バリューエンジニアリングとは?企業と顧客、双方の価値を最大化する手法について解説!
(画像=marzky-ragsac-jr/stock.adobe.com)

製品の開発や製造に携わっている人なら日々実感しているかもしれないが、開発や製造は一度製品を完成させたからといってそれで終わりではない。開発途中から気になってはいたが実現できなかったこと、製品を作りながらここは改善ポイントだなと気になっていることなど、モノづくりの現場では日常茶飯事のことだろう。

資源の少なさからモノづくりの国として発展してきた日本には、「Kaizen(改善)」という文化が根付いている。今回は「コスト」と「機能」の観点から製品やサービスにアプローチし、企業や顧客双方の価値を高めていけるバリューエンジニアリングについて解説していく。

目次

  1. バリューエンジニアリングとは
  2. バリューエンジニアリングの目的と効果
  3. コストダウンとの違い
  4. バリューエンジニアリングの進め方
    1. バリューエンジニアリングチームの編成と対象製品の情報収集
    2. 機能の洗い出し(現状認識)
    3. 機能別のコスト分析
    4. 機能の評価
    5. 価値を向上させる方法の検討
    6. アイデアの具体化策検討
  5. バリューエンジニアリングの事例
    1. 交通信号機のLED化
  6. 顧客に継続して最大化した価値を提供するために

バリューエンジニアリングとは

バリューエンジニアリング(Value Engineering)は、日本語では「価値工学」と訳される。製品やサービスの価値を「コスト」と「機能」の観点から見直し、双方を改善することによって価値を高めていく手法だ。

バリューエンジニアリングは1947年、米国・ゼネラルエレクトリック(GE)社の技師L.D.マイルズによって開発されたものだ。当時は第二次世界大戦直後でさまざまな資材が不足しており、必要な資材の代替策としてバリューエンジニアリングは生み出された。

GE社が自ら開発したバリューエンジニアリングの技法を活用して大きな成果を出したことから、米国の他の企業や政府機関においても積極的に取り入れられるようになった。また、工業だけでなく企画、開発、設計、物流、サービスなどに適用範囲が広がり、さまざまな業種で活用されるようになっていった。日本には、1960年頃に導入されたといわれている。

バリューエンジニアリングは、バリューアナリシス(Value Analysis:価値分析)とも呼ばれることがあるが、「コスト」と「機能」の観点から製品やサービスにアプローチする点は変わらない。バリューエンジニアリングを行って価値を高めていく考え方は、以下の3つに集約される。

  • コストを変えずに機能を高める
  • 機能を変えずにコストを抑える
  • 機能向上を低コストで行う

ここでいう機能とは、製品やサービスの性能、信頼性、操作性、保守性、安全性、デザインなどを含む、働きや効用、効果を指す。また注意すべきはコストで、製品などの製造コストだけでなく、ライフサイクルコスト(総費用)であることに注意が必要だ。

ライフサイクルコストとは、製品やサービスのライフサイクルのすべてにわたって発生するコストをいい、生産者のコストと利用者のコストに大別される。以下、その主なコストを挙げてみよう。

〈生産者のコスト〉

  • 企画、研究開発、設計にかかわるコスト
  • 資材や委託製造などの外注調達コスト
  • 製造、設置や引渡しにかかるコスト
  • 流通、販売コスト
  • アフターサービス、交換部品等の維持・保管にかかるコスト
  • 在庫の廃棄などにかかわるコスト

〈利用者のコスト〉

  • 調達コスト   製品の購入、導入、試運転にかかったコスト
  • ランニングコスト
    オペレーターの人件費や教育費、エネルギー費用、消耗品や点検、保全にかかるコスト
    修理費用、保守契約料など
  • 廃棄コスト  製品の撤去や処分にかかるコスト

バリューエンジニアリングとは、企業や組織が製品やサービスなどを顧客(利用者)に提供する際、その価値が最も高くなるように顧客の要求を機能で実現し、その機能を最小限のライフサイクルコストで達成するための手段を考え、実践していく組織的活動である。

バリューエンジニアリングの目的と効果

バリューエンジニアリングの目的は、生産者と利用者両方が価値の見直し(改善)により恩恵を受けることにある。「機能を変えずにコストを抑える」ことができれば、生産者は利益をより多く手にすることができ、機能は変わらないので利用者から不満が上がることもない。

また「コストを変えずに機能を高める」ことができれば、利用者はその製品からより多くの利用する価値を受け取ることができる。また、資源の有効活用によって地球環境や地域社会にも貢献する。

このようにどちらか片方が改善によって恩恵を受けるのではなく、双方、また社会も恩恵を受けることができる手法がバリューエンジニアリングなのだ。

コストダウンとの違い

バリューエンジニアリングの考え方として「機能を変えずにコストを抑える」を挙げたが、これはコストダウン(CD)ではないのか?という疑問が呈されることがある。コストダウンの考え方はいろいろあるが、一般的にコストダウンとは多少の価値低下を前提としてコストの引き下げ案を実行することだ。

たとえば建築などで、壁の高級クロスを塗装仕上げに変えて建築コストを下げることもコストダウンと呼ばれる。建物全体の建築コストを下げたいときに、コストダウン策としてこのような案が施工会社から提案されることが多いのではないだろうか。

価値を主眼に置いてコストの見直しを行うか、コストに主眼を置いて改善を実行するかがバリューエンジニアリングとコストダウンの一番の違いといえるだろう。

バリューエンジニアリングの進め方

バリューエンジニアリングの進め方に決まった手法があるわけではないが、例として製品の開発・製造・販売を行っている企業を想定して話を進める。

バリューエンジニアリングチームの編成と対象製品の情報収集

バリューエンジニアリングは単独ではなく、チームで行いたい。改善のアイデアを出すときなどは意見の偏りがなく、また多くの意見が出るからだ。まずは対象製品をよく知るメンバーでチームを編成し、設計、調達、製造、販売に関する情報を収集する。

機能の洗い出し(現状認識)

対象製品の機能(働きや役割、目的)を「顧客(利用者)の立場」から洗い出す。この時点では機能に価値の高低をつけて判断せず、その製品が持っている機能をすべて洗い出すことを目的とする。

機能別のコスト分析

上記で洗い出した機能に、その機能の達成に必要なコストを洗い出す。ここで注意すべきは、先述したライフサイクルコストで挙げた「生産者のコスト」と「利用者のコスト」、すべてについて洗い出さねばならないことだ。各機能とライフサイクルコストの関連を間違えないように整理しておく。

機能の評価

ライフサイクルコストの洗い出しが終了したら、機能に重み付けを行う。機能を、利用者にとっての重要度別に分類するのだ。

価値を向上させる方法の検討

バリューエンジニアリングの手法は、先述のように以下の3つだ。

  • コストを変えずに機能を高める
  • 機能を変えずにコストを抑える
  • 機能向上を低コストで行う

ここからは、上記を実現する手法をチームで話し合っていく。最初はブレーンストーミングのような発想方法で、制限を設けずアイデアを出していくことが望ましい。

アイデアの具体化策検討

アイデアが出そろい、機能の向上策を検討することになるのであれば、実行を検討する前に、その機能達成に必要なコストの最低値(機能評価値)を算出し、現在までの総コストに影響を与えないか検討をしておく。またコストの削減策であれば、機能に影響を与えるようなものでないかどうか評価を行う。

チーム全員から収集したアイデアは、その利点と欠点について検討を行い、欠点の改善が可能かどうか話し合って採用を決定する。最終的には、技術的な実現の可能性と費用対効果を再確認して実行を決定する。

バリューエンジニアリングの事例

バリューエンジニアリングの一番有名な事例は、バリューエンジニアリングを開発したGEの「アスベスト事例(事件)」だろう。1940年代当時、GEでは製品の塗装ラインの下に火災防止のためアスベストシート(石綿をシート状に編み込んだもの)を敷いていた。塗料は可燃性の溶剤を含むため、ラインの下にこぼれ落ちた塗料に引火すると火災となってしまうためだ。

1945年に第二次世界大戦は終戦となったが、さまざまな資材が各地で不足しておりアスベストシートも入手困難だった。当時GEの技師であったL.D.マイルズは業者と相談し、同じ機能を持ちコストの安い難燃シートをGEに提案した。

ところがGEは最初、規則を理由にこの難燃シートの使用を認めなかった。そこでマイルズは実験を通して難燃シートの有効性を証明し、最終的にGEはこのシートを採用する。同じ価値でコストを削減することに成功したという事例だ。

他にも、近年ならではのバリューエンジニアリングの事例を紹介しておこう。

交通信号機のLED化

信号機は1930年代から日本全国で設置が始まり、車社会の到来と共に爆発的に普及した。現在では約20万基が稼働しており、以前はそのほとんどが白熱電球を使用して点滅する電球式であった。そしてLED式信号機が投入される前の電球式信号機には、以下のような問題が存在した。

  • 視認性の悪さ
    夕日などが正面から当たってしまうと、ドライバーから点滅が見えにくくなってしまう問題があった。

  • 電球交換コストの高さ
    白熱電球には寿命があり、電球が切れてしまうと高所の交換作業となるため莫大なコストと手間がかかっていた。

  • 電気代が高かった(エネルギー効率が悪かった)
    信号機メーカーは、トータルコストと価値の両面からバリューエンジニアリングを行い、1994年頃から電球をLEDに変えたLED式の信号機を市場に投入し始めた。結果として以下のような価値の向上が実現された。

  • 視認性の改善(価値の向上)
    LEDは自ら発光するため光の直進性が強く、太陽光が当たっても視認性が落ちにくくなった。また以前のようなカラーフィルターを通した発光ではないため、鮮やかで目の悪い人に対しての視認性も上がった。

  • 電球の交換コスト削減(コスト削減)
    LEDの寿命は白熱電球より長い(条件にもよるが10倍以上といわれている)ので、保守費用(人件費、電球の費用、作業費用)の大幅削減につながった。

  • 電気代の削減(コスト削減)
    LEDはエネルギー効率が高いので、80%の電気代削減となった。

他にも信号機本体の小型化により豪雪地域での事故(雪の重みで落下する)減少、搬入・運搬コストの削減など、LED化によって多くのメリットがもたらされた。バリューエンジニアリングで、利用者とメーカーに多くの利益がもたらされた好事例である。

顧客に継続して最大化した価値を提供するために

顧客に製品を購入してもらうため、値引きとコストダウンだけに頼っていくのは無理がある。他社との価格競争は利益の減少に直結し、取引先に定常的なコストダウンを要求するのも長い目で見ればマイナスとなる。両方とも企業の存続に関わってくるのだ。

重要なことは、企業として顧客に最大化した価値を提供し続けることだ。見直すべきは企業と顧客、双方の価値。価値に注目したバリューエンジニアリングの実行を検討してみてはいかがだろうか。

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)

無料会員登録はこちら