムラグが許されるものは、メールや映像・動画などで確実に漏れなく伝えます。
【左下】仕事上の軽い相談や、インフォーマルな情報交換など、メンバー間でのちょっとした連絡を手軽に、早めに行いたい時は、チャットが便利でしょう。
【右下】社内の仲間意識やチームワークの向上には、社内SNS上にテーマ別の自由に参加できる会議室を設けたり、社内サークルをつくり趣味の情報交換を促進するのも効果的です。

リモートワークで求められる『本物の「上司力」』

ツール利用のルールを定め、共有する

各ツールの特性に応じた効果的な利用方法の見極めが進んだら、チーム内での具体的な利用ルールに整理しましょう。はその整理に使えるフォーマット例です。
具体的な会議や報・連・相などの情報内容別に、目的や参加メンバー、どのITツールを利用するかルールを定めます。これをメンバーで共有することで、コミュニケーションロスを防ぐことができ、ツールの有効活用にも役立つのです。
職場で必要な情報交換の内容や特徴、利用できるツール、今後強化したいコミュニケーションの方法など、実状に沿って検討を行い、前向きなルールを定めてください。

リモートワークで求められる『本物の「上司力」』

「リアルでしか出来ない」との固定観念を見直す

上司:「君たちも最近はリモートワークばかりの巣ごもり状態で、大変じゃないか? うまく情報交換できず仕事は大丈夫か?やはり、リアルでの仕事や相談が一番安心だろう。」
部下:「いえ。通勤時間が減りストレスもなく、仕事に集中できて、とてもはかどっています。必要な情報交換や資料の入手は、メールや社内のデータ共有システムで十分できますし。」
上司:「そうか…。でも、仲間どうしの気楽な雑談や相談が減って、不安や寂しいこともあるんじゃないか?」
部下:「チームメンバー同士のちょっとした雑談や相談はチャットで毎日やり取りしていますよ。先週も有志でオンライン飲み会をやって、結構盛り上がったんですよ〜。」
上司:「えっ!そうなのか…(不安で寂しいのは、こっちだけか〜。飲み会に声くらいかけてくれてもいいのにな〜)」

リモートワークに関するある意識調査では、「上司は寂しく、部下は気楽」という象徴的な結果が目を引きました。自分自身がリアル・コミュニケーションだけで仕事をしてきた昭和世代の上司は、とかくリアルが一番と思いがちです。また、部下の様子が見えづらく、報・連・相が不十分と感じる不安もあるでしょう。
しかし、若手世代はITツールでのコミュニケーションに慣れており、子育てや介護などと仕事を両立する部下なら、リモートワークのほうが効率的と考えることもあるでしょう。上司は「リアルこそ重要」という自分の固定観念を見直し、意識ギャップをも乗り越えていく心構えが大切です。

リモートとリアルは不可分な相互補完関係。ITツールの習熟化度合いが企業差となる

さらに押さえておくべきは、ITツールによるリモートと対面によるリアルのコミュニケーションは、互いにトレードオフの関係ではなく、相互補完関係にあると心得ることです。否応なしにITツールの活用が始まった初期には、いかにリアルをITツールに置き換えるかに捕らわれがちでした。しかし今では、それぞれの長所と短所を認識した上で、両方を上手に組み合わせて活用し、相乗効果を高める視点が大切になってきているのです。
本連載の前半で取り上げた、期初の育成面談や任用(動機づけ)面談、また要所での振り返りなど、節目のコミュニケーションはリアルでしっかり行うのが適切かもしれません。一方、この面談などで信頼関係ができていれば、日常の報・連・相やミーティングはリモートで十分行えます。最近の企業調査でも、完全リモートではなく、週に数日の出勤と在宅勤務を組み合わせる職場が多い傾向が示されています。
グループ企業内の会議や研修に、全国オンライン方式を導入したことで、従来の社員を一堂に集める方法の限界を超えた事例もあります。また、オフィスワークのみならず、工場でのリモートワーク導入を検討する企業も出てきました。さらに、居住地を問わないことで、全国の優秀人材の採用に乗り出した企業も現れています。ITツールの習熟化と有効活用の差が、企業力の差に現れる時代にも入っているのです。

リモートワークで求められる『本物の「上司力」』
本物の「上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)及び『本物の「上司力」』(大和出版)

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