企業の財務分析を行っていると、「当座資産」というキーワードが良く出てくる。企業の財務安全性を判断する場合には、当座資産によって当座比率を算出したり、流動比率なども用いる。今回は、当座資産に該当する資産の詳細や、当座資産を活用した財務指標の見方について解説する。
当座とは何か?
「当座」とは、そもそもどんな意味なのだろうか?
デジタル大辞泉では、「当座」という言葉の意味は、「物事に直面したすぐその場、即座、さしあたっての、その場。目下のところ。しばらくの間。一時。」と、解説されている。したがって、当分・当面・さしあたり、という言葉と置き換えることができるだろう。
では、この「当座」という言葉が使われている会計用語である「当座資産」について、詳しく説明していく。
当座資産とは何か?
「当座資産」とは、貸借対照表に記載される流動資産に含まれる資産のうち、換金が容易な項目のことであり、以下のようなものが該当する。
・現金
・預金
・受取手形
・売掛金
・短期貸付金
・未収入金
「当座資産」は、企業における短期の債務返済に利用できる資産が、どれほどあるかということを示している。
同じような区分として、「流動資産」がある。「流動資産」とは、貸借対照表に記載される資産のうち、正常な営業取引の中で発生した資産の中で、1年内に容易に換金可能な資産のことである。
当座資産に分類される資産7つ
貸借対照表に計上されている勘定科目を利用して、資産区分を整理していこう。
・現金
手元にある硬貨や紙幣のことであり、経費の仮払いや支払いなどを行うための「小口現金」もこれに該当する。一般的にはオフィス内の金庫等に保管されており、少額の決済などには便利である反面、盗難や紛失等のリスクがあるため、通常は少額の一定金額を限度として設定されることが多い。
なお、受け取った小切手を保有している場合には、会計上は「現金」として扱われる。
・預金
銀行等の金融機関との間の預金契約等に基づき開設された預金口座のことであり、普通預金口座などが代表例である。
預金の一つである「当座預金」は、いわゆる「普通預金」とは区分されており、専ら、手形や小切手の支払いに用いられる決済用の預金である。利息が付かないという点と、元本保証があるため銀行が破綻しても全額保護されるという点が、普通預金とは大きく異なる。
銀行が破綻した場合、普通預金は10百万円までが保証限度であるため、通常利用する資金のみを普通預金としておき、残りを当座預金に移動させておくことがリスクヘッジとして有効である。
・受取手形
取引先等から受領した代金としての手形であり、定められた満期日以降に、取引銀行等の金融機関で現金化できる法律上の有価証券である。受取手形には、「約束手形」や「為替手形」などがある。
・売掛金
サービスや商品等を販売した場合に、企業間における後払いで使用する代金のことをいう。サービス等を提供した企業にとっては、代金を受け取ることができる権利ともいえる。
・有価証券
トレーディング目的で頻繁に売買を繰り返す「売買目的有価証券」や、一年以内に償還期限が到来する「満期保有目的債券」などのことである。
企業が保有する「有価証券」のほとんどは、投資その他の資産の「投資有価証券」とされることが多いため、当座資産の「有価証券」に分類されることは実際には少ない。
・短期貸付金
契約等により定められた期日までに、返済してもらう約束で貸し付けた金銭のことである。貸付金のうち、返済期限が1年以内の貸付金を「短期貸付金」という。
・未収入金
主に、営業活動以外の取引等によって生じた、未回収の金銭債権のことである。例えば、貸付を行っていた場合に、本来もらうべき利息が未回収となっていれば、未収入金として計上される。
なお、先に触れた「売掛金」も未回収の金銭債権であるが、その違いは、売掛金が営業取引によって発生した未回収の金銭債権であるのに対し、未収入金はそれ以外の金銭債権と覚えておくとよいだろう。
上記の資産は「当座資産」に分類されるが、これに商品在庫などの棚卸資産等を加えたものが「流動資産」であり、下記のように整理できる。
当座資産を用いた財務指標の見方
当座比率とは、「当座資産」を「流動負債」で除して計算して求める財務指標の一つであり、企業の安全性を把握するために利用される。
当座比率=当座資産/流動負債×100%
同じように企業の安全性を把握するために利用される指標として、「流動比率」という指標がある。流動比率は、以下のように「流動資産」を「流動負債」で除して算出される。
流動比率=流動資産/流動負債×100%
どちらも財務安全性の指標であり算定方法も似ているが、その意味をもっとよく理解するために、流動資産の金額が同じであるが、当座資産の割合が異なるという2つの会社のケースを取り上げてみたい。
ケース1は当座資産が流動資産の20%を占める企業、ケース2は当座資産が流動資産の80%を占める企業である。どちらも、流動比率は200%(=流動資産200/流動負債100×100%)であるが、果たしてこの2つのケースの企業の財務安全性は同じといえるのだろうか?
【ケース1】
【ケース2】
・貸借対照表の流動資産の構成
流動資産の構成は、ケース1の企業は、当座資産が40、棚卸資産が160となっており、当座資産が流動資産に占める割合は、20%(=当座資産40/流動資産200×100%)となっている。一方、ケース2の企業の当座資産が流動資産に占める割合は、80%(=当座資産160/流動資産 200×100%)となっていることがわかる。
・当座比率の比較
ケース1の企業の当座比率は、20%(=当座資産20/流動負債100×100%)であり、ケース2の企業の当座比率は、160%(=当座資産160/流動負債100×100%)となる。
ケース1の企業の当座比率は20%と低く、近い将来に支払うための資金が不足している。そのため、何らかの資金調達をしなければならず、棚卸資産を販売したり固定資産等を売却するなどして、早期の資金化が必要である。
他方、ケース2の企業の当座比率は160%と高く、近い将来支払うための資金は十分にある。
このように、流動比率が同じ企業であっても、当座比率まで比較分析を行うことで、財務安全性という観点から企業実態がより浮き彫りになってくる。
・棚卸資産の状況
ケース1の企業では、棚卸資産を多く保有する必要があることが見受けられ、棚卸資産を外部から調達したり、自社製品として製造するために一定の購買活動が必要となり、手許資金などが減少しているという推測もできる。
ケース2の企業では、棚卸資産が低い水準であることから、在庫リスクが低く、ファブレス経営、あるいはIT系のサービスを中心としている企業と考えられる。そのため、資金的余裕があり、M&Aなどもこれから積極的に行える可能性があるという推測もできる。
・貸借対照表による財務分析の注意点
財務分析の際に注意が必要なのは、貸借対照表は、企業のある時点を切り取った情報に過ぎないということである。すなわち、事業年度末時点の資産、負債及び純資産の情報を切り取った瞬間的な情報に過ぎないため、財務諸表を利用する外部者の誤解が生じる可能性がある。
例えばケース1の企業については、棚卸資産が流動資産の80%を占めているが、翌年度に見込まれている需要に向けて製品製造を一時的に増やしており、通常の在庫水準よりも多かった可能性もある。その場合は、ケース1の企業の将来性は十分にあり、今後の成長も期待できるという見方になるかもしれない。
また同様に、ケース2の企業においても、棚卸資産の流動資産に占める割合は20%と低くなっているが、消費者離れなどによる市場縮小のため、これからの製品売上があまり大きく見込めなくなっている可能性もある。そのため、仕入や製造を減少させており、ケース2の企業には期待していたほど将来性がないかもしれない。
・財務分析をする時には分析期間に注意する
財務情報を利用して分析を行う際には、対象企業の過去からの財務分析数値の推移や、事業内容などの変遷なども合わせて押さえることで、適切に企業実態を判断できる。
この点、期首と期末の2つの時点を平均して分析を行うことで、1つの時点での分析よりは精度が高くはなるが、たった2つの時点で、企業全体を理解することは難しい。実際には、過去の数年間分も合わせて分析し、その数値と現在の数値との乖離がどの程度あるのか確認する事が一般的である。
外部の第三者が対象企業から入手できる情報は限られることから、財務分析は包括的な状況把握程度に利用するのがいいだろう。もちろん、自社の財務状況を分析する場合には、さまざまな内部データが揃っているので、自身の経営感覚や把握している企業実態との照らし合わせにも利用できる。
当座比率だけに囚われてはいけない
今回は、企業の安全性分析で欠かせない「当座比率」を中心に見てきたが、関連する「流動比率」なども、結局のところ、企業の実態を正しく理解するための一つの指標に過ぎない。
決して数値のみに踊らされることがないように、全体的な視点を常に持ち続けながら、定性的な他の情報と合わせて企業分析を利用することが極めて重要であることを理解しておきたい。
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)