創業融資,受けたい
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

この記事では、起業にあたり融資条件も有利な「創業融資」について、審査に通るためのポイントを紹介します。

「創業融資」は起業の強い味方

金融機関からの融資は至難の業

ITをはじめとしてベンチャーキャピタルによる起業家支援が普及しているアメリカと異なり、日本の場合の資金調達は金融機関からの融資に頼らざるを得ません。

ちなみに起業時の1社あたり平均資金調達額は1,300万円、その内訳は自己資金300万円・親戚縁者からの借り入れ100万円、金融機関からの借り入れが900万円といったところで、ベンチャーキャピタルからの調達は1%前後といったところです(統計上は「その他」にくくられています)。

さりとて起業したてで実績のない会社に、銀行はおいそれとお金を貸してはくれません。

日本政策金融公庫のリサーチによると、スタートアップ企業の8割以上は金融機関から融資を受けることができず、自己資金または親戚・縁者からの援けを開業に充てています。

企業に門戸を開いた「創業融資」

資金調達だけが起業のボトルネックというわけではありませんが、日本の開業率は5%を下回り、アメリカ(9%)、フランス(13%)、イギリス(15%)といった欧米先進国と比べても大きく見劣りします。

もともとここまで低調だったわけではなく、高度成長期には7%前後で推移していた時期もありました。

活発な起業はその国の経済活力のバロメーターで、元気な国ほど企業の新陳代謝がさかんです。

アメリカでは、かつてのスタートアップ会社「グーグル」「アマゾン」などが今や国を代表するグローバル企業に育っています。

シリコンバレーで次々と誕生するベンチャーが、アメリカのITテクノロジー圧倒的優位を支えているともいわれています。

日本でも成長戦略の一環としてスタートアップ企業を育てるべく、キャッシュ面では政府系金融機関や地方自治体をフル活用して資金調達の円滑化を促しています。

日本政策金融公庫の融資

政府系金融機関とは、経済活性化・国民生活安定・社会基盤整備といった政策実現を目的に法律によって設立された財務省所管の特殊会社で、出資金の過半を政府が所有している金融機関です。

代表的な金融機関は、住宅金融支援機構・商工組合中央金庫・日本政策金融公庫・国際協力銀行・日本政策投資銀行であり、この中でスタートアップ企業の支援を担っているのが日本政策金融公庫です。

もともとは3つあった公庫の寄り合い所帯で、出身母体別に国内金融は国民生活事業(旧国民生活金融公庫)・中小企業事業(旧中小企業金融公庫)・農林水産事業(旧農林水産金融公庫)の3事業を展開しています。

このうち、創業融資を担っているのは国民生活事業です。

地方自治体による制度融資

制度融資とは地方自治体・信用保証協会・指定金融機関(出納や支払いなど公金の取り扱いをつかさどるものとして地方自治法に基づき自治体が指定した金融機関)の3者協調のもと運営される融資で、メニューの中に創業融資も含まれます。

日本政策金融公庫融資と自治体による制度融資双方の融資対象・借入限度額・融資期間などの条件を比較すると以下の通りです。

項目 日本政策金融公庫融資 自治体による制度融資
融資対象 次の要件全てを満たす企業・個人

・創業要件
これから起業するまたは起業して2期を経過していないこと

・雇用創出等要件
雇用創出を伴う事業、前の勤務先と類似の事業、産業競争強化法の認定特定創業支援事業(他金融機関との協調融資を受ける又は融資金額1,000万円以下の場合を除く)

・自己資金要件
創業資金の1/10以上の自己資金を有していること
(前の勤務先と類似の事業、産業競争強化法の認定特定創業支援事業に該当する場合は適用除外)
次のすべての要件を満たす企業・個人

・創業要件
1か月以内の個人による事業開始・2か月以内の会社設立または創業から5年以内であること

・滞納要件
税金の未納が無いこと

・許認可要件
許認可などが必要な業種はすでに許認可等を済ませていること

・反社会勢力要件
反社会勢力に属していないこと又は関与していないこと
融資限度額 3,000万円(運転資金充当分は1500万円) 3,500万円(運転資金充当分は2,000万円)
創業前融資は自己資金+2000万円を上限
担保・保証人 原則不要実質代表者または共同経営者が保証人となる場合は金利を0.1%減免 担保は不要法人代表者の保証は原則必要(担保提供の場合・指定金融機関が認め債務面や経営管理面で問題がない場合を除く)
利率 基準利率
2.51%~2.90%

・中小会計の特例を受けている場合は0.1%金利を減免

技術・ノウハウに優位性が見られる・独立行政法人や自治体の支援を受けているなどの場合には特別利率(優遇金利)の適用あり(最優遇の特別利率Eで1.11%~1.50%)
責任共有制度対象の取引で1.9%~2.5%(固定金利)、変動金利の場合は短期プライムレート+0.7%

責任共有制度対象外の取引で1.5%~2.0%(固定金利)、変動金利の場合は短期プライムレート+0.2%

認定特定創業支援事業に該当する場合は0.4%金利優遇
返済期間 メニューによって異なるが概ね20年以内(運転資金は7年以内) 10年以内(運転資金は7年以内)

申請手順と注意点

創業融資の全体のスケジュールは以下の通りです。申し込みから融資実行まで順調に進んで約1ヶ月、それ以上かかる場合も少なくありません。

図1

審査を通すポイントその1

審査を通すポイントの1番目は、「通りやすい融資制度を選ぶ」です。

上記の比較表でも明らかなように、担保・保証人が不要な点や返済期間の長さといった融資条件は日本政策金融公庫の方が有利です。

利率も、優遇金利の適用を受けることができれば、1.5%を下回る利率だって夢ではありません。

逆に言えば、融資条件が有利ということはそれだけ審査が厳しいことの裏返しです。

特に公庫融資は本来、雇用創出・新技術開発・社会基盤整備への寄与など公益的な事業への支援を主な融資目的としており、公益性が高いほど金利面でも優遇します。

審査においても事業の公益性を重視するので、そうでない事業にとってはハードルが高いのです。

一方、地方自治体による制度融資の審査が比較的緩いのにも特有の事情があります。

信用保証付き融資が焦げ付いた場合、一般的には責任共有制度の適用を受けて金融機関が20%・信用保証協会が80%負担します(創業前の場合は責任共有制度の対象外で信用保証協会が100%負担)。

ただし地方自治体による制度融資においては、信用保証協会負担分のうち一定割合(平均的には50%)を自治体が肩代わりします。

信用保証協会にとってはそれだけ貸し倒れリスクが軽くなるので、勢い融資審査は甘くなりがちなのです。

審査を通すポイントその2

審査を通すポイントの2番目は、「説得力にあふれた事業計画書」です。

なぜ事業計画書を作成するのか

事業計画書は、起業家の3割が作成しています。

借入がある場合は6割が作成しますが、借入なしでも4人に1人が作成しています。

なぜでしょうか?

事業計画書の目的は、何も融資を引き出すためだけではありません。

・なぜ起業を目指すのか
・将来的なビジョンは何か(事業目的)
・そのビジネスは何を強みとして戦っていくのか(事業戦略)
・ビジネスの社会的意義は何か(ミッション)

こうしたフレームワークを明確にしたうえで、収益・資金・サプライチェーンといった実務面での持続可能性を検証します。

もう1つの目的は、PDCAへの活用です。

事業計画(Plan)に基づいて毎月の営業活動等を展開(Do)、売上や利益が計画通り進捗しているかモニタリングしたうえで、ギャップが生じたらクロージングを図ります(Check)。

1年が終了したら実績を振返り、改めて次の年の計画を練り直します(Action)。

このPDCAサイクルを回し続けることにより、経営の質が向上していくわけですが、肝となるのが事業計画書の出来栄えです。

事業計画書に「魂」を込めよう

なぜ金融機関が事業計画書を重視するかといえば、「じっくり練りこまれた筋の良い計画書は、経営面で信頼が置け、将来の成長性が期待できる」からなのです。

もう1点、ビジネスの世界で「紙で伝える」ことがとても大切なのです。

起業への想い・情熱・事業の強みなど、銀行の融資担当者へ直接訴えることはできるでしょう。

融資課長ぐらいまでなら、まだいけるかもしれません。

では決裁者である支店長は?本店の審査部はどうでしょうか?

決裁者に想いを伝えられるのは、事業計画書だけなのです。

つまり事業計画書に「魂」を込めなければいけないのです。

事業計画書への記載事項

具体的に日本政策金融公庫における事業計画書の記載事項を紹介します。

〇創業の動機(なぜ創業したいのかその目的や動機)
〇経営者の学歴・職歴や事業経験有無、資格や知的財産権(特許権・商標権・意匠権・工業所有権・ビジネスモデル特許等)
〇取扱商品・サービスと売上シェア・強みなど
〇サプライヤー・得意先・アウトソーサーのシェア・掛け取引比率・回収サイクル、従業員数、代表者を含む借り入れ状況
〇必要な設備資金(店舗・工場・倉庫・車両・機械装置)、運転資金(原材料や商品仕入・経費や人件費支払い等)の具体的内容と調達方法
〇事業の見通し(売上高・売上原価・費目別経費・利益の別に時系列で)

まとめ

以上、創業融資の審査にあたってのポイントについて紹介しました。

最後に、「そもそも借りる必要があるのか」について考えてみます。

起業1社あたりの開業資金(中央値)は1990年代より低落傾向にあり、90年代初めの970万円から現在は639万円にまで低下しています。

割合でみても開業資金500万円未満が全体の4割近くに達します。

ビジネスの中心が、工場や製造装置への投資などに多額の資金が必要な製造業からIT・バイオなどさほど投資資金を要しない産業に軸足を移していること、シェアエコノミーの普及で自前の事業資産を抱える必要性が薄れてきたことなどが背景にあると言われています。

たとえ創業融資の条件が有利でも、借金であることに変わりがありません。

将来の資金需要をおさえたうえで(多少の余裕は持ちつつ)、融資申込額をはじき出し、必要以上の融資は控えましょう。(提供:ベンチャーサポート税理士法人