ビジネスの基礎中の基礎 ダイレクトマーケティングを解説
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内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

DCF法という言葉をきいたことがあるだろうか。M&Aに携わったことがある人や、M&Aに関わったことのある経営者の方でないとピンとこないかもしれないが、M&Aの価格算定においては、核となる概念である。

この計算方法を知っているか知らないかによって、M&Aにおいて有利に取引を進めることができると言っても過言ではない。本稿では、そのようなDCF法について、内容をみていきたいと思う。またDCF法を中心として、M&Aに絡む企業価値評価の手法についても、概観していきたい。

目次

  1. DCF法とは?
    1. 企業価値の算定方法3つ
  2. DCF法の計算方法とは?
    1. フリーキャッシュフローとは?
  3. 資本コストとは?
    1. 資本コストの種類2つ
  4. DCF法以外の算定手法
    1. コストアプローチによる算定法2つ
    2. DCF法以外のインカムアプローチによる算定方法2つ
    3. マーケットアプローチによる算定方法3つ
  5. 算定方法による違いを把握することが重要

DCF法とは?

DCF法とは、将来の利益から企業価値を計算するインカムアプロ―チの一種であり、discounted cash flow 法の略で、資産の価値を評価する方法の1つであり、株式や不動産その他多様な投資の価値を算出する場合に用いられる。

企業価値の算定方法3つ

企業価値の算定には、大きくコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチがある。企業価値算定には、これらの一つもしくは組み合わせて行われる。

1:コストアプローチ
コストアプローチとは、純資産を元に企業価値を計算する手法であり、簿価純資産法・時価純資産法が代表的な算定手法となる。

2:インカムアプローチ
インカムアプローチとは、会社の将来の収益を予想して企業価値を計算する手法で、DCF法以外に収益還元法などがある。

3:マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、ほかの会社を参考にして企業価値を計算する手法で、代表的なものは類似会社法・市場株価法などがある。

DCF法の計算方法とは?

実際にどのように計算するかといえば、事業計画書からその会社が将来どれくらいの利益(フリーキャッシュフロー)を得るか計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮したうえで計算式から企業価値を求める手法である。具体的には、毎年のフリーキャッシュフローを計算し、割引率で年数分を割り引いたものを各年分の企業価値として加算していくことになる。

フリーキャッシュフローとは?

フリーキャッシュフロー(FCF)とは、会社が事業活動で稼いだお金のうち、自由(フリー)に使える現金(キャッシュ)がどれだけあるかを示すものである。

フリーキャッシュフローは様々な算出方法があるが、一般的な方法は、営業キャッシュフロー(営業活動により獲得したキャッシュフロー)から投資キャッシュフロー(現事業維持のために必要なキャッシュフロー)を差し引く方法である。

フリーキャッシュフローは、利益とは異なり、プラスだったからいいというものではない。あくまで現金の動きを反映するものであるため、多額の投資などを積極的に行っている会社においては継続的にマイナスになることもあるし、会社規模を縮小している会社においては、大きなプラスになることもある。

そのため、フリーキャッシュフローは、長期にわたって経営計画を立て、見積りを行う必要がある。長期的なフリーキャッシュフローの推移をみてはじめて、その会社が継続的に資金を稼得することができるかの判断ができる。

もちろん、その計画によって、フリーキャッシュフローは様々な値をとりうるため、恣意的な数値ではなく、専門家のアドバイスのもと、算定を行う必要がある。

資本コストとは?

資本コストとは、会社の資金調達に伴うコストのことである。会社が銀行借入、社債発行、株式発行などによって資金調達する際には、銀行への利子、社債権者への利回り、株主への配当などのコストが必要になります。このように、会社が債権者や投資家に支払うべきコストが資本コストである。

資本コストは、その企業に投資することによって投資家が期待するリターン、つまり機会費用を意味する。

通常、株主資本コストのほうが負債コストよりも高くなることから、企業は適切な資本政策を行うことによって、資本コストを低く抑えることが期待されている。

なぜなら、資本コストが小さくなればなるほど、適用される割引率が低くなり、結果、企業価値が高く算定されるからである。

資本コストは、下記の式で計算がされる。

資本コスト= 株主資本コスト × 株主資本/(有利子負債 + 株主資本) + 負債コスト × (1-実効税率) × 有利子負債/(有利子負債 + 株主資本)

資本コストの種類2つ

資本コストは、株主資本コスト(自己資本コスト)と、負債コスト(他人資本コスト)の2つに分けられる。

1:株主資本コスト(自己資本コスト)
株主資本コストとは、会社からすると株式での資金調達にかかるコストのことである。

株主からすると、出資額に対して期待するリターンであり、株主の会社に対する期待収益率と言える。株主が期待するリターンとは主に配当であり、これらが自己資本コストとなる。

2:負債コスト(他人資本コスト)
負債コストとは、会社からすると負債にかかるコストのことで、社債権者や銀行などの債権者からすると、出資額に対して要求するリターンであり、債権者の会社に対する期待収益率と言える。

債権者が期待するリターンとは主に利回りや金利であり、これらが他人資本コストになる。

通常、社債や借入金は、株式よりも優先して元本の弁済を受けられる立場になるため、投資に対するリスクが低くなり、期待するリターンもおのずから小さくなる。

そのため、通常株主資本コストのほうが負債コストよりも大きくなる。

なお、資本コストの計算時に、負債コストにだけ(1-実効税率)を掛ける理由は、負債に対する対価である支払利息は法人税等の計算時に損金に算入できるのに対し、株主資本に対する対価である配当については、損金に算入できないからである。そのため、増税を行うと、負債による資金調達のインセンティブとなる。

DCF法以外の算定手法

先述の通り、企業価値評価の方法としては、大きくコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチがある。

コストアプローチによる算定法2つ

コストアプローチは、時価純資産価額法と修正簿価純資産法が代表的である。

1:時価純資産価額法
時価純資産価額法とは、帳簿上の全ての資産と負債を時価で再評価し、純資産の金額を計算して企業価値評価をする方法である。

この方法では、無形資産(自己創設のれん)も一緒に計算に入れ込むことになる。無形資産とは、従業員や特許技術などのことになり、その評価において市場価格がないことが多いので難しくなる。

しかし、労働集約型の専門的な企業など、人や技術に大きな付加価値がある場合には、この割合が非常に大きくなる。

2:修正簿価純資産法
修正簿価純資産法とは、時価純資産価額より簡便なもので、有価証券や土地・建物などで含み損益が大きく、かつ、時価を算出しやすい項目のみ時価修正して企業価値評価をする方法である。

DCF法以外のインカムアプローチによる算定方法2つ

インカムアプローチで代表的なものはもちろんDCF法であるが、他にも収益還元法や配当還元法などがある。

1:収益還元法
収益還元法とは、分子に平均収益、分母に資本還元率を用いて企業価値評価をする方法である。

こちらは、DCFと同様、市場金利や長期国債利回りなどのリスクも含めて計算する。そのため、総合的にリスクを判断することにも役立つであろう。

ただし、平均収益を使ったものなので、収益が拡大するベンチャー企業などでは正確な数字を導き出すことはできない。そのような企業においては、DCF法を活用するなど、綿密な将来キャッシュフローの見積が必要である。

2:配当還元法
配当還元法は、過去数年間の配当額を割引率によって割り戻すことにより、企業価値を算定する方法である。

この方法は、企業が主体的に決定できる配当の金額を基礎としているため、M&Aにおいては使われることはほとんどない。少数株主からの株式の買い取りなど、経営権の移動しない取引において、税務上認められる譲渡価格の計算方法の1つとしてよく利用されている。

マーケットアプローチによる算定方法3つ

マーケットアプローチの代表的な手法は、類似業種比準方式、類似会社比準方式、類似取引比準方式の3つである。

1: 類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、企業価値を知りたい業種の標準的な企業をベースに算出する方法である。

この方法では、通常国税庁ウェブページにおいて公表されている『類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等』を目安として計算する。

主な要素となるのは、標準的な企業における株価、配当金の額、利益の額、純資産の帳簿上の額である。基本的には相続税評価に使用する算定方法であり、M&Aにおいて使用することはない。

2:類似会社比準方式
類似会社比準方式とは、同じような事業をしている上場企業の株価をベースとして調べる方法である。

上場企業という限られたサンプルをベースとして計算することから、やや企業価値にバラつきが出てしまう特徴を持っている。

そのため、同種の企業で上場している会社数の多い業種のM&Aなどによく利用される。

3:類似取引比準方式
類似取引比準方式とは、過去に実施された同一業種に関わるM&Aで、類似する企業規模・M&A取引規模のものを参照し企業価値を算出するものである。

過去のM&A事例から企業価値や株式価値の数値を取り出し、そこから各種倍率を導き出したうえで、その倍率を用いて、該当企業の企業価値を求める。

ただし、過去のM&A事例で情報が開示されているのは上場企業だけであるため、中小企業の場合には活用がされない。

算定方法による違いを把握することが重要

このように、企業価値の計算方法は様々存在する。そして、それぞれの計算方法や計算の過程でおかれる仮定によって、企業価値の算定結果は大きく異なるのが通常である。同じ企業を評価しているものの、将来に対する見込みや期待も大きく入り込み、価格は一意に定まらない。

もし、M&Aに関わる機会があるとしたら、企業価値の算定方法の概要だけでも理解しておかないと、不当に買いたたかれてしまったり、思わぬ高い買い物をしてしったりすることにもなりかねない。

前述の通り、企業価値評価において最もよく用いられるDCF法については特に、将来キャッシュフローの算定と割引率の考え方について、自ら勉強するか、信頼できるセカンドオピニオン先を確保しておくことが望まれる。

文・内山瑛(公認会計士)

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