エコマークをはじめ、最近では商品に環境ラベルを表示する企業が多い。環境ラベルの注目度は確実に高まっているが、企業が環境ラベルを取得するメリットはどのような点にあるのだろうか。今回は、経営者が知っておきたい環境ラベルの基礎知識を紹介していく。
目次
環境ラベルとは?主な役割や目的
環境ラベルとは、環境負荷の低減や環境保全につながる商品・サービスを一般消費者に伝える印のことだ。環境ラベルと聞くとマークをイメージするかもしれないが、ほかにも文章や広告など、現在ではさまざまなタイプの環境ラベルが存在している。
環境ラベルの役割としては、現代社会を環境配慮型の社会に変えることが挙げられる。例えば、消費者が環境ラベルを重視して商品・サービスを購入するようになると、世の中の企業は環境ラベルを取得する方向に流れるので、社会全体の環境負荷を抑えられる。
最近では、2015年の国連総会で「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されたり、ESG投資が注目されたりなど、世界的に環境保全への関心が高まっている。その波は日本にも浸透しつつあるので、環境ラベルの重要性はますます高まっていくだろう。
環境ラベルの種類3つ
環境ラベルの国際規格を定めるISO(国際標準化機構)は、環境ラベルを3つの種類に分けている。まずは、それぞれの環境ラベルがどのような特徴を持つのか、各種類の概要を解説していこう。
1.タイプI(ISO14024)
タイプIは、公平中立な第三者機関が認証する環境ラベルだ。事業者の申請に対して審査が行われ、審査に通過した企業は特定のマークの使用が認可される。
タイプIの環境ラベルは、商品にマークとして表示されるため、消費者にとっては非常に分かりやすい。ただし、マークごとに製品分類が決められているので、対象となる商品・サービスは限られている。
2.タイプII(ISO14021)
タイプIIの環境ラベルは、企業の自己主張によって商品・サービスに表示できるものだ。つまり、第三者機関の認証は必要なく、この環境ラベルを信用できるかどうかは消費者自身の判断に委ねられている。
ラベルの形式としては、マークや文章、図形などさまざまな形があり、そのなかでも消費者に特性がより伝わりやすいラベルとして、一定の要件や定義を定めた12の用語(※詳しくは後述)が存在している。なお、ISO14020の一般原則を満たした状態であれば、12の用語以外のラベルを表示させることも可能だ。
3.タイプIII(ISO14025)
タイプIIIは、定量的なデータのみが表示される環境ラベルだ。データの良し悪しを判断するための記載はなく、タイプIIと同様に判断は消費者自身に委ねられている。
なお、表示されるデータについては独立したシステムによって検証されるため、企業が独自に検証したデータを表示できるわけではない。具体的にはLCA(ライフサイクルアセスメント)の手法で数値が検証されており、将来的に信用性を担保する環境ラベルになることが期待されている。
企業が環境ラベルを取得するメリット3つ
上記で紹介した環境ラベルは、基本的には企業努力がなければ取得できない。つまり、取得を目指すのであれば労力やコストが必要になるが、取得後にはさまざまなメリットを得られる可能性がある。
では、具体的にどのようなメリットが生じるのか、特に押さえておきたいものを以下で紹介していこう。
1.企業イメージが向上する
環境ラベルを取得すると、商品・サービスだけではなく企業全体のイメージが向上する。例えば、第三者機関からの認証が必要になるタイプIのマークに対して、「信頼できる」「社会的責任を果たしている」といったイメージを持つ消費者は少なくない。
ただし、なかにはイメージアップにつながらない環境ラベルも存在するため、取得する環境ラベルは慎重に選ぶ必要がある。
2.消費者とのコミュニケーションツールになる
環境ラベルを商品・サービスに表示すると、「この商品は環境に配慮している」というメッセージを消費者に伝えられる。つまり、環境ラベルは消費者とのコミュニケーションツールとしても活用できるのだ。
環境意識の高い消費者が増えてきた状況下で、このようなメッセージを発信できる意味合いは大きい。環境ラベルの種類によっては、メディアや広告よりも強いメッセージを発信できるので、環境ラベルの取得はアピール機会の創出にもつながるだろう。
3.企業内の環境意識が向上する
環境ラベルを取得するには、環境データの収集や解析などの調査が必須となる。このような調査を通して、企業全体の環境意識を高められる点も、環境ラベルを取得するメリットだ。
従業員の環境意識が高まると、より環境に配慮した商品・サービスを開発できるようになる。さまざまな環境ワードが叫ばれる現代において、このような開発環境は企業にとって大きな武器になるだろう。
企業にとって重要性の高い環境ラベルは?知っておきたい種類を一覧で紹介
ここまで解説したように、環境ラベルを取得すると企業にはさまざまなメリットが生じる。ただし、環境ラベルの種類によってその効果は変わってくるため、取得する環境ラベルは適当に選ぶべきではない。
では、世の中の企業にとっては、どのような環境ラベルの重要性が高いのだろうか。次からは、経営者が特に知っておきたい環境ラベルの種類を一覧で紹介していこう。
タイプIの主な環境ラベル
タイプIの代表的な環境ラベルとしては、主に以下のものが挙げられる。
環境ラベルの種類 | 概要 |
---|---|
・エコマーク | 公益財団法人の日本環境協会が運営する、日本国内の環境ラベル。環境負荷が少なく、環境保全に役立つような商品に表示されている。 |
・Blue Angel | ドイツの連邦環境庁が運営する、1978年から運営が始まった歴史ある環境ラベル。あらゆる側面の環境保護が考慮されている商品や、環境にやさしい特徴を持っている商品などに表示される。 |
・Environmental Choice Program | カナダが国として運営している環境ラベル。環境に何らかの形で貢献しており、独自の安全基準・品質基準を満たした場合に認定される。 |
・European Union Eco-Label | 1993年に運営が開始された、EU諸国が運営する環境ラベル。環境影響が少ない商品に表示されており、商品の情報欄には認定理由が記載される。 |
・中国環境表示計画(テンサークル) | 1994年に国の政策として運用され始めた環境ラベル。認証後にも毎年1回はモニタリングが実施されるものの、認定商品数は2004年の時点で8,000を超えている。 |
上記のほか、台湾や香港、オーストラリアなどもタイプIの環境ラベルを運用している。タイプIの環境ラベルは世界的に認知度が高く、日本国内にも取得している大企業が多く見られるため、環境意識の高い経営者はぜひ取得を目指したい。
タイプIIの主な環境ラベル
次はタイプIIのなかでも、一定の要件や定義が定められている12の環境ラベルを紹介していこう。
環境ラベルの種類 | 概要 |
---|---|
・コンポスト化可能 | 微生物の力によって分解された結果、均質で安定的な腐植質の物質を生成する商品に表示される。 |
・分解可能 | 分解の速さや程度に関して、一定の基準を超えた商品に表示される。 |
・解体容易設計 | 使い終わった後に解体でき、さらにその解体物をリサイクルなどによって転用できる設計の商品に表示される。 |
・長寿命化製品 | 通常よりも使用期間が長くなるように設計されており、かつ原料や廃棄物の削減に貢献している商品に表示される。 |
・回収エネルギー | 回収エネルギーを用いて製造された商品に表示される。 |
・リサイクル可能 | 廃棄後の加工によって、新たな原料として再生できる商品に表示される。 |
・リサイクル材含有率 | 商品に含まれるプレコンシューマ材料、またはポストコンシューマ材料の重量比が表示される環境ラベル。 |
・省エネルギー | 同じ機能を持つ通常の商品に対する、該当商品のエネルギー減少量が表示される環境ラベル。 |
・省資源 | 商品の製造・配送に関して、エネルギーや水の使用料が削減されていることを表す環境ラベル。 |
・節水 | 同じ機能を持つ通常の商品に対する、該当商品の水量の減少量が表示される環境ラベル。 |
・再使用可能及び詰替え可能 | 詰替え可能など、複数回使用できる特性を持った商品に表示される。 |
・廃棄物削減 | 商品そのものや製造工程を変更したことで、廃棄物として扱われる原料が削減されたことを表す環境ラベル。 |
上記はいずれもISO14020の一般原則に則った環境ラベルなので、ほかのタイプIIの環境ラベルに比べると、消費者への訴求力が高くなる可能性がある。
タイプIIIの主な環境ラベル
最後に、タイプIIIの主な環境ラベルを紹介していこう。
環境ラベルの種類 | 概要 |
---|---|
・エコリーフ環境ラベル | 日本生まれの環境ラベル。この環境ラベルが表示された商品は、ライフサイクル全体の定量的な環境情報が開示されている。 |
・CFPプログラム | 2017年に上記のエコリーフと統合された、現在では運用されていない環境ラベル。CO2排出量の「見える化」を主な目的にしていた。 |
・EPD(環境製品宣言) | スウェーデン環境管理評議会が1998年から運営する、タイプIIIとしては先駆的な環境ラベル。この環境ラベルが表示された商品は、ライフサイクルを通じた環境への影響に関するデータが開示されている。 |
タイプIに比べると、タイプIIIの環境ラベルは代表的なものが少ない。ただし、将来的にマークではなく「データ」が重視されるようになれば、タイプIIIの重要性はますます高まっていくはずだ。
環境ラベルを効果的に利用するポイント
消費者への訴求力が高い環境ラベルを取得するには、多くの労力やコストをかける必要がある。また、取得した環境ラベルが必ずしも評価されるとは限らないので、環境ラベルによって短期間で収益を増やすことは難しいだろう。
そのため、売上アップの観点のみで環境ラベルの取得を目指すと、期待通りの効果を得られない可能性がある。そもそも、環境ラベルの運用目的は「社会全体の環境負荷の削減」であり、世の中の企業をサポートすることではない。この点をきちんと理解しておかないと、正しい方向性で環境対策を進めることは難しくなる。
したがって、環境ラベルの取得はあくまで「環境保全」や「社会貢献」の観点から目指すようにし、売上や企業イメージのアップといった効果は「後からついてくるもの」と考えるようにしよう。
環境ラベルは将来的にますます注目される可能性が
地球温暖化や大気汚染などの環境問題が顕在化するにつれて、人々の環境に対する意識は確実に高まってきている。そのため、将来的には環境ラベルがさらに重要視され、商品・サービス選びの判断材料として最優先される可能性も十分に考えられるだろう。
このような時代の流れに乗り遅れないために、これまで環境対策を特に意識してこなかった経営者は、これを機に環境ラベルの取得を検討してみよう。