「名入れカレンダーで起業?」と笑われて感じた勝機。旧来的な商材を急成長させた逆転の発想

名入れカレンダーとは、カレンダーに企業名を入れて営業職の人などがお得意先へ配るカレンダーのことだ。レスタスは2011年の設立からまだ10年ほどのベンチャーながら年平均売上140%以上の成長を続けている。

新しい会社がなぜ「名入れカレンダー」という、斜陽とも思える旧来的な分野で事業を始めたのか。レスタスの創業代表 大脇晋氏から、ビジネスモデルの秘密や「名入れカレンダー」に目を付けた創業時のきっかけなどを伺った。

大脇 晋(株式会社LESTAS 代表取締役)
大脇 晋(株式会社LESTAS 代表取締役)
同志社大学卒。ユニ・チャーム株式会社福岡支店配属、ドラックストア、卸店 渉外を担当、リテール営業として新人賞を獲得。 株式会社リクルートHRマーケティング、関西HR営業部、株式 会社リクルート、HR営業部にて新卒メディアの営業、関西全領域支社MVPを3度獲得で殿堂入り、関西新規受注額ギネス、 13Q連続達成など成果を残す。 主に経営者と商談担当として、5年半で600名を超える経営者と向き合う。その出会いの中で儲かる会社、伸びる経営者を感覚的に知る。 2011年、株式会社LESTAS(株式会社名入れ製作所)設立。

年間2万社の利用を支える自社開発の顧客管理システム

実は名入れカレンダーだけで、約850億円の市場規模がある。

レスタスの「法人向け名入れカレンダー」のEC(電子商取引)販売は現在、年間2万社が利用中。小ロット受注にも対応でき、「町のスナックの店主が10冊だけ注文する」ことも可能だ。町の印刷所では単位(ロット)が少なすぎて利益にならないため、取り扱い不可能な数である。一方、一部上場企業から1万冊単位で受注することも。大手企業にとっても、これまでよりはるかにコストカットできるメリットがある。

ほかにも、「お名前シール」や「名入れ鉛筆」など、入学入園準備のお子様向け商品は年間約15万人に購入されている。

紙の加工商品が90%を占め、オーダーメイド品を扱う自社のECプラットフォームに特化して事業を展開している。

ただし、こうした商品を扱っている企業はすでに多くあった。それでもレスタスが快進撃を遂げている理由はその裏側、タスクの徹底した軽減や合理化にこそある。その強さの根幹にあるのが、独自に開発したCRM(顧客関係管理)システムだ。

ほぼ「全自動システム」が好評で、高いリピート率

「楽天やアマゾンなどのショッピングモールは既存製品の通販が得意な一方で、オーダーメイド品が不得手。なぜかというと、オーダーメイド品は購入のプロセスが煩雑で、導線設計が大変だからです」

たとえば、ちょっとしたデザインを既製品に入れられる商品を販売するには、画像処理のソフトでのデータ入稿が必要になる。さらに、見積もりや金額、納期などの情報をメールでやり取りする必要があり、とても手間がかかる。

レスタスの場合、発注者側は専用の画像ソフトを持っていなくても問題ない。ExcelやWordを使う程度の感覚で、直感的かつ簡易的に入稿まで完成できる。

また、入稿完了後も専用のフォームがあり、入力項目に抜け漏れが発生する余地がなく、メールを介さずスピーディにやり取りが完結する。

一方、メーカー側にもメリットしかない。システムが直接、裏側でつながっており、FAXや手書き伝票が間に入らないため、受発注ミスが発生しない。発注者とメーカー、レスタスの3者が同一のシステム上でタスクが完結する。

さらに、リピートして発注したい場合はすでに必要な情報を入力済みのため、たったの2クリックで再注文が可能。一度買ってしまえば恐ろしく発注のハードルが低い。リピート客からは「安心して買える上にかんたんで、発注がラク」と好評を得ている。

「リピート率は異常に高い(笑)。1回使っていただくとお客様が離れません。営業人員が不要なのは特徴です」。

営業人員はゼロ。その分、Webとデータをフル活用

集客のほとんどをWebマーケティング、いわゆるインターネット広告で展開している。中でも、検索連動型広告(リスティング広告)とコンテンツマーケティング(事例や代表のインタビュー記事など)が主流だ。営業メンバーはゼロ。「応対メンバーがいないため、当社へご訪問いただくことも出向くことも、基本的にお断りしています」という徹底ぶりだ。

これらの集客施策に対し、自前のシステムが威力を発揮している。受発注時の業種や資本金、地域、時間などのデータを取得し、フル活用して広告や人員配置を最適化しているのだ。

もちろん、データ活用の営業支援ツールは世の中にたくさんある。しかし、大脇氏曰く「当社ほどのきめ細やかな施策は、独自のツールがないと難しいと思います。既存ツールをAPI連携するだけでは追いきれない数値もありますから。そのため、当社は他社のマーケティングツールを一切使わず、すべて独自開発したシステムで展開しているんです」。

外注しているのは、DTPなどオペレーションが必要な一部の業務だけだという。

人件費率をつねにチェックし人員配置を最適化

社員の構成も徹底して合理化されている。特に経営企画や経営管理、ファイナンス、開発、マーケティングの部門を重視しているため、約45名の社員数の会社にしては該当部門の人件費率が高いという。

マーケティング担当やCTOは上場企業の経験者だ。「規模をいたずらに大きくするつもりはないのですが、付加価値の高いチームが強ければ事業は拡大する。売上が上がるほど営業利益率が上がる構造にしたい」と大脇氏。

逆に、徹底した自動化によって、オペレーターが必要なカスタマーサクセス部門の人件費率は徹底的に下げている。オペレーターの人数は全社員の30%未満とし、システムの自動化を極限まで突き詰めた上で電話応対のパターンをテンプレ化。

電話応対の内容を録音することでテンプレ改善や人員配置の最適化に活用し、売上と人件費率をつねにチェックする徹底ぶりだ。見積もりなどは30秒後に自動送信され、「レスが遅いとお客様のストレスになる」課題もクリアしている。

地方の常識は東京からは見えない「逆張りの発想」

そもそもなぜ「名入れカレンダー」だったのか。

大脇氏はかつて、リクルート社で人材営業に従事していた。ところが、2008年にリーマン・ショックが起きて急に仕事がなくなったのをきっかけに、起業を決意。新しい事業構想を毎日メモに書き上げ、ゼロベースで考えたのだ。

ECを普通にやるだけでは、参入障壁が低く競合優位性がない。大きなECプラットフォームに出店して商品を売り、売上はあるのに利益が出ない企業を多くみてきた。それならば……。

「市場規模があって単価もリピートもあり、ECプラットフォームでは買いにくいもの。それはBtoBの商品ではないか。名入れカレンダーはどうだろう。とたどり着いたんです。すでにGoogle カレンダーがあり、紙のカレンダーなんてこれから誰も使わなくなり、伸びない。だから逆にチャンスだと思いました」。

実際、地方の企業にとって「法人の名入れカレンダー」はなくてはならないもの。名入れカレンダーが送られてくる、あるいはもらうことが、企業の与信に関わることもあるほどだ。「今年はあの会社からカレンダーがもらえないけど、大丈夫なのか?」との会話になるわけだ。

にわかに信じがたいが、その認識の差に「東京のベンチャーには決して考えつかない発想だし、ギャップがあるのが逆に有利だと思った」という。

「誰に相談しても、どの先輩経営者からも『正気か、カレンダーなんてバカじゃないのか』と。親からも「私でもアカンのが分かる」と(笑)。言われるたびに、これはチャンスだ、いけると思いました。つまり裏を返せば、相談した尊敬する先輩経営者たちは、参入してこないわけです。トッププレーヤーが来ない領域にあえて張る、逆張りの発想でした」

また、「名入れカレンダー」に着目した理由はもう一つあるという。キーワードは「大阪」。レスタスの本社があるのは大阪だ。

実は紙の商材はほとんどが四国で作られている。四国と大阪は海を挟んで隣だ。そのため、大阪は紙製品や紙加工の日本最大の産地である。

カレンダーの70%は大阪のメーカーで作られている。値札やダンボール、封筒などもすべて日本のトップメーカーは大阪にある。紙問屋とメーカーの数が圧倒的に多い。そのため「カレンダー後」の商品の横展開が見えやすかった。これらの理由から、「名入れカレンダー」を始めたのだ。

600人の社長を見て分かった「伸びる会社の仕組みづくり」

名入れカレンダーをECで販売するにあたり、これほど徹底して事業の仕組みを合理化したのには理由があった。

大脇氏は600名超の代表を見てきた中で「伸びる会社と伸びない会社」があったという。伸びない会社は「システムや仕組みづくりができていない会社」だったというのだ。

「『いいエンジニアや営業を採用できれば当社は伸びる』と代表がおっしゃっていた会社はほとんど伸びませんでした。これって『人頼み』なんです。つまり他責思考が根底にあり、事業の成長に再現性を持たせられない考え方。営業人員を次々と採用して、数量の原理で事業を発展させようとするのは、成長に必要な重要指標や変数が多すぎて的を射ず、大手企業以外にはしんどい手法です」

一方、伸びる会社は「仕組みとシステムがあり、競合優位性が高い。だから、素直で地頭がよくて、意欲が高い人なら誰が来てくれてもいいと言う」そうだ。つまり、いい仕組みがあり、それに乗っかってくれるいい人材が採れれば、会社は伸びると考える。

「自分は営業職が好きだったので分かりますが、エースが7割の売上を握っている収益構造では再現性がありませんし、投資家が安心して投資できない。だからレスタスは、営業がたくさん必要な事業構造には絶対にしたくなかった」

大脇氏は採用のプロとしてリクルートで関西支社MVPを3度も獲得で殿堂入り、数々の記録を達成しただけあって、説得力のある言葉だ。仕組み化で事業を作らないと次の時代は生き残りが難しいのは確かだろう。

過去の成功体験にとらわれずどう変わるべきか

今後は、ECでの紙商材の横展開に加えて、自社システムを他社へ提供することも考えているという。

地方の企業はFAXの受発注地獄に苦しんでいる。レスタスのツールを使えば、日本の製造業からタスクを減らせる自負があるのだ。

「名入れカレンダーの展開を通じて、労働集約型の仕事でもタスクを減らせば生産性を高められると実感した」という。レスタス自身、社内のタスクを減らした結果、付加価値の高いメンバーを集められるようになった成功体験がある。

そこで2年前の2019年に「タスクを減らして、日本の生産性を上げる会社に変えていこう」と「株式会社名入れ製作所」から、タスクを減らす=レス、タスク=「株式会社レスタス」へ社名変更。「レスタスしよう」が合言葉になっている。

「あらゆるものがオンラインで完結するようになったとき、ぜひ当社のサービスを使っていただきたいです。今後はおそらく、営業の人間が不要になる時代が来ます。私自身がかつて営業職で、大好きでしたから、自己否定にはなってしまいますが。

ただ、大事なことは、過去の成功体験にとらわれず、時代を見てどう変わるべきかを判断することだと思います」。

独自開発のシステムによって無駄なタスクを一掃し、世界中の業務を効率的にしてより創造的な世界にすることをビジョンに掲げているレスタス。海外展開も視野に入れており、ますますの飛躍が期待される。

<会社情報>
会社名:株式会社レスタス
創業:2011年6月
資本金:5億1,062万円(準備金含む)
事業内容:technologyと独自のマーケティング理論を用いて、オーダーメイド商品を制作、販売するECサイトを企画・開発・運営。各種紙販促商品印刷販売。
運営サイト:名入れカレンダー製作所、名入れタオル製作所、年賀状印刷製作所、挨拶状印刷製作所、お名前シール製作所、ノベルティの名入れ製作所
所在地:大阪市北区中之島3-2-18 住友中之島ビル4F
URL:https://www.lestas.jp/

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