M&A仲介業者
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M&Aを支援する専門家の中で、特に近しい存在がM&A仲介業者とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)である。どちらもM&Aに関する高度な専門的知識を基に、事業の売買支援を行なっている。今回は、M&A仲介業者とFAの違い、M&Aに関わる専門家の役割について解説していく。

内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

目次

  1. M&Aの仲介業者とは?
    1. M&A業者の役割
  2. M&A仲介業者とFAの仕事の違い
    1. 各社の強み
  3. M&A仲介とFAそれぞれのメリット、デメリット
    1. M&A仲介業者のメリットとデメリット
    2. FAのメリットとデメリット
  4. M&A専門家の選ぶ際の注意点
    1. M&Aに関する知識が豊富であること
    2. 会社経営の知識が豊富であること
    3. M&Aの実績が豊富であること
    4. 誠実に対応してくれること
  5. M&Aに絡む他の専門家
    1. 弁護士
    2. 公認会計士
    3. 金融機関
    4. 公的なM&A支援サービス
  6. M&Aを成功させるために

M&Aの仲介業者とは?

M&A仲介業者とは、M&Aにおける売る手と買い手を引き合わせ、その間に入ってさまざまな仲介業務を行うことを生業としている。

M&A業者の役割

M&Aを希望する売り手と買い手は数多いが、数ある企業の中からシナジー効果が高いと見込まれる企業同士を引き合わせ、M&Aの譲渡方法の決定や評価価額の見積もりといった支援を行い、M&Aを成功に導く役割がある。そして、めでたく縁談がまとまれば、トップ面談を行って基本合意の締結や最終契約、クロージングへと進めていくことになる。

M&A仲介業者は、基本的に売り手と買い手の両方を代理する。流れとしては、譲渡側の企業がM&A仲介業者とアドバイザリー契約や秘密保持契約を締結し、M&A仲介会社は引き合わせを行った後、実際のM&Aの契約へと進んでいくことになる。

M&A仲介業者とFAの仕事の違い

M&A仲介業者とファイナンシャル・アドバイザー(以下、FA)は、どちらもM&Aを行う際に業務を依頼できる専門業者ではあるが、M&A仲介業者が売り手と買い手の間に入って双方にとって最適な買収を支援するのに対し、FAはどちらか一方の専属になって、契約先の利益の最大化を図るという違いがある。

FAになる会社としては、主に外資系投資銀行、証券会社、メガバンクなどがあげられる。

各社の強み

外資系投資銀行は、世界中にネットワークがあることが強みであり、中小企業でも、海外進出を検討する際はお世話になることもあるだろう。証券会社やメガバンクもM&Aの支援業務を行っているが、全ての会社が行っているわけではなく、あくまで、顧客へのサービスという側面が強い。

M&A仲介とFAそれぞれのメリット、デメリット

それでは、M&A仲介とFA、どちらに依頼するのが賢いのだろうか。その点も重要な経営判断でもあるので、それぞれのメリット、デメリットをしっかりと認識しておく必要がある。

M&A仲介業者のメリットとデメリット

まずはメリットについて紹介する。

・M&A仲介業者のメリット

まず、M&A仲介業者は、売り手と買い手の両方を代理して仕事を行うため、双方の企業の駆け引きなどに翻弄されず、妥当な着地点に落ち着きやすいこともあり、FAに比べるとM&Aの最終的な成約に結びつきやすいというメリットがある。

また、M&A仲介業者は、売り手と買い手の両方から仲介手数料を受け取ることになるため、FAに比べると、一方の当事者に求められるフィーが安く設定されることが多い。そのため、規模の小さい中小企業のM&Aにおいては、M&A仲介企業に依頼をするのが一般的になっている。

・M&A仲介業者のデメリット

M&A仲介企業に依頼するデメリットとしては、双方代理特有の問題点でもあるが、M&Aによってなくなってしまう売り手側よりも、今後も事業拡大を行い再度M&Aを行ってくれる可能性のある買い手側の立場に立ってM&A仲介を進めてしまうなど、利益相反に陥ってしまう可能性があることである。

そのため、売り手企業からすると、希望通りの価格ではなく、それ以下の価格での契約となってしまうこともある。自社の利益を最大化するためには、FAへの依頼を検討してみてもよいかもしれない。

FAのメリットとデメリット

それでは、FAに依頼するメリットとデメリットは何だろうか。

・FAのメリット

大きく3つあるので、順に紹介していく。

(1)相談しやすく条件を満たしてもらえやすい

M&Aの支援先は売り手か買い手かのどちらか一方であるため、どちらの立場であっても、自らの要求を相談しやすく、条件を満たしてもらえやすいことであろう。

実際のM&A交渉では、相手側の事情や目的・意向を考慮することもあるが、基本的には契約先のことを考慮したサポートを行うため、経営コンサルタントに準じた助言を受けられることになる。FAは、自社の意向を最大限に考慮してくれるのが大きなメリットだろう。

(2)売り手側は売却価格を吊り上げやすい

M&A仲介業者の場合には、上記にもあるように、買い手企業のインセンティブが働いてしまう可能性がある。もちろん、M&A仲介業者が全てそのような対応をするわけではないが、その点を踏まえるならば、自社が売り手側であって、売却見込価格を高められるだけの価値があると確信できるならば、高く売却できる可能性が高いFAを支援先として選択した方が、メリットが大きいといえるだろう。

(3)買い手側の手数料を安く抑えることができる

買い手側としてのFA利用のメリットとしては、手数料を安く抑えることができる点がある。

一般的に、仲介の場合には、売り手よりも買い手の方が手数料の設定割合が高額となっているケースも多い。それは、そのほうがトータルコストとしてM&Aが成立する可能性が高いためだが、場合によっては不公平感が出てしまうことがある。

その点、FAの場合には、M&A仲介業者と違って売り手と買い手がそれぞれに契約をすることになるため、そのような問題が生じることは少ない。

・FAのデメリット

FAには、手数料が高額になりやすいというデメリットがある。M&A仲介業者の場合は、両者から手数料を受け取ることができるが、FAの場合はどちらか一方からしか報酬が得られない。そのため、FAの手数料は一般的に高額となっている。

買い手側にとっては、手数料が高額になってしまえばキャッシュフローが悪化するため、その後のシナジー効果が減退する可能性がある。また、売り手側としては、期待していた譲渡対価から手数料支払いの負担が増えることになる。

また、売り手と買い手の双方がFAに交渉を依頼している場合、それぞれのFAが互いの依頼者の利益を主張するあまり、折り合いがつかなくなることもある。その場合、交渉期間が長くなり、結果的に破談となってしまうことも少なくない。

特に、経営者の早期引退の意向が強い場合など、早期の譲渡が必要なM&Aのケースでは、大きなデメリットとなってしまう可能性がある。

M&A専門家の選ぶ際の注意点

それでは、M&Aの専門家といっても、とても範囲が広いことがわかったところで、どのようにその専門家を選べばよいのだろうか。

M&Aに関する知識が豊富であること

まずは、当たり前だが、M&Aに関する豊富な知識を有していることである。M&Aの業務を滞りなく遂行するためには、M&Aに関連するさまざまな分野の知識が必要になる。M&Aの対象となる会社の業界情報はもちろんのこと、財務、法務、労務や最近ではITに関する知識も必須である。

会社経営の知識が豊富であること

M&A後には、文化の異なる二つの会社が融合することになるので、経営上の課題を多く抱えることも多い。そのため、考えられる経営リスクやその改善方法などの知見を持っている仲介業者が望ましい。

M&Aの実績が豊富であること

M&Aは、会社の規模や業種によって対応も千差万別であり、会社やオーナーの人生に関わることであるだけに、細やかな気配りも必要となり、多くの定性的な判断も求められる。そのため、M&Aの実績があることは非常に重要である。

大手のM&A仲介会社の場合には、経験の浅いスタッフが担当になることがあるので、頼りないと感じた場合には、担当者を変えて欲しいなど、しっかりと自己主張することも忘れてはならない。

誠実に対応してくれること

また、対応の誠実さや、人脈、独自の専門的知見なども判断材料になる。ただ、その点については、他の専門家を併用することによっても補完可能である。

M&Aに絡む他の専門家

M&Aに関連する専門家は、M&A仲介業者とFAだけではない。非常に多くの専門家が、M&Aには関与することになる。全体のイメージをしっかりとつかむためにも、M&Aにどのような専門家が関与しているか、しっかりと知っておく必要があるだろう。

弁護士

まずは、弁護士である。M&Aの場合は特に、法務に関するデューデリジェンスをしっかりと行い、企業の抱えているリスクを把握する必要があるため、お世話になることも多いだろう。注意すべきは、比較的報酬が高額なため、使いどころを事前に定めておく必要があるという点である。

公認会計士

次に公認会計士である。公認会計士は、財務デューデリジェンスにおける資産査定が主な業務になる。また、税理士は、特に親族内承継やM&Aではない、社内の第三者承継においてより強みを発揮する。

金融機関

金融機関もM&Aの専門家である。彼らの最大の役割は、株式買い取りや納税資金調達のための融資である。そのため、金融機関の協力なしに大型のM&A成立は困難である。最近は、金融機関自体がM&Aのコンサルティングを行うことも増えており、特に地方における情報網は群を抜いている。

公的なM&A支援サービス

昨今の中小零細企業のM&A需要に応えるための公的な取り組みもある。小規模な企業においては、M&Aの専門家による仲介ビジネスとしては成立しないため、公的なM&Aの支援が行われているのである。商工会議所や商工会、各都道府県等に設置されている事業引継支援センターにおいて、無料もしくは非常に安価でM&Aのアドバイスから専門家の紹介まで行っている。

M&Aを成功させるために

今回は、M&Aに関わる専門家として、特にM&A仲介業者やFAについて詳しく説明してきた。

M&A仲介業者とFAの大きな違いは、契約が売り手と買い手の双方に対してのものか、どちらか一方のみかという点である。どちらにもメリットとデメリットがあり、M&Aにおける自身の立場によっても活用方法が異なる。

M&Aに関わる専門家はM&A仲介業者やFAをはじめ、公的なサービスも含めて数多い。それぞれの強みや弱みをしっかりと認識して、M&Aを成功に導くことは、経営者の手腕のひとつといえよう。

文・内山瑛(公認会計士)

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