日本一やさしい経営の教科書
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(本記事は、小井土 まさひこ氏の著書『日本一やさしい経営の教科書』=あさ出版、2020年12月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

社長が社員に任せてはいけない3つの仕事

社員さんに任せた方がいいものがある一方で、絶対に任せられないものもあります。

1つ目は、資金繰り。会社を潰さないこと。
2つ目は、従業員の採用と教育。
3つ目は、営業と利益を確保する利益責任(実施は任せる)。

1つ目と、2つ目はすでに述べました。

3つ目のお客さまを集め、利益を確保する仕事について考えてみましょう。介護施設の場合、病院やケアマネジャーを通して利用者さまを紹介していただくことがほとんど。ですので、創業当時は、事業所がオープンするたびに、私が周辺の病院やケアマネジャーの事務所を回って、施設を紹介していました。

現在は、各事業所の幹部に同行して、エリアの営業先を回っています。

会社が存続していくには、お客さまにご利用し続けていただく必要があります。介護事業ではご利用者さまがすべての収入源となるからです。

収入を上げるのは、社長の責任です。ですからお客さまである利用者さまを集めるのも社長の責任。そのため、今でも状況を見ながらあれこれといろいろなことを試み、営業にも回っています。何よりも社長は会社の顔であり、トップ営業マンです。

一方で医療業界や介護業界などでは、売上や利益という言葉は、敬遠されがちな雰囲気があります。しかし、そこで働く方の幸せややりがいを考えると、当たり前ですが、どのような業界でも、売上や利益を考えないと存続していけません。

業界に関係なく、「うちは会社を大きくすることが目標じゃない。企業理念は『みんなの幸せの追求』だから」と売上そのまま、粗利益そのままだと、当然、人件費もそのままということになります。

売上、利益という言葉に無関心なスタッフさんも、人件費となると少し反応し、給与、手当と言葉が変わったとたんに、100 円単位を意識します。

事務所の粗利益が40万円下がっても何も感じないスタッフさんも、手当てが3000円下がったら敏感に反応します。粗利益の中から人件費が出ていることを知らないばかりか、賞与はまったく別のところから支給される、とさえ思っているのが、普通の社員さんです。

ただし、お客さまが増えなかったからといって、幹部の責任にしたり、世の中の責任にすることはできません。

すべての結果は社長の責任です

そのために何をどうするか、どう変えるかを考え、決定していくのです。

決定において大切なのは、早く決断すること。

決断は、「質」より「スピード」です。私の場合は閃き最優先です。

たとえば、今日、何かを決断しなければならないとします。朝から夕方まで悩んでいると、その数時間がムダです。

人は学習や経験によって成長します。であれば、朝、適当に決断したとしても、夕方決断したとしても、判断の質はそう変わらないはずです。そのわずか数時間で大きく成長することはありえないからです。

「適当」といっても、脳は、そのときの知識や体験記憶を駆使して、自分のベストの答えを出すものです。

適当(だけどベスト)な決断に従って、少しでも早く行動に移して、失敗したり成功したりの経験を積む。それによって、次に失敗する確率が減るはずです。

悩んでいる時間は、時間のムダ遣い。それよりも、適当に決断したことを、さっさとやって、失敗したのか、うまくいったのかを検証し、次につなげることです。

経験によって社長は成長し、よりよい決定ができるようになっていきます。

決断力がない、あるいは決められない人の多くは、失敗したくない、他人に否定されたくないと思っているのではないでしょうか。たくさん失敗して、たくさん否定されれば、気にならなくなっていくものです。立場によって内容は異なりますが、ぜひ、今日から練習してください。3カ月もすれば、決められる人になっているはずです。練習方法は簡単です。

「今日何食べに行こうか?」と誰かが言ったら、すかさずひとこと。

「煮干しラーメン!」

あれこれ考えず、言う言葉をあらかじめ決めておくのがポイント。何が食べたいかはここでは関係ありません。すぐに言葉に出す練習です。

「え〜、今日はラーメン行きたくない」と言われるかもしれません。そのときは、本当に行きたいお店を話し合えばいいだけです。

身の丈に合った経営の勉強をする

経営者は当然経営について勉強をする必要があります。よほどの経営の天才でもなければ何も学ばずに会社を成長させていくことなどできません。

我々凡人は勉強するしかないと思います。

多くの経営者の方が読書家です。私も名著と言われる書籍を片っ端から購入(注:読破ではありません)。M・E・ポーターの『競争の戦略』などは憧れの1冊。ドラッカー教授のシリーズは持っているだけで大満足。他にもたくさんの購入したくなる名著が存在するものです。どれも、勉強になることがたくさん書かれているらしいです。

しかし、何でもいいから読めばいいわけではない、と気づきました。また、本によっては難しすぎて読んだだけ、あるいは買っただけ。この本のテーマが「日本一やさしい経営」なので、難解な本については一切触れません。勉強しようと思ったら、今の自分のレベルにあった簡単に読み進められる本がおすすめです。

家を建てるとき、完成までにはいろいろな道具が必要になります。

新米の大工さんであれば、最初は材木を削ったり、釘を打つのが基本。であれば、材木を削るカンナと、釘を打つ金槌の使い方さえマスターしておけば十分。自分が実際に使うものをそろえ、勉強しておけばいいのです。最初からすべての道具をそろえて、その使い方をマスターする必要はまったくありません。

経営も同じです。大きな会社になれば、難しい経営理論も必要になるかもしれません。けれど、まだ2、3店舗しかないのに、チェーンストア理論を勉強したところで、あまり役には立ちません。

ですから、今、自社に何が必要かを見極めて、自社のレベルに合わせた勉強をするのが一番。銀行の借り入れについて知りたいなら、借り入れについて書かれた本を読む。これに関しては『小山昇の“実践”銀行交渉術』がとても役に立ちました。採用について知りたいなら、中小企業の採用について書かれた本を読む。

また、セミナーに出かけたり、コンサルタントに学びたい場合も、自社にあった内容、特に実務経験の有無で選ぶ方がいいでしょう。

「実務経験の有無」とは、実際に会社の経営や事業を行っている、または経験があるということ。

私も、いくつかのセミナーに出かけたり、何人ものコンサルタントさんの話を聞きました。

その結果、実務経験のある講師の話は参考になるし、コンサルタントを選ぶ場合も、実務経験があるコンサルタントを選ぶといいとわかりました。実務を持っている人に相談すると、教科書には書かれていない、現実に則した経験を交えたアドバイスがもらえるからです。

ただし、経営者がセミナーを受ける場合、心地のいいものは要注意です。

たとえば、若い方々と一緒にワークをやったり、回答をシェアしたりして、受けると楽しい。そのときはやる気がアップします。経営者の場合、背負っているものが違います。確かに、一時的にはとてもモチベーションがあがりますが、1週間もすると高揚した気分も醒め、結果、ムダになってしまうことも少なくありません。

本当に勉強になるのは、実体験に基づく経営者のセミナーや勉強会です。

違う業種であっても、学ぶべきところはいろいろあります。取り入れられるものはどんどんマネしていきます。「うまくいっている方法」をマネするわけですからうまくいく確率はかなり高くなります。

実務を持っているかいないかの違いはそれだけ大きいのです。

いいコンサルタントは、自分の会社が今本当に必要としているものをアドバイスしてくれます。今、うちの会社に金槌が必要なのに、一生懸命電動のこぎりの使い方を説明されても成果にはつながりません。

コンサルティングを受けるときに、自社に本当に合っているか考えてみることです。誤解のないように言えば、どのコンサルタントも素晴らしい理論や知識をお持ちです。ただ、考えるべきは、自社にとって今、何が必要かです。

お金を借りないとやっていけない業種なら、お金が借りられる方法を教えてくれるコンサルタントが必要です。金利がもったいないと考える業種と、金利より借入額と考える業種、どちらも正解です。そう考えると、どこのコンサルタントがいいという正解はありません。コンサルタントになるくらいですから、みなさん優秀です。たくさんの優れたノウハウを持っているはずです。ただ、自社に合うものを提供してくれるかどうかが、コンサルタント選びの基準であり、社長の仕事です。

では、どうやって見つけるか。「これが知りたい」というアンテナを立てておくだけです。

すると、不思議なことに、必要なときに必要な情報に出会えます。

たとえば、「今年の新卒の採用どうしようか。採用のいい情報を知りたい」と意識していると、日常の会話の中に出会いがあったり、インターネットのバナー広告として出会うこともあります。アンテナに引っかかってきたものを調べていくと、自分にとって必要な情報であることが多いのです。決してスピリチュアル的な話ではなく、出会えるというよりは、気づくか気づかないかの違いなのかもしれません。

マインド(あり方) も、ノウハウ(やり方)も、理念も、利益も、お客さま満足も、社員満足もすべて追い求めること

新米社長には次々と超えるべき壁が現れます。そこでいちいち悩んでいては仕事になりません。経営にはメンタル、精神面の学びも必要です。

私の場合、最初、自立型人材育成で定評のあるアントレプレナーセンターの福島正伸先生からメンタリングや人材育成を学びました。

たとえば、ピンチに出会っても、それをチャンスととらえること。

もし、社員研修で台風に遭い、空港で足止めをくらったら、「ついていない」と思うのではなく、「社員さんと共有する時間が増え、話をするチャンスができた!」と喜ぶ。クレームでお客さまから叱られたら、「自分が成長するチャンス!」と捉える。

「ピンチは、チャンス!」と危機的状況を前向きに捉える大切さを教えていただきました。まあ、ピンチはピンチなのですが、最初は見方を変えたり、チャンスの種を見つけるように心がけるといいと思います。起きる出来事は同じ、回転寿司のようなものです。いろいろなお皿が順番に回ってきて避けたとしてもまた回ってくるのです。

福島先生とほぼ並行して、メンタルトレーニングのパイオニアである西田文郎先生から、脳機能や運、ツキについて教えていただきました。「プラス思考」という脳の状態の作り方や言葉・動作・イメージの重要性などです。

経営を始める前後、お二人からメンタル面を学びトレーニングしていたので、比較的物事に悩まないようになっていました。今思えば、悩み事を相談しても「おっ、いいね」「面白いね」とわけのわからない答えを返す社長でした。見方を変えれば変な人です。

サービス業では、毎日、大小さまざまなことが起きます。社長がいちいち心を悩ませていては仕事になりません。

そのため、メンタルについて学び、鍛えておく必要があります。社員さんについても同じことが言えるので、社内のオリエンテーションで、こうしたことを伝えるプログラムを入れました。他社の社長さんにも少しだけオープンにしたところ、思った以上に評判がいいので、知りたい方はぜひ遊びにいらしてください。

そして、肝心な経営については基本的なこともよく知らないまま、何の考えもなく、開設の話があれば、いいねと事業所を増やしていきました。

運よくなんとかなっていたものの、このままではきっと続かない。経営についてもっと学ぼう、特に銀行との付き合い方はどうすればいいのだろう、と考えるようになり、そこで初めて経営の手法について学ぶことを決意しました。きっかけは本屋さんで見つけた本の著者である小山昇社長の講演を聞きに行ったことからでした。

では、メンタル面の学びと、経営の学びとどちらが大切か。

答えは「どちらも大事」です。

この「どちらも大事」という考え方を、ぜひ身につけてください。

介護の業界では、「やり方」より「あり方」だと言われたりします。つまり、ノウハウとその延長にある成果よりも、利用者さまたちに対する想いが大事だというわけです。

しかし、経営では「やり方」か「あり方」ではなく、両方が大事です。「or」ではなくて「and」なのです。近代日本経済の父と言われる渋沢栄一さんは、名著『論語と算盤』で、「論語の精神に基づいた道義にのっとった商いをして、儲けた利益はみなの幸せのために使うべき」と説いています。まさにその通りです。

想いだけでは、社会から撤退を告げられ消えていってしまいます。実際に、私のいる介護業界では、想いだけで事業を始めて、今は存在していない会社もあります。もちろん、想いがなくて、儲けるだけでもダメ(儲かる業種ではありませんが)。

想いも経営も、両方のバランス感覚が大切です。力なき正義は無力、正義なき力は無益と言います。

会社に関わるすべてがつながっているのです。

利益はお客さまが持って来てくれる。
お客さまに来ていただくためには、サービスの質を上げる。
サービスの質を上げるには、社員さんの質を上げなければいけない。
社員さんの質を上げるには、教育が必要。
同時にモチベーションアップのために、昇給も必要。
研修実施や昇給のためには、お金がいる。
そのために上げなければいけないのが利益。

にもかかわらず、「売上は今のままでいい」「利益を上げる必要はない」ときれいごとでまとめてしまう。それだけならありなのですが、そこに「社員さんの幸せ」が加わり、定期昇給とかが普通に記載してあったりします。経営者であればその矛盾に気づくはず。

これでは、経営はうまくいきません。増え続ける人件費と経費をまかなう粗利益を確保し続けるのが経営の大原則ですから。

理念も、経営手法も、利益も、お客さま満足も、社員満足も、すべてつながっていて、どれが欠けても前に進めません。すべてが大事なのです

日本一やさしい経営の教科書
小井土 まさひこ
株式会社こもれび代表取締役。株式会社K・サポート代表。群馬県甘楽郡出身。同志社大学卒業後、外資系製薬会社に13年間勤務。医療法人の立ち上げにかかわり、2009年、株式会社こもれびを創業。弓道四段、EGIJ認定アソシエイト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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