LLPは、2005年から日本で設立されるようになり、現在も、さまざまな企業がLLPによる共同開発を開始している。LLPは共同で営利事業を始めたいとき、会社を設立する以外の選択肢の1つである。この記事では、LLPの基本的な特徴や活用事例、税務等について解説する。
目次
LLPとは
LLP(Limited Liability Partnership)は、有限責任事業組合のことで、2005年に成立した「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下、「LLP法」)を根拠とする共同事業体の名称である。
誰かと共同で営利事業を始めたいときや、企業間の合併・提携を検討しているとき、会社を新設あるいは合併する以外に民法の組合をつくる方法があるが、LLP法は民法の組合の特例にあたる。
LLP創設の背景
経済産業省の資料「有限責任事業組合契約に関する法律について」(2005年6月)によると、LLP法創設当時、海外においてLLPやLLC(有限責任会社)によるジョイント・ベンチャーの発展がめざましかったという社会背景がある。
ジョイント・ベンチャー企業とは、目的を同じにする複数の企業や人材が集まって出資し、一緒に何かを開発及び制作することを目的とする自由な事業体のことである。
同資料によると、当時のアメリカでは、過去10年間で80万社のLLPが誕生しているとの報告がある。数字ではなかなかピンとこないが、同じ期間に誕生した株式会社の数が100万社であったことから、LLPが新規事業を始める際の選択肢として、2005年の時点でメジャーな手法であったことが推察できる。
日本におけるLLP創設の目的は、日本でも海外のような事業体を作り、異なる規模の事業体がタッグを組んで、新しい商品やサービスの開発に乗り出せる環境を構築することにあった。
日本には、事業を行うために法的に整備された体制として、会社法による会社や民法による組合はあったが、海外のLLPの特徴である有限責任、内部自治、構成員課税の特徴を兼ね備えたものはなかった。そこでLLP法を制定し、日本版LLPが誕生した。
【参考】経済産業省:有限責任事業組合(LLP)制度の創設について
LLPの特徴3つ
LLPの特徴には、「有限責任」「内部自治原則」「構成員課税」の3つがある。この特徴から、個人と法人、規模の異なる企業間、異業種間による共同開発や制作事業などに役立てやすい。
LLPの特徴1:有限責任
個人でも法人でも、出資して契約を結べば組合員になることができる。LLPでは、組合員の自身の出資額の範囲までしか、組合の債務の弁済責任を負わないこととされている。(LLP法第15条:有限責任)
有限責任によって組合員のリスクが限定されていることから、さまざまな立場の者が同じ目的下で共同事業を始めやすい。なお、債権者保護の対応としては、以下のようなものがある。
・組合財産の分別管理義務(LLP法第20条)
・債権者による財務諸表の開示請求(LLP法第31条)
・財産分配の制限(LLP法第33条)
他に、組合が第三者に損害を与えたときは、組合の財産で賠償する責任を負うことが「LLP法第17条」で定められている。
LLPの特徴2:内部自治原則
LLPにおける業務執行は、組合員の総意で決めることが原則となるが、組合契約書(LLPの定款のようなもの)によって、全員の同意を要しない旨の定めをすることもできる。
株式会社のように出資比率によって議決権割合が変わることがなく、また、取締役会のような機関の設置義務がないため、組織の運営方法を自由にデザインすることが可能となる。
特に「LLP法第33条」では、損益の分配比率についても、総組合員の同意があれば自由に決めることができる。これにより、共同事業への貢献度などに応じて利益を分配することもできる。
ただし、重要な財産の処分及び譲り受けや多額の借財に関する事項は、やはり総組合員の同意が必要となる。
LLPの特徴3:構成員課税
LLPは法人格をもたない組織であり、利益への課税は組合ではなく組合員に行われる。いわゆる、「パススルー課税」である。
これにより、LLPで生じた利益は、組合員が法人であれば法人税、個人であれば所得税の確定申告を各自で行わなければならない。
これについては、「LLPの税務」で後述する。
LLPと株式会社、LLC(合同会社)、LPS等の違い
営利目的の事業を始める場合、代表的な組織形態は「会社」である。特に、株式会社とLLC(合同会社)は設立件数も多いため、LLPにしてしまうことで後悔しないかどうかが気になる方も多いだろう。
ここでは、LLPと株式会社、LLC(合同会社)、民法上の組合、LPSとの違いを解説する。
株式会社との違い
LLPと株式会社の違いは、法人格の有無や課税方式、組織設計にある。
まず、株式会社には法人格があるため、法人の名で契約や許認可の申請ができるが、LLPには法人格がないため、組合名で契約や許認可の申請ができない。そのため、取引先等と契約をする際は、組合員の肩書き付き名義(組合名+組合員名)で行う。
続いて、課税方式の違いとして、株式会社では法人所得に法人税がかかるが、LLPでは組合員個人に分配した損益について各人に所得税がかかる。(パススルー課税)
最後に、組織設計の違いとして、株式会社では所有と経営の分離が組織の基礎にあるため、出資のみの経営参加も認められるほか、持株比率に応じて会社の議決権割合や配当が変化する。経営者には出資者(株主)に対する受託責任があり、取締役会や監査役など内部機関について取り決められている点にも特徴がある。
これに対して、LLPでは自由に内部自治が認められるため、議決権や利益の分配も自由に決められる。出資比率ではなく事業への貢献度などで差を付けることも可能だ。一方で、出資のみの参加でLLPの組合員になることは認められず、組合員全員が業務執行に参加し、その責任を負わなければならない。
LLC(合同会社)との違い
LLPとLLC(合同会社)の違いは、法人格の有無や課税方式にある。
法人格の有無と課税方式の違いについては、株式会社との違いを参照していただきたい。
LLCもまた、出資比率によって議決権割合が左右されることがなく、機関設計も柔軟にできることから、少人数で事業を行うことに向いている。
ただし、LLPは2人以上のメンバーがいなければ組織化できないが、LLCであれば1人で起業することも可能だ。
民法上の組合との違い
LLPと民法上の組合では、法人格が無いことや課税方式については共通するが、債権者に対する責任範囲や登記の有無に違いがある。
まず、債権者に対する責任範囲について、LLPの組合員個人の責任は出資額までしか負わない「有限責任」であるが、民法上の組合は「無限責任」である。
続いて、登記の有無について、LLPには登記義務があり、その登記事項には組合員の氏名や住所が含まれる。一方、民法上の組合は登記する必要がない。
LPS(投資事業有限責任組合)との違い
LLPとLPSは、有限責任組合であることについては共通するが、組織の目的に違いがある。
LLPが営利目的の一般事業(一部を除く)に広く活用できることに対して、LPS(投資事業有限責任組合)は投資事業を行うことを目的とする組織である。
LLPでは個人が共同事業のために集まり、各人がその能力を活かして主体的に事業を運営することが想定されており、LPSのように投資目的の参加は想定されていない。
なお、LLPがLPSの組合員になることはできる。
LLPで制限されている業務
LLPは営利を目的とする組合であるが、その特徴から、以下の業務を行うことが「LLP法
第7条、同法施行令第1条」によって制限されている。
・組合員が負う責任の限度が、出資価額にできないような業務(例:弁護士や公認会計士、司法書士、税理士等の一定の士業の業務)
・組合の債権者に、不当な損害を与えるおそれがある業務(例:宝くじ等の購入、馬券や競輪・競艇の車券や舟券などの購入)
また、「LLP法第3条」では、不当に債務を免れるための組合契約をすることも禁じられている。
LLPはどのような事例で役立つか
LLPは、規模の異なる企業や個人間、あるいは異業種の者同士が共同して事業を行いたいときに向いている。
会社であれば、その意思決定や業務執行は議決権を多くもつ者が支配するが、LLPの原則は内部自治である。そのため、志を同じにする者同士であれば、資金力や専門分野が異なっていても、共同研究や商品開発などを進めることができる。
経済産業省のホームページには、さまざまなLLPの活用事例が掲載されている。例えば、ロボット・AIの知見集約のために設立されたLLPでは、異なる企業間で技術やノウハウの共有などが行われている事例が紹介されている。
また、アニメーション制作事業では、LLPを活用することで、製作委員会や映画会社等が出資する方法以外に、外部資金を集める方法を開拓した事例が紹介されている。
【参考】有限責任事業組合(LLP)制度の創設について(LLPパンフレットより)
LLPの税務
ここではLLPの税務について解説しよう。
LLPの損益は組合員(法人・個人)の所得になる
LLPの各組合員の出資や組合の財産は、民法の定めが準用され、組合員全員の共有扱いとなる。(LLP法第56条、民法第668条)
このことから、事業から生じる利益や損失は各組合員に直接帰属し、LLPではなく組合員に課税される。組合員が法人であれば法人税、組合員が個人であれば所得税の対象となり、分配された利益の額がそれぞれの益金・総収入金額となる。
その年は損益を分配せずにLLPに留保したとしても、組合財産が組合員に帰属するという性質から、組合員の所得になる点に注意が必要だ。
また、損失の分配があるときは、出資額等から計算される「調整出資金額」を超える額について、損金・必要経費に算入できないというルールがある。
LLPの損益については他にも細かい注意点があるため、法人・個人に帰属するLLPの所得計算については、税理士等に相談いただきたい。
LLPの消費税
消費税についても同様で、LLPが行った消費税の課税取引は、組合員が利益の分配割合に対応する部分についてそれぞれ行ったものと扱われる。(消費税法基本通達1-3-1)
組合員が消費税の課税事業者であれば、分配された利益に対応する課税取引から、各々が消費税の申告を行う。
LLPの会計帳簿や税務署への提出書類
LLPの組合員には、事業年度経過後2ヵ月以内に、組合の貸借対照表と損益計算書、附属明細書を作成しなければならず、それらの書類を、主たる事務所に10年間備え置くことが義務付けられている。(LLP法第31条)
LLPに決算の公告は必要なく、LLPの会計帳簿を作成する組合員は、組合契約書に定めた計算期間が終了した年の翌年1月31日までに、「組合員所得に関する計算書」と、その「合計表」を税務署に提出しなければならない。
これは、LLPから税務署に、組合員の誰からいくら出資を受けて、いくら分配したかを報告するためのものである。
【参考】国税庁HP:有限責任事業組合等に係る組合員所得に関する計算書(同合計表)
LLPを設立するには
LLPを設立するときは、契約と出資、登記を行う必要がある。
LLPは契約と出資で成立し、登記は成立要件には含まれないが、登記を怠ったときには罰則があるため、契約と出資、登記までをLLP設立の一連の流れと考える必要がある。(LLP法第75条)
LLP設立の流れ1:契約
LLPの契約は、「組合契約書」を作成し、組合員全員が署名または記名押印する。(LLP法第4条)
<組合契約書の記載事項>
・組合の事業
・組合の名称
・組合の事務所の所在地
・組合員の氏名又は名称及び住所
・組合契約の効力が発生する年月日
・組合の存続期間(1年以内とする)
・組合員の出資の目的及びその価額
・組合の事業年度
・上記以外に、組合が任意に定める事項
組合契約書は法人の定款にあたるものだが、定款認証のような手続きは必要ない。
LLP設立の流れ2:出資
LLPは、出資の払込みをすべて完了させることで成立する。出資できるものは、金銭以外の現物出資でも構わないが、労務による出資はできない。
LLP設立の流れ3:登記
登記の手続きは、組合契約から2週間以内に、組合の主たる事務所の所在地で登記申請を行う必要がある。(LLP法第57条)
登記事項は以下のとおりである。
<登記事項>
・組合の事業
・組合の名称
・組合員の氏名又は名称及び住所
・組合契約の効力が発生する年月日
・組合の存続期間
・組合の事務所の所在地
一般の会社では、役員の氏名や住所の登記が行われるが、LLPでは組合員の氏名や住所が登記される。なお、組合員が法人であるときは、その職務を行うべき者の氏名及び住所も登記される。
LLPは共同事業の選択肢の一つ
今回は、LLPの基本的な特徴や活用事例、税務等について解説した。LLPにはさまざまな活用方法があると考えられるが、税務や会計処理にはわかりにくい部分も多い。
LLPに出資した個人や法人で所得の計算に不明点があるときは、税務署や税理士等に相談していただきたい。
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)