建築業者などが工事を進める上で、施工計画書は必須となるものだ。施工計画書は工事全体のクオリティに関わってくるため、経営者や作成担当者は正しい知識を身につけておく必要がある。そこで今回は、施工計画書の作成方法やポイントを分かりやすくまとめた。
施工計画書とは?作成する目的やタイミング
施工計画書とは、工事現場の安全性・効率性を高める目的で事前に作成しておく計画書のことだ。建設工事はもちろん、土木工事や電気設備工事など、あらゆる工事現場において施工計画書は必須のものとなる。
施工計画書の作成者はケースによって異なるが、基本的には施工会社による作成が望ましい。実際に工事にあたるものが作成することで、改善点や修正点などを見極めやすくなるためだ。
したがって、下請け業者が施工にあたる場合は、その業者の現場監督者が施工計画書を作成し、完成した計画書を請負業者に提出する流れが一般的となっている。
施工計画書を作成するタイミング
施工計画書の作成期間は、一般的に3週間~1ヶ月程度と言われている。工事の規模によっては作成期間を短縮することも可能だが、内容次第では役所から承認されない恐れがあるため、施工計画書はできる限り早めに作成しておくことが重要だ。
施工計画書は遅くても工事開始の3週間前までに提出する必要があるので、工事日程が決まった段階で全体のスケジュールを策定しておこう。
施工計画書の記載内容は?必要な項目の一覧
施工計画書の形式は企業によって異なるが、記載内容のなかには確実に必要な項目がいくつか存在する。そこで以下では、施工計画書に記載すべき項目を一覧表としてまとめた。
施工計画書の必要項目 | 概要 |
---|---|
1.工事概要 | 工事名や工期、工事内容、工事場所、請負金額など、工事全体の概要を記載する。 |
2.計画工程表 | 施工順序や工種ごとの施工期間を記載する。 |
3.現場組織表 | 現場の命令系統や業務分担など、工事における組織構成を記載する。 |
4.指定機械 | 設計図書で指定した機械の情報(名称や台数、規格など)を記載する。 |
5.主要船舶・機械 | 指定機械以外の機械(工事で使用するもの)の情報を記載する。 |
6.主要資材 | 工事で使用する資材の情報(品名や数量、規格など)を記載する。 |
7.施工方法 | 主要な工種の施工方法や順序を、計画工程表よりも詳しく記載する。 |
8.施工管理計画 | 出来形や品質、工程など、工事全般の管理方法を記載する。管理方法を明示するために、必要に応じて図表などを使用することが多い。 |
9.安全管理 | 事故防止に関する事項に加えて、安全管理組織や現場内の点検整備などを記載する。 |
10. 緊急時の体制及び対応 | 事故や災害が発生したときの連絡体制や、資材・設備の確保体制などを記載する。 |
11.交通管理 | 現場周辺の交通安全対策や規制方法、過積載防止対策などを記載する。 |
12.環境対策 | 公害の発生を防ぐために、騒音や振動などへの対策を記載する。 |
13. 現場作業環境の整備 | 現場や事務所の環境整備に関する計画を記載する。周辺環境に即した内容に調整する必要がある。 |
14. 再生資源の利用の促進と建設副産物の適正処理方法 | 建設副産物の処理方法や、再生資源の活用方法について記載する。 |
上記のほか、企業によっては「安全・訓練の活動計画」や「イメージアップの実施内容」なども記載項目に含めている。施工計画書に必要な情報はケースによって異なるため、現場の状況や工事内容を踏まえて記載項目を都度調整していこう。
施工計画書の作成手順
上記の通り、施工計画書にはさまざまな情報を記載しなくてはならない。では、質の高い施工計画書をスムーズに作成するには、どのような手順で作業を進めるべきだろうか。
ここからは、施工計画書の一般的な作成手順を紹介していく。
【STEP1】工事に関する書類の確認
施工計画書を作成するには、最初に工事の全体像を把握する必要がある。その第一段階として、まずは工事に関する書類を細かくチェックしていこう。
具体的な書類としては、設計図書や図面などが挙げられる。また、施工計画書には請負金額を記載する必要があるので、各契約書類のチェックも必須だ。
これらの書類を細部までしっかりと確認し、工事の要点を事前にまとめておこう。
【STEP2】現場状況のチェック
施工計画書は、工事現場や周辺状況に合わせて内容を調整する必要がある。そのため、現場状況を細かく把握できていない場合は、直接足を運んで状況をチェックしなければならない。
現場状況のチェックは、単に目で確認するだけでは不十分だ。実際の工事内容をシミュレーションしながら、各工程に関する精査を行う必要があるので、ある程度の時間がかかることは覚悟しておきたい。
【STEP3】発注者との協議
施工計画書の作成前には、発注者と細かく意識共有をすることも重要だ。完成形と発注者のイメージとの間にズレがあると、大きなトラブルに発展しかねない。
したがって、ここまでの段階で疑問点・懸念点などが生じた場合は、発注者にその内容を早めに伝えて、必要があれば時間をかけて協議しよう。この協議を挟むだけで、想定外のトラブルやリスクを防止できる。
【STEP4】ひな形の入手・作成
白紙の状態から施工計画書を作り始めると、必要な項目の記載を忘れてしまうリスクがある。そのため、施工計画書の作成前には、全体の型となる「ひな形」を用意しておきたい。
前述の通り、工事内容によって施工計画書の必要項目は変わるため、ひな形を準備する際にも工事内容を強く意識することが重要だ。該当する工事には「どんなリスクや不安要素があるのか?」を考えながら、必要な項目をひとつずつ書き出していこう。
【STEP5】施工計画書の作成
ひな型を用意したら、いよいよ施工計画書の作成に取りかかる。作成したものがそのまま承認・承諾されるとは限らないため、前述で解説したスケジュールを意識しながら、可能な限り早めに施工計画書を完成させよう。
施工計画書を作成する際のポイントや注意点3つ
ここからは、施工計画書を作成する際のポイントや注意点を紹介していく。以下のポイントや注意点を軽視すると、作成した施工計画書の質が大きく下がってしまうので、ひとつずつ丁寧に読み進めていこう。
1.すべての工程において「5W1H」を明確にしておく
施工計画書を作成する上で最も重要になる点は、手戻りを防ぐことだ。内容の不備によって手戻りが生じると、さまざまな関係者に迷惑をかけてしまう。施工計画書をチェックするのはあくまで他人であるため、誰が見ても分かるような計画書を作成しなければならない。
そこで意識しておきたいポイントが、すべての工程において「5W1H」を意識すること。以下のように5W1Hを明確にするだけで、施工計画書は非常に見やすいものとなる。
5W1Hの種類 | 概要 |
---|---|
・Who | 誰が(どの現場担当者・作業員が) |
・When | いつ(どのタイミングや日時で) |
・Where | どこで(工事現場のどの場所で) |
・What | 何を(どのような作業を) |
・Why | なぜ(どのような理由で) |
・How | どのように(何を使って行うのか) |
すべての関係者が工事内容をイメージできるように、上記の5W1Hは必ず意識しておこう。
2.現場作業員の負担を増やしすぎない
質の高い施工計画書を作成するために、安全管理や交通管理の内容に力を入れる企業は少なくない。しかし、内容にこだわりすぎて作業量が増えると、現場作業員に無茶をさせることになるため要注意だ。
現場作業員の負担を増やしすぎると、工事が計画通りに進まなくなってしまう。例えば、「機械の安全管理に1時間かける」「交通整備に10人の作業員を投入する」などの記載内容があると、現場の人間はそのルールを遵守して作業にあたるため、確実に進捗が遅れるだろう。
これは極端な例だが、工事を進める上でスケジュールを守ることは前提となるため、特に安全性を高めたい場合は「進捗とのバランス」を意識しよう。
3.実際の工事では、施工計画書と同等以上のクオリティが求められることを理解する
工事が完了した後の評価は、施工計画書の内容をもとに行われる。つまり、実際の工事のクオリティが施工計画書の内容より低いと、高い評価を受けることは難しい。
この点は、施工計画書の作成者が確実に理解しておきたい落とし穴だ。例えば、手戻りを恐れて現実的ではない施工計画書を作成すると、関係企業全体の評価が下がることになる。
したがって、施工計画書の作成時には質の高さだけではなく、「実現性」にも強くこだわっておきたい。
施工計画書をスムーズに作る方法は?活用したいツール2つ
施工計画書を手作業で作成すると、必要項目の記載だけでも多くの時間を費やしてしまう。作成時間を少しでも削減したいのであれば、世の中のツールをうまく活用することが必要だ。
そこで以下では、施工計画書の作成に活用したい2つのツールを紹介する。
1.表計算ソフト
パソコンの文書作成ソフトや表計算ソフトを使用すると、作成した施工計画書をデータとして保存できる。特に表計算ソフトは、インターネット上に公開されているテンプレートと組み合わせて使用できることがあるため、ぜひ活用を検討したいツールだ。
例えば、一般社団法人の日本建設連合会は、表計算ソフト(Excel)に対応した形でさまざまなテンプレートを公開している。ただし、テンプレートに必要な項目がすべて含まれているとは限らないので、使用前には必ず内容をチェックしておこう。
2.専用のソフトウェア
パソコンで使用するソフトウェアのなかには、施工計画書の作成に特化したものがいくつか存在する。例えば、項目の設定変更が容易であったり、工事成績評定の考査項目一覧が搭載されていたりなど、専用のソフトウェアには便利な機能が数多く備わっている。
ただし、専用のソフトウェアは基本的に有料であるため、導入コストについては慎重に検討しなければならない。また、製品によって機能は大きく異なるので、導入するのであれば製品同士の比較も忘れないようにしよう。
施工計画書の内容は、工事全体のクオリティに影響する
質の悪い施工計画書を作成すると、工事全体のクオリティも下がってしまう。また、手戻りを繰り返すと、当初のスケジュールに間に合わなくなる恐れがあるため、施工計画書は丁寧に作成することが必要だ。
スムーズかつ質の高い施工計画書を作成するには、作成者本人の能力だけではなく周りの環境も重要になるため、必要に応じてツールを導入するなどの施策を考えていこう。