会社経営に役立つ財務分析とは?財務分析に利用する指標や結果の利用方法など徹底解説
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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

会社経営を行う際に、財務諸表である損益計算書や貸借対照表を見ることは多いだろう。財務諸表の数値から財務分析を行うことで、自社の経営課題などを把握できる。ここでは、財務分析の意味やその目的、財務分析に利用する指標や財務分析の結果の利用方法について解説する。

目次

  1. 財務分析とはなにか
  2. 財務分析の目的4つ
    1. 財務分析の目的1:自社の分析
    2. 財務分析の目的2:他社との比較
    3. 財務分析の目的3:融資判断の目安のため
    4. 財務分析の目的4:許認可のため
  3. 財務分析に活用する指標3つ
    1. 財務分析の指標1:収益性
    2. 財務分析の指標2:安全性
    3. 財務分析の指標3:効率性
  4. 分析を行ってはじめて役に立つ

財務分析とはなにか

財務分析とは、会社の財務諸表等の数値を元にして分析に使用する各種指標などを算出する事によって、会計上における経営状況を把握するものである。

財務分析で分析する視点としては、利益を得る力を測る収益性、財務の観点から倒産の危険性があるか否かについて判断する安全性、会社の資産を有効に利用できているのかを判断する効率性などがある。

財務分析の目的4つ

ここでは財務分析を行う目的を4つ紹介しよう。

財務分析の目的1:自社の分析

財務分析を行う目的の一つとしてまず挙げられるのが、自社の財務状態を分析することである。分析にあたっては、時系列で見る視点と、ある数値との比較で見る視点の2つがある。

時系列で見る視点は、例えば昨年の収益性の数字と本年の収益性の数値を見比べることによって、その間の経営の成果を把握できる。

また、ある数値との比較とは、例えば、100%を切ると危険水準とされる「流動比率」の数値を見て、会社の資産状況が安全かどうかを判定するなど、基準となる数値と比較して経営状態を判断することである。

財務分析の目的2:他社との比較

財務分析を行うことで、自社と他社の経営状況を比較することがある。他社とは、特定の会社だけでなく、同業他社の平均なども該当する。

財務分析によって比較することで、自社が財務上優れている点や劣っている点を見つけ出すことで、経営の指針とすることもできる。

財務分析の目的3:融資判断の目安のため

財務分析は、銀行などが融資の審査を行う際に、会社の状況確認のために使われることがある。銀行は、融資を行う際に会社の財務分析を行って、会社の融資の返済見込みを計算することがある。この分析結果を以って、融資の可否の判断材料とすることが多い。

ただし、財務分析の結果が悪いからといって融資されないということはなく、その他の要素によって融資が下りることもある。

財務分析の目的4:許認可のため

ほとんどの業種には当てはまらないが、例えば建設業のうち、特定建設業の許可を受ける場合は、財務分析の数値が許認可の要件に入っている。そのため、許認可の条件達成のために財務分析を行うこともある。

財務分析に活用する指標3つ

財務分析の指標にはさまざまな種類があり、何を見るかによって着目する指標も異なる。ここでは、財務分析でよく使われている「収益性」「安全性」「効率性」の3つについて説明する。

財務分析の指標1:収益性

収益性は、その会社がどれだけ効率的に稼ぐことができるのかを示す指標である。たいていは、利益の金額とそれを生み出す源泉となる売上や資産から求める。

収益性の指標には、「売上高利益率」と「総資産利益率(ROA)」がある。

・売上高利益率

売上高利益率は、売上に対する利益の割合を表す数値である。利益は当期純利益に限らず、経常利益など他の利益が使われることもある。その計算方法は以下の通りである。

売上高利益率=利益÷売上高×100(%)

売上高利益率は、売上の観点からどれだけ効率的に稼げるのかを示す指数である。

比較する際に注意すべき点は、事業の内容によって高低差が出てくる点である。例えば、商品を仕入れて自ら販売する小売業や卸売業は、薄利多売になりがちなので数値は低くなり、仕入れがないサービス業は数値が高くなるケースが多い。

・総資産利益率(ROA)

総資産利益率は、総資産に対する利益の割合を表す数値である。計算方法は、以下の通りである。

総資産利益率=利益÷総資産×100(%)

総資産の数値は、期末の数字ではなく期中平均を使うこともある。

総資産利益率は、持っている資産からいかに効率よく利益を生み出しているかを示すものである。同じことをやっていても、リースで借り入れたものや費用処理した物品など簿外資産がある場合は、数値が高く出やすい傾向にあるので、指標として利用する際には資産の内容に注意すべきである。

財務分析の指標2:安全性

安全性は、その会社の借入金や未払金の支払い能力を示す指標である。借入金等の負債金額との比較を見ることが中心となる。

安全性の指標には、「流動比率」「固定比率・固定長期適合比率」「自己資本比率」「債務償還年数」といったものがある。

・流動比率

流動比率は、流動資産と流動負債の比率を表す指標である。その計算方法は、以下のとおりである。

流動比率=流動資産÷流動負債×100(%)

流動比率は、流動負債の返済が流動資産のみで可能か否かを測る指標である。一般的には、100%を下回っていると、1年内に支払わなければならない負債について、手元の現金や売掛金などでの返済が難しくなるため危険とされる。

ただし、流動比率が100%を切っていても即危険と判断できない。負債の中には、親会社や会社の代表者から借り入れなど1年内に返済する必要のないものや、銀行からの返済期間が1年内の借入金であるものの、短期間のうちに返済と同時に借り入れを繰り返しているため、実質的には長期借入金と同等とみなされるものもある。

この場合、実質的な長期借入金については、計算から外しても問題ないこともある。

逆に、流動資産の中には返済が難しい売掛金、即座に換金化できない棚卸資産や現金化不可能な前払金があるため、100%を大きく上回っているから安全とは言い切れない。

流動比率を用いて経営状況を判断する場合は、資産の内訳やその内容を精密に把握する必要がある。

・固定比率・固定長期適合率

固定比率は、固定資産と自己資本との比率を表す指標である。その計算方法は、以下のとおりである。

固定比率=固定資産÷自己資本×100(%)

固定比率は、固定資産を返済不要な自己資本で賄えているか否かを示す指標である。固定比率が100%を超えると、借り入れをして固定資産を賄う必要があることを示している。

固定比率に類似している指標として「固定長期適合率」がある。固定長期適合率は、固定比率の分母に固定負債を加えたものであり、計算方法は以下のとおりである。

固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100(%)

固定長期適合率は、固定資産を自己資本と長期借入金などの固定負債で賄えているかを示す指標である。固定長期適合率が100%を超えると、流動負債でも固定資産を賄うことになり、資金繰りが厳しい状態であるといえる。

また、固定長期適合率と流動比率は表裏一体の関係にあり、固定長期適合率が100%を超えている場合、流動比率はほとんどの場合100%を下回ることとなる。

・自己資本比率

自己資本比率は、すべての資産のうちどれだけが返済不要の自己資本で賄われているかを示す指標であり、計算方法は以下のとおりである。

自己資本比率=自己資本÷総資産×100(%)

自己資本比率が高ければ高いほど、借入金の依存が大きいと言えるが、必ずしもその会社の財政状態に問題があるとは言い切れず、その他の指標を参考にして判断することとなる。

・債務償還年数

債務償還年数は、会社の借入金を、利益に減価償却費を足した数値で割ることによって、最短何年で借入金を返済できるかを示す指標である。その計算方法は、以下のとおりである。

債務償還年数=借入金総額÷(利益+減価償却費)×100(%)

減価償却費を加算するのは返済の源泉となる現金収入を算出するためで、減価償却費は費用となるが現金支出がないためであり、利益に加えることでより現実的な現金収入額を求めている。

債務償還年数は低いほどよく、また、本来の返済期間に比べて少ないほうがより安全であると考えられる。

債務償還年数を用いるときの注意点は、あくまでも現状の経営状態で、最短何年間で返済が可能であるかを示すのに過ぎないことである。借入金返済や損益計算書に関するもの以外の支出、例えば固定資産の購入のための支出については考慮されていない点を注意していただきたい。

財務分析の指標3:効率性

効率性は会社が保有している資産を、どれだけ効率的に使っているかを示す指標である。資産は持っているだけでは経営に資することができず、有効に利用して初めて利益を生み出すことができる。

効率性を測る指標としては、回転率と回転期間がある。棚卸資産や売上債権に対して、どれだけ効率的に使われているかを示す数値である。

・商品回転率

商品回転率は、売上を棚卸資産で割ることによって、どれだけ棚卸資産の出入りが多いかを示す数値である。その計算方法は、以下のとおりである。

商品回転率=売上高÷棚卸資産(回)

商品回転率が大きいほど、棚卸資産を効率よく動かしていることとなる。なお、実際の動きに近い数値を示すために、売上高に替えて売上原価を使うこともある。

・商品回転期間

商品回転期間は、どれだけ棚卸資産の出入りが多いかを示す数値である点では商品回転率と同じものである。しかし、計算方法は商品回転率とは逆で、棚卸資産を売上高で割ることによって求める。その計算方法は、以下のとおりである。

商品回転期間=棚卸資産÷売上高×12(月)

期間をわかりやすくするために、12を掛けて月表示にすることが多い。

分析を行ってはじめて役に立つ

本稿では、財務分析の必要性やその目的、どのような視点で財務分析を行うのか、また、財務分析の3つの視点である「収益性」「安全性」「効率性」のそれぞれで使用する指標についても説明した。

財務分析を行うことによって、他者との比較などを通して、自社の経営に資することができる。本稿が、自社の財務分析による経営業態の把握に活用できれば幸いである。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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