近年、企業の成長戦略としても活況を見せていたM&A。
コロナ禍を機に、どのような変化が起きたのか?
また、多くの企業の「出口戦略」に携わってきた
スペシャリストが考える会計事務所の役割とは?
株式会社日本M&Aセンターの金子義典氏に聞きました。
リスク分散のために多角的なM&Aが増加
コロナ禍を機に、相談を含めてM&Aの件数は増えています。
理由の一つは、今後の経営への不安。
先行き不透明な経済状況のなか、
「自分の経営力で会社を継続できるのか」
「後継者にこのまま引き継いでいいのか」
と考える経営者が増えているのです。
一方、会社を存続させるためのM&Aにも変化が起きています。
以前は、企業の成長速度を早めるため、
同業や類似業種の企業をグループ化するM&Aがメインでした。
しかしコロナ禍により、
事業ポートフォリオの拡充、事業の多角化を目的にしたM&Aが増えています。
これは、一つの事業や一つの顧客に依存していると、
想定外の事態が起きたときに売上90%減のような
大きなダメージを受けると実感したためです。
実際に、駅前限定で出店していた飲食店が
郊外でレストランを展開している企業を買収する、
アパレル会社が日用雑貨を扱う会社を買収するなど、
これまであまり見られなかったM&Aが増えはじめています。
出口戦略の支援はまだまだ足りない
2025年には、中小企業の経営者の約64%が
70歳以上になるといわれています。
そのため、後継者がいる118万社に向けて、
2018年から事業承継税制の特例措置が始まりました。
また、後継者のいない127万社に対しても、
マッチング支援の強化や第三者承継促進税制の創設など、
国をあげて抜本的な改革が進められていて、
10年間で60万社の第三者承継実施を目指しています。
ところが、事業承継税制の特例措置を活用するために必要な
特例承継計画の2019年度の申請件数は約3800件。
2019年のM&A件数は約4000件。どちらも圧倒的に足りていません。
株式会社日本M&Aセンターでは、
日本M&A協会というネットーワークで全国の会計事務所と連携し、
M&Aの支援をしていますが、会員数は約900事務所。
60万社の中小企業をサポートしていくためには、まだまだ少ないのです。
中小企業を救うのは会計人のコンサルシフト
ここで立ち上がるべきは会計人の先生方だと思っています。
もっとも経営者から信頼されていて、
公平公正かつ客観的立場で経営のサポートができるのが、会計人だからです。
そのためにまずは、
経営者へのヒアリング、経営相談が入り口になると思います。
企業がこれから先も成長を目指すのであれば、
経営計画の策定はもちろん、経営通りに進めるためには
どんな手を打つべきかの選択・決断のサポートをする、
経営計画のマネジメントが必要です。
そして、経営者が選択・決断をするためには、
管理会計に踏み込むことが重要です。
どの部門、どの時期、どのサービスが利益を上げていて、
どこを改善すべきかを数字で出す。
コロナ禍で当面の資金繰りを支援している今こそ、
会計事務所が資金繰りだけではなく
コンサルティングにシフトしなければ、日本の経済は縮小する一方です。
借りた資金をきちんと返済していくためには、
どのような計画が必要なのか?
経営者が真剣に危機と向き合ったタイミングだからこそ、
今後の戦略を話しやすいと思うのです。
そのコンサルティングのなかで
M&Aやそのほかの専門知識が必要になれば、専門業者と連携していただく。
先生方が中心となり、さまざまな専門業者と力を合わせて
中小企業のサポートしていくことで、
日本の経済を救えるのではないでしょうか。
※月刊プロパートナー2020年11月号より抜粋
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- プロフィール
銀行勤務を経て、2007年入社。M&A戦略コンサルタントとして中小企業から上場企業までのM&Aをサポート。
また、公認会計士・税理士を中心とするコンサルタントネットワークを統括している。