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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

一般に、贈与を行うと税金がかかるのは、知られている。よく知られているのは、年間110万円までは税金がかからないことだが、実際は金額以外にも贈与の目的や贈与の仕方によって非課税の限度額は異なる。ここでは、贈与にかかる税金はどのようなものか、税率や特例について説明する。

目次

  1. 贈与には税金がかかる
    1. 贈与税の税率
  2. 贈与税がかからない 年間110万円
    1. 複数人から贈与を受けた場合
    2. 暦年贈与に注意
  3. 相続時精算課税という贈与税の特例あり
    1. 贈与時は無税、相続時に課税
    2. 2,500万円まで贈与税は無税 それを超えたら税金がかかるが…
  4. 贈与税の特例4つ
    1. 1)住宅取得等資金の非課税制度と2つの注意点
    2. 2)おしどり贈与
    3. 特例3:教育費用の一括贈与の非課税制度とその注意点
    4. 特例4:結婚・子育て資金の贈与の非課税制度
  5. 贈与税が非課税となる特例をうまく利用して節税

贈与には税金がかかる

贈与を行った際にかかる税金が、贈与税である。これは、金銭をもらい受けた方にかかる税金であり、その税率は最高で55%と、他の税金に比べ非常に高い税率だ。

贈与税の税率

では、贈与税の税率はどれだけくらい高いのか。税率は、直系尊属(実の両親や祖父母等)から贈与を受けた場合とその他の人から受けた場合とで異なる。

20歳以上の者が直系尊属から金銭をもらい受けた場合の税率(特例税率)は、基礎控除(110万円)を引いた後の金額が200万円以下の部分には10%で、200万円を超えた部分については4,500万円を超えた部分に対してかけられる55%まで8段階に分かれている。

その他の場合の税率(一般税率)は、基礎控除(110万円)を引いた後の金額が200万円以下の部分の10%から3,000万円を超えた部分に対して適用される55%までの8段階である。税率の内訳は同じであるが、適用される金額が直系尊属から受ける場合に比べて低くなっている。

贈与税がかからない 年間110万円

贈与税が110万円までならば、無税となっているのはよく知られている。これは贈与税の計算が贈与を受けた金額から基礎控除と言われる110万円を引いた後の金額を元に計算されるためである。

複数人から贈与を受けた場合

では、複数の人から110万円ずつ受け取った場合はどうなるのか。例えば、同じ年に二人から110万円ずつもらった場合はどうなるのか。

贈与税は受け取った人が、1年間でいくらもらったかによって計算される。この場合、受け取った人はその年には合わせて220万円もらったこととなり、110万円を超えるため贈与税がかかることとなる。

暦年贈与に注意

贈与を複数回受ける場合に注意が必要となるのは、暦年贈与である。これは、複数年に渡って毎年受贈する行為をいう。贈与が毎年行われたものとされるのではなく、前もってまとまった金額の贈与の約束をして、その金額を分割で支払ったものと税務署に判断される可能性がある。

その場合、そのまとめた金額で贈与税の計算がなされることになる。例えば、110万円を5年間に渡り贈与した場合、税金が110万円の贈与で無税×5年ではなく、110万円×5年分=550万円を贈与したものとされ、贈与税が67万円(一般贈与の場合)かかる場合もある。

これを避けるために、贈与のたびに贈与契約書を交わし、それぞれを別々の贈与とすることがある。

相続時精算課税という贈与税の特例あり

相続時精算課税とは、生前に贈与を行って 相続の発生後に その贈与を受け行った財産を含めて 相続税の対象とするものである 。

贈与時は無税、相続時に課税

相続時精算課税を選択すると、相続の発生前までは比較的安い贈与税で 贈与することができるが、相続が発生した後にほかの相続財産と合算し、相続税の計算を行う。なお、1度相続時精算課税を選択すると、その後同じ贈与者からは暦年贈与の制度を適用することはできなくなる 。

2,500万円まで贈与税は無税 それを超えたら税金がかかるが…

相続時精算課税の無税となる金額は、2,500万円までである。ただし、これは1年間の金額ではなく、これまでに 贈与された金額の合計を示す。つまり、それまでの合計金額が2,500万円を超えた場合、今後の贈与に関して全て贈与税が課せられる。その税率は20%だ。これは、金額がどんなに増加しても変わらない。

相続時精算課税を利用して贈与された金額が2,500万円を超えた場合 、20%の税金がかかる。ただしこれは、いわば相続税の前払いであり、相続税を計算する際にあらかじめ支払われた相続時精算課税の贈与税については控除される。

贈与税の特例4つ

相続時精算課税以外に、贈与税の特例はいくつか用意されている。相続時精算課税は、相続時において生前に贈与された分について相続財産とみなす制度であるが、中には贈与した時点で今後の課税に影響を及ぼさないものもある。

以下ではそのような贈与税の特例について説明をする。

1)住宅取得等資金の非課税制度と2つの注意点

住宅取得資金等の非課税制度とは、住宅を取得するため、あるいはすでに居住している住宅を増改築するための費用を実の親から受贈したときに、一定額について贈与税が非課税となるものである。いくらまで非課税となるかについては、住宅を取得するための契約をした時期と、その住宅の消費税がどれぐらいであるかによって異なってくる。

例えば、契約をした時期が2020年4月1日から2021年3月31日までの場合は、消費税が10%の場合1000万円まで非課税となるが、消費税がかからない場合(個人が自分の住宅を売却する場合)については、500万円まで非課税となる。

なお、当該住宅が免震構造であるなど一定の要件を満たした省エネ等住宅であれば、非課税枠は500万円増える。

・注意点1:本体のみに使える

この制度は住宅や土地の本体を買う場合や増改築そのものにのみ使うことができ、仲介手数料等の付随費用に充てる事はできない。

・注意点2:贈与時期に注意

次に注意しなければならない点は、贈与を行う時期である。この贈与が物件の本体のみに使うということを示すためには、物件の代金等の支払い前までに贈与を受けなければならない。またこの制度上、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに物件の引き渡しを受け、少なくとも引き渡しを受けた年のうちに住み始めなければならない。

2)おしどり贈与

住宅を買う場合における贈与の特例は、親子間のみに限ったことではなく、夫婦間でもある。これは結婚20年を超えた夫婦の間で、住宅の購入資金を贈与する場合または、住宅そのものを贈与する場合の贈与について2,500万円まで非課税となる。

この制度では、物件本体または物件本体を買う資金を贈与する場合にのみ使うことができ、仲介手数料等の付随費用に使う事はできない。しかも、使うことができるのは、同じ配偶者について1回限りとなっている。

特例3:教育費用の一括贈与の非課税制度とその注意点

贈与について非課税にできるものは、住宅以外にも教育資金の贈与が挙げられる。例えば、直系尊属(父母や祖父母など)から直系卑属(子や孫など)へ教育費用として使う金銭を贈与することによって、贈与税を非課税とすることを可能である。

この制度の非課税の限度額は、1,500万円である。教育資金として認められるのは、学校への授業料や入学金、寮費、通学交通費、修学旅行代など、学校に支払うものが対象となっている。またそのうち、ピアノや水泳などの習い事で学校など以外に支払う金銭の上限は、500万円だ。

・注意点1:資金は信託銀行などに預けなければならない

この制度を利用する際、資金は直接相手に渡してはならず、信託銀行等に預ける必要がある。信託銀行には教育費用の贈与を行うための信託商品が、銀行などの信託を行わない金融機関においては教育資金贈与のための預金口座が提供されている。

贈与の実行と、教育資金の引き出しは、この信託商品や預金口座を通じて行うこととなっている。原則として、贈与者が資金の預け入れを行い、受贈者は教育資金などの支払いや請求のたびに当該信託商品や預金口座から引き出しを行う。

なお、税務署への手続きは信託銀行や銀行が行うため、基本的に贈与者や受贈者の側で必要な手続きはない。

・注意点2:期限付きの制度である

本制度は原稿執筆時点(令和2年11月)では令和3年3月31日までの贈与に対して適用される。今後の税制改正によっては期限が延長される可能性もあるが、本制度の利用に際しては注意していただきたい。また、受贈者が30歳までに使い切る必要があり、それまでに残った資金があった場合は、特例から外れることとなり、通常の贈与税がかかる。

特例4:結婚・子育て資金の贈与の非課税制度

資金の贈与については、教育資金の他に結婚・子育てのための費用についても特例がある。直系尊属から直系卑属へ結婚や子育てを行うための費用を贈与する場合も、非課税制度が設けられている。この制度の非課税の限度額は1,000万円までで、結婚のみの贈与金額の上限は300万円までとなっている。

この制度の内容は、教育資金の贈与に関するものとほとんど同じである。すなわち、信託銀行や銀行などの専用の信託商品や銀行口座に贈与者が贈与する資金を預け入れ、受贈者は結婚や子育てに使うたびに資金を引き出す。

・注意点

本制度は原稿執筆時点(令和2年11月)では、2021年3月31日までの贈与に対して適用されるものとなっている。今後の税制改正の状況によっては期限が延長されることもあるが、本制度の利用に際しては注意していただきたい。さらに、受贈者が50歳になるまで、または贈与者が亡くなるまでに使い切る必要があり、受贈者が50歳になった場合は、残額が贈与税の対象となり、贈与者が亡くなった場合は残額が相続税の対象となる。

贈与税が非課税となる特例をうまく利用して節税

ここでは、贈与税の限度額がどうなっているか、一般のものと特例のものと交えながら説明した。基本的には年間の限度額は110万円までとなっているが、これとは別枠で特例が用意されている。本稿がお役に立てれば幸いである。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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