矢野経済研究所
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高齢化社会の進展を背景に予防医療への関心が高まるなか、パーソナルヘルスケアサービスは今後も拡大基調

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内のパーソナルヘルスケアサービス市場を調査し、サービス分野別の動向、参入企業の動向、および将来展望を明らかにした。

1.市場概況

本調査におけるパーソナルヘルスケアサービス市場とは、健康情報管理サービス市場、治療・予防アプリ市場、新興ヘルスケア市場の3分野を対象とする。

健康情報管理サービスは、無料サービスの一般化や、民間保険や自治体などによる様々なサービス普及などを背景に、個人が有料で利用する健康情報管理サービスは専門性が高く、より個人のニーズに寄り添った高付加価値なサービスが選択されている。事業者によってはターゲットを絞ったサービス提供や料金体系の変更等を行い有料サービスユーザー拡大への取り組みを行う。そのような傾向を背景に健康情報管理サービス市場は微増傾向での推移を見込む。

治療・予防アプリは、生活習慣病やニコチン依存症など、医薬品・医療機器では効果を上げにくかった疾患領域での第3の治療手段などとして期待されている。市場へのこれまでの参入企業はベンチャー企業が中心であったが、近年では大手製薬メーカーや生命保険企業の参入が相次いでいる。治療・予防アプリは、個人が疾患管理を目的として利用することに加え、企業が健康経営※の観点から、健康保険組合や自治体(保険者)などが医療費抑制の観点から導入する例も増えてきている。また、アプリの保険適用(保険償還)を目指す動きもみられはじめている。

新興ヘルスケア市場に含まれる低酸素フィットネスは、今まではアスリートなどのプロ向けが中心だったが、近年は一般ユーザーも利用できるような低酸素フィットネスを専門とするジムや大手フィットネスジムでも一部の施設で部分的に試験導入されており、サービス提供が散見されるようになってきている。瞑想を中心としたマインドフルネスの中でも、インストラクターなどの指導・レクチャーによるマインドフルネスを実践するビジネスに焦点をあてると、個人向けプログラム(BtoB)、企業向けプログラム(BtoBtoC)、企業向け研修(BtoBtoC)の3分類とすることができる。中心となるのは個人向けプログラムを提供するサービスで、専用スタジオや公共スペースを含む貸スタジオなどをベースにして行っている。企業向けプログラムはストレス軽減を主目的とし瞑想を実践するものと、リーダーシップ育成などの人材教育を目的としたものに分類され、最近は、Googleで開発されたリーダーシップ研修「SIY(Search Inside Yourself)」によって、人材教育の面も注目されている。

※健康経営とは従業員の健康維持・増進を経営的視点から考え、戦略的に実践することをさす

2.注目トピック

治療・予防アプリ市場の注目トレンド

生活習慣病治療用アプリやメンタルヘルスケアアプリ参入企業のなかには、医療機関向けプラットフォーム(バイタルデータなど、患者がアプリで記録したデータを集約するもの)を展開している企業がある。新型コロナウイルス感染症の流行からオンライン診療に注目が集まっているが、医療機関向けプラットフォームはオンライン診療(あるいは電話等再診)の補助システムとなり得る。

【生活習慣病治療用アプリ】
生活習慣病は有病者数が多いことや行動変容を促すという治療・予防アプリの特徴を活かしやすいことから、市場の形成が進んでいる。製薬メーカーの新規参入など、市場は活発に動いている。

【メンタルヘルスケアアプリ】
アプリの内容は、心理状況の把握や認知行動療法の習得など様々である。ストレス社会といわれるなか、アプリを用いたBtoBtoC(企業や健康保険組合向け)サービスが増加していく可能性がある。

【認知症予防アプリ】
アプリ自体でのマネタイズ(収益化をはかる仕組み)は少ない市場であるが、近年では生命保険会社が認知症保険の付帯サービスとして認知症予防アプリを提供する例が増えている。また、認知症施策推進大綱(厚生労働省)や認知症基本法などを背景に、自治体向けの認知症予防アプリが普及していく可能性がある。

3.将来展望

高齢化社会の進展を背景に予防医療への関心が高まるなか、パーソナルヘルスケアサービスは今後も拡大基調を予測する。

健康情報管理サービス市場で事業展開を行う企業が個人向けサービスで培ったノウハウを法人・自治体向けにサービス提供する傾向は継続している。コロナ禍において自身の健康状態への関心は非常に高まっており、今の感染拡大状況が収束した後も、気軽に利用できるこのようなPHR(Personal Health Record)アプリは継続した需要が期待される。政府においては、マイナポータルを活用したPHRサービスを提供することとされ、これらを通じて予防、健康づくりの推進等が期待されている。既存の民間のPHRも今後の利活用について情報の相互運用性、個人情報の適切な管理、幅広い民間PHRサービスの活性化などの留意事項をふまえ、ルールづくりを行っていくこととなっている。

治療用・予防アプリ市場への参入企業はベンチャー企業が中心であったが、近年では大手製薬メーカーや生命保険企業の参入・参入準備が相次いでいる。大手製薬メーカーはベンチャー企業との協業または海外の治療・予防アプリを日本に導入という形で参入・参入準備がされている。BtoBtoC(企業や健康保険組合向け)や保険適用によるマネタイズ(収益化をはかる仕組み)が検討されている。生命保険企業はベンチャー企業との協業により、保険契約者向けアプリとして展開している。また、アプリで記録した健康データが基準値を満たせば還付金を給付するようなサービスもみられる。

新興ヘルスケア市場に含まれる低酸素フィットネスは、新型コロナウイルスの影響で多くのフィットネス施設は営業自粛・休業を行っているなか、緊急事態宣言が解除されても既存会員の維持および新規会員の獲得は、解除後数か月は困難とされることが推察される。しかしながら、このような状況になる前は多くのフィットネス施設は低酸素フィットネスに対して高い関心を寄せており、加えて短い時間で高い運動効果が期待できる点などから医療・リハビリ施設からの問い合わせも多かった。そのため現在の状況が落ちつき次第、積極的な提案活動を事業者は行っていくことが推察される。マインドフルネスについては、想定される潜在需要を取り込んでいくためにマインドフルネスの認知度を高めるだけでなく、指導者養成の課題を克服する必要がある。

調査要綱

1.調査期間: 2020年3月~5月
2.調査対象: パーソナルヘルスケアサービス関連企業等
3.調査方法: 当社専門研究員による面談、電話・e-mail等によるヒアリングおよび文献調査併用
<パーソナルヘルスケアサービス市場とは>
本調査におけるパーソナルヘルスケアサービス市場とは、健康情報管理サービス市場、治療・予防アプリ市場、新興ヘルスケア市場の3分野を対象とする(各分野の詳細は以下参照)。市場規模には、PHR(Personal Health Record;簡易PHR管理、ウーマンズヘルスケア、食事管理などを含む)、治療用・予防アプリ(生活習慣病(糖尿病・高血圧症)、メンタルヘルスケア)、低酸素フィットネス、マインドフルネスを含む。なお、電子お薬手帳、治療用・予防アプリの認知症予防は含まない。

各分野の詳細は以下参照
健康情報管理サービス市場;一般生活者自身のバイタルデータ(脈拍や血圧、体温などの生体情報)や、運動、食事等の日常におけるライフログ記録サービス・アプリとなるPHR(Personal Health Record)サービス、そのPHRの中でもより女性に特化し、女性の生理周期などについて管理できるウーマンズヘルスケアサービス、古くから紙媒体で運用されているPHRであるお薬手帳を電子化した電子お薬手帳を対象とする。
治療・予防アプリ市場;疾患(生活習慣病(特に糖尿病・高血圧症)や、メンタルヘルス、認知症予防)の治療や予防に役立てるための治療・予防アプリを対象とする。
新興ヘルスケア市場;低酸素フィットネスは、気圧を平地と同じレベルで維持しつつ、酸素濃度を低下させた環境下で運動ができる設備を有する施設を対象とする。瞑想を中心としたマインドフルネスはインストラクターなどの指導・レクチャーによるマインドフルネスを実践するビジネスに焦点をあてる。
<市場に含まれる商品・サービス>
市場規模には、PHR(簡易PHR管理、ウーマンズヘルスケア、食事管理などを含む)、治療用・予防アプリ(生活習慣病(糖尿病・高血圧症)、メンタルヘルスケア)、低酸素フィットネス、マインドフルネスを含む(電子お薬手帳、治療用・予防アプリの認知症予防は含まない)。

出典資料について

資料名2020年版 パーソナルヘルスケアサービス市場の現状と展望
発刊日2020年05月29日
体裁A4 234ページ
定価120,000円(税別)

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