タクシー業界は変わろうとしている。移動需要を奪われかねないライドシェアが普及すれば、一気に苦境に追い込まれるからだ。このような中、業界に飛び込む「新卒くん」が救世主になるかもしれない。旧態依然の業界に新たな風を吹かせてくれる可能性があるからだ。
ライドシェアという「黒船」、コロナ禍という「危機」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、人々の移動ニーズは大きく減り、訪日観光客によるタクシー利用も見込めなくなった。このような中、タクシー会社の倒産も起きた。2020年5月、従業員200人規模の大阪市のタクシー会社「ふれ愛交通」が大阪地裁から破産開始の決定を受けた。
ただし、タクシー業界がコロナ禍で大きな打撃を受けたのは事実だが、ビフォーコロナにおいてもタクシー業界では危機感が広がっていた。いまは日本ではまだ本格展開されてしていないが、ライドシェアが普及すればタクシー業界にとっては「黒船」となるからだ。
タクシー業界が掲げている20の項目とは?
将来的にタクシーがライドシェアなどの次世代移動サービスに負けないためには、サービスの質や利便性の向上が欠かせない。
その点はタクシー業界もよく理解しており、一般社団法人「全国ハイヤー・タクシー連合会」はすでに業界の変革案を掲げ、取り組みを前進させている。同連合会が「今後新たに取り組む事項」として掲げているのが、以下の20項目だ。
やや項目数が多いが、タクシー業界がどのように変革を目指しているのかがよく分かるので、ざっと目を通してみてほしい。
・初乗り距離短縮運賃
・相乗り運賃(タクシーシェア)
・事前確定運賃
・ダイナミックプライシング
・定期運賃(乗り放題)タクシー
・相互レイティング
・ユニバーサルデザインタクシー(UD)タクシー
・タクシー全面広告
・第2種免許緩和
・訪日外国人等の富裕層の需要に対応するためのサービス
・乗合タクシー(交通不便地域対策・高齢者対応・観光型等)
・MaaSへの積極的参画
・自動運転技術の活用方策の検討
・キャッシュレス決済の導入促進
・子育てを応援するタクシーの普及
・ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)・福祉タクシーの配車体制の構築
・「運転者職場環境良好度認証」制度の普及促進
・労働力確保対策の推進
・大規模災害時における緊急輸送に関する地方自治体との協定等の締結の推進
・タクシー産業の国内外へのアピールの推進
このような、従来のタクシーにはなかったサービスを展開することで、乗客の利便性は飛躍的に向上する。そして、これらの先進的な取り組みを業界全体で進めるには、近年登場したテクノロジーやサービスに対するリテラシーが高い若い世代の力が必要だ。
そこで冒頭触れた通り、「新卒くん」への期待感が高まっているわけである。
注目を浴びている国際自動車の採用方針
現在、注目を浴びているのが、「kmタクシー」を展開する国際自動車だ。国際自動車は、タクシー業界で最大手の日本交通に次ぐ売上高を誇っている企業で、近年特にタクシー業界の中でも若手の採用に力を入れている印象を受ける。
東洋経済オンラインによる西川洋志社長のインタビューによれば、国際自動車は50歳以上の乗務員は採用せず、新卒社員などの若手を育成するための研修センターやホスピタリティハウスなども用意している。新卒採用を強化する理由の1つとして西川社長が挙げているのが、タクシー業界が「違う角度から柔軟な発想が求められる」(西川社長)中、新卒人材から学ぶことがあるということだ。
インタビューでは、釣り銭はドライバーが用意するのが常識というタクシー業界の慣習に若手社員が疑問を感じ、結果的に釣り銭を会社で準備するようなったことが紹介されている。タクシー業界に染まった人材ではなかなか思いつかない発想だったようだ。
社内提案制度「kmイノベーション」も導入
国際自動車の公式採用ページによれば、同社は「kmイノベーション」と称した社内提案制度を導入している。2017年の制度実施の際には、業務改善の提案から革新的な提案まで340件の意見があり、すでに提案を選別して実現に向けて動いているという。
新卒社員の採用に力を入れている国際自動車のことだ。おそらく、若手からあったさまざまな提案もなおざりにせず、よりよいタクシーサービスの提供に向けて真剣に検討しているのではないだろうか。
このように若手が意見を出しやすい環境が整っていれば、前述の20項目に登場した「初乗り距離短縮運賃」や「相乗り運賃」、「事前確定運賃」、「ダイナミックプライシング」などを導入する際にも、フレッシュな目線でさまざまな提案が若手からあるはずだ。
このようなことが国際自動車の今後の業績向上につながっていくことは、言うまでもないことだ。
若い世代の力でタクシー業界はどう変わっていく?
若い世代の力でタクシー業界がどのように変わっていくのか、今後、注目していきたいところだ。全国ハイヤー・タクシー連合会によれば、2018年にタクシードライバーの平均年齢は60歳を超えた。若い世代の中には、タクシー業界に低賃金・長時間労働といったイメージを持っている人も少なくなく、そのようなイメージを変えていく努力も業界には求められる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)