生産年齢人口の減少にともない、日本における外国人労働者の雇用は増加傾向にある。外国人を対象とした派遣・請負事業を活用すれば、中小企業でも外国人派遣社員を雇用しやすくなった。今回は、外国人派遣労働者を雇用するときのメリットや注意点などについて説明する。
目次
外国人派遣に関する事前知識
都心のコンビニエンスストアに限らず、地方都市の小売店などでも外国人労働者を見かけることが多くなってきたが、どれくらい存在するのか気になる方もいるだろう。日本における外国人労働者の雇用状況について説明する。
外国人派遣社員の雇用状況は?
厚生労働省がまとめた「外国人雇用状況の届出状況まとめ」によると、2019年10月末時点の外国人労働者数は165万8,804人であり、2018年よりも19万8,341人増加して過去最高水準となった。
ちなみに、外国人を雇用している事業所数も24万2,608か所と過去最高の数値を更新した。
外国人雇用届出のあった業者の中で、労働者派遣・請負事業を行っている事業所数は1万8,438か所まで増加しており、外国人労働者の20%程度が所属している。したがって、外国人派遣社員も増加傾向だと推察できる。
外国人派遣社員が多い業界
派遣及び請負事業を実施する企業で働く外国人就労者は、どのような業界に多いのだろうか。
「外国人雇用状況の届出状況まとめ」によると、日本国内の外国人労働者は製造業が最も多いが、外国人派遣社員の多くはサービス業で就労していることがわかる。
外国人派遣社員を雇用するメリット4つ
国内で外国人労働者数が年々増えているが、増加には理由がある。外国人雇用は企業にメリットをもたらすからだ。ここからは、企業が外国人派遣社員を雇用するメリットを紹介する。
メリット1.人手不足を補える
日本では少子高齢化の進行にともなって、15歳以上65歳未満の生産年齢人口が減少傾向にある。求人倍率が高まる一方で就労者数は減少しており、企業で人手不足が深刻化している。
人手不足の状況は改善の兆しが見えないため、女性や高齢者、外国人労働者の雇用で補うようになった。
メリット2.海外進出に必要な人材を確保できる
企業が海外に進出する場合、対象国の言語で対応するだけでなく、異文化の理解が求められる。このような課題を解決するために外国人派遣の仕組みが役立つだろう。
例えば本多機工株式会社では、外国人労働者の雇用によって既存社員に海外進出を意識させ、外国人社員による英語教室を通して相互理解も深めた。
外国人派遣社員を単なる労働力として扱うのではなく、社内外で交流させれば既存社員の海外適性まで向上させられるだろう。
メリット3.必要なスキルを持つ外国人を見つけやすい
外国人派遣社員を雇用する場合は、基本的に外国人労働者が就労している派遣会社に相談する。自社で依頼したい業務を派遣会社に説明して、依頼事項を満たす外国人派遣労働者を紹介してもらう。
つまり自社で採用活動をせずに、業務の遂行に必要なスキルや日本語能力を有した外国人を雇用できる。
メリット4.雇用の負担を減らせる
外国人を直接雇用する場合、厚生労働省による雇用ルールを守らなければならない。しかし外国人の雇用では、雇用状況の届出や雇用保険の手続き、離職対応などもある。
外国人雇用の経験がない経営者だと、ルールを適格に理解するのは難しいだろう。
しかし、外国人派遣会社における雇用契約は、基本的に派遣会社と外国人労働者の間で結ばれている。
就労に必要な在留資格や就労ビザなどの条件も満たす外国人を雇用し、請負契約となる場合も外国人の雇用に必要な手続きを派遣業者に確認できる。
外国人派遣社員を雇う場合の注意点2つ
外国人派遣社員を雇用する際には、雇用ルールの把握や受け入れの準備だけでなく、外国人派遣会社の見極めも大切だ。外国人派遣会社を選ぶ際に注意すべきポイントを解説していく。
注意点1.外国人派遣会社の信頼性や実績
労働者派遣事業は、2015年から厚生労働大臣の許可が必要となっているため、事業許可番号の有無について最低限確認したほうがよい。
派遣労働者とはいえ、違法な雇用契約を結べば「労働契約申込みみなし制度」が適用され、派遣社員と直接労働契約を結ぶこともある。
また、外国人派遣の実績が少ない派遣会社だと、トラブル発生時にうまく対応できないこともあるかもしれない。
外国人派遣の実績だけに目を奪われず、在留資格の確認をはじめ基本的な雇用ルールを順守している業者を選ぶようにしよう。
注意点2.就労条件について確認する
外国人派遣社員を雇用する際には、在留資格や就労ビザなどの条件を必ず確認しなければならない。一般的な条件は外国人派遣会社でクリアされるが、自社でも各項目を理解しておくのが無難だろう。
条件1.在留資格
外国人が日本で特定の業務に従事するには在留資格が必要だ。以下の在留資格については原則就労が認められておらず、別途手続きが必要となる。
・文化活動
・短期滞在
・留学
・研修
・家族滞在
永住者やその配偶者、日本人の配偶者、定住者であれば就労制限はないが、基本的には在留資格で定められた業務にしか従事できない。
条件2.就労ビザ
外国人を日本で雇用する場合、在留資格によっては就労ビザが必要になる。永住者やその配偶者、日本人の配偶者、定住者以外の場合、ほぼ就労ビザを発行しなければならない。
外国人派遣会社と労働契約を結んでいる時点で、就労ビザを所有していることはほぼ間違いないが、在留資格と合わせて確認しておこう。
条件3.滞在期間
日本に滞在する意図で入国した外国人は、就労に関わらずビザが必要となり、滞在期間も定められている。
滞在期間を過ぎている外国人を雇用すると、不法就労となって懲役や罰金刑の対象となる。日本での滞在許可期間については確認しておこう。
条件4.業務内容
外国人派遣社員を雇用したくても、日本では下記の通り派遣労働者が就労できない業務がある。
・港湾運送業務
・建設業務
・警備業務
・医療関係業務(病院など)
自社の業務が該当すれば、そもそも外国人派遣労働者を雇用できない。
外国人派遣社員を雇用するポイント3つ
厚生労働省の「外国人の活用好事例集」では、外国人とうまく協働するためのポイントが紹介されている。
ポイント1.就労意識の違いを認識する
外国人の就労意識は日本と異なる点がある。例えば職能主義だと評価システムが曖昧になりやすく、評価部分の不透明性が外国人に不満を与えるかもしれない。
また、業務を明確に決める職務主義のもとで労働経験がある場合、契約外の業務にストレスを感じやすいだろう。
外国人とうまく協働するには、日本特有の就労環境における曖昧さを修正しなければならない。
ポイント2.ボーダレスな環境を整える
外国人派遣社員と日本人社員は、お互いの言語や文化の違いを認めたうえで相互理解を深めなければならない。そのためには、外国人に日本語を学ばせるだけでなく、日本人にも外国語を学べる環境を整えるのが肝要だろう。
また、宗教や文化の違いに苦しむ外国人のメンタルサポートも重要である。
ポイント3.外国人派遣社員の生活をサポートする
日本での生活に不安を感じる外国人派遣社員も少なくない。外国人派遣会社にサポートを全て任せるのではなく、自社でも外国人派遣社員が生活者として自立できるよう配慮すべきだ。
例えば居住地域の病院やスーパーなど、生活に必要な施設情報を共有するサポートがよい例だろう。日本での生活をサポートするコミュニケーションは外国人派遣社員と信頼関係を築くのにも役立つはずだ。
厚生労働省:「外国人の活用好事例集」を参照
外国人派遣の仕組みを適切に活用
外国人派遣労働者の雇用は人材不足解消に役立つほか、グローバル市場進出に必要な外国語や異文化を社内に広められる。
外国人雇用に不安がある場合、外国人派遣サービスを活用するとよい。雇用に際して経営者が直面する課題を減らせるだろう。
ただ、外国人派遣労働者を受け入れるときは社内の環境を整備しなければならない。外国人派遣会社に受け入れのポイントを確認したり、各都道府県に設置された外国人雇用管理アドバイザーに相談したりすることも検討してもらいたい。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)