元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書
(画像=girts/stock.adobe.com)

(本記事は、吉田 尚記氏の著書『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』=アスコム、2020年8月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

Q 発言するタイミングが計りづらい

A 手を挙げよう!

タイムラグのもたらすもう一つのデメリットが、発話するタイミングの難しさです。話している人の発言が終わるまで待っていたら、他の人と発言するタイミングがかぶってしまった、ということを多くの人が経験しています。オンラインでは場を共有していないので、誰かが発言しようとしているという雰囲気を察知しにくいのは確かです。同時にしゃべり出して、「あ、どうぞどうぞ」と譲り合ったり、逆にそれを避けようとして空白ができたり……。これ、私もとてもよくやってしまいます。ただ、タイムラグがある以上はもうしょうがない、と腹を決めるべきポイントです。

ここはもう、学級会のときのようにいきましょう。そうです、手を挙げましょう!画面内でリアルに手を挙げるか、手を挙げるツールがあればそれを使いましょう。チャットで「しゃべりたい」という意志を表示するのもいいでしょう。一般的な会議でも司会進行役の人がいることが多いと思いますが、オンラインでは発言順をきれいに整理してもらう意味でも、司会を立てるのが理想的です。

Q 会話がうまく回らない

A 会議でも飲み会でも司会を立てよう!

司会を立てることには、他にもメリットがあります。

先ほどもちょっといいましたが、オンラインのコミュニケーションは「会話が一つになる」という特徴があります。

私には中学生の娘がいますが、娘の学校は、新型コロナウイルス感染拡大防止の休校中は、いくつかの授業がオンライン化されていました。それを横からのぞいていたことがあるのですが(これもオンラインでないとできないことですよね)、娘はちょこちょこマイクをミュート(消音)にして、関係ないことや授業内容に対しての反応を声に出したりしていました。もしこれを、実際の教室でみんながやっていたら授業は成立しなくなってしまうかと思いますが、オンライン授業は滞りなく進んでいました。オンラインでの会話には、こういう特徴があるのです。ときどき先生に「吉田さん!」なんて当てられていましたが、授業における先生は、まさに会話の司会でもあります。

先ほど挙げた例でいえば、リアルの飲み会では少人数グループに分かれるのが普通ですが、オンラインでは何十人いても一つのグループになることができます。だからこそ、「話を配分する人」=司会が必要なんですよね。「飲み会で司会?」と違和感を感じるかもしれませんが、みんな仕切ってくれる人を待っているな、とつくづく感じます。私は、オンライン飲み会に呼んでもらった場合、ほとんど司会してしまっていました…!マウント気味でお恥ずかしいです。

Q 音声が途切れたりして相手の話を聞き損ねてしまった

A 勇気を持って、改めて聞き直す!

対面では、「あの人には話が聞こえていて、あの人には話が聞こえていない」なんてことは起こりません。一方で、オンライン会話ではネット環境は人それぞれで「一人だけ話が聞こえていない」ということが起きがちです。でも、「私、聞こえてないです」と告白するのは、奥ゆかしい大多数の人にはかなりプレッシャーとなると思います。

相手側の画面が止まってしまったり、音声が聞き取りにくかったりした場合は、遠慮せずに伝えましょう。そのまま会話を続けてしまうと、誤解やすれ違いが生じる可能性もあります。相手がクライアント先や偉い方であれば、伝えないとより大きな問題に発展する可能性もあります。私も何度か経験したのですが、「聞こえない」というのは、聞いている自分の環境が悪い場合もありますが、話している側のマイクや回線のトラブルであることも多いんです。そんな場合は、しゃべっている本人は気がつきません。指摘してあげることこそ、マナーではないでしょうか。

あと、ちょっとズルいテクニックとしては、ホントはぼーっとして聞き逃していたんだとしても、ネット回線のせいにしてもう一度聞き返す、なんてこともできてしまいます。本当は、そんなテクニックはダメですけどね!

Q 話が広がりにくい

A 相手の画面に質問をぶつけよう!

オンライン会議では、狭い画面に映っているものがすべてです。

オンライン会話中に子どもやペットが画面内に乱入してきて、場が和んだという経験はありませんか?会社で会話しているだけでは、相手のそんな一面に気づくことがなかったかもしれません。関係ないものが映った瞬間こそ、質問カードをドローする大チャンスです。そこから、「犬がお好きなんですか?」とか「お子さん何年生ですか?」とかどんどん雑談をした方がよいと思います。ビジネストークや制度的コミュニケーションはできても、雑談や交話的コミュニケーションがしづらいのがオンライン会話の泣きどころですから、こういうチャンスは積極的に活かしていきたいですよね。

加えて、相手にも、自分に対して興味を持ってもらえるようにしたほうがいいでしょう。

たとえば、自宅からオンライン会話をする場合、自分の背後にあえて「相手が気にしてくれそうなもの(たとえば好きなアーティストのポスターとか、アニメのフィギュア、ペットなど)」を映し込んでおくのは、押しつけがましくなくていいですよね。自分で○○が好き!と宣言するのとは違い、相手には無視する自由もあるわけですから。これは、どこから配信するかを選べるオンラインならではの武器かもしれません。

相手の背後にあるものや聞こえてくる音などには、「あ、いま救急車が通りましたね」とか「ピンポン鳴ってませんか?」など、どんどん触れていきましょう。

そして、本編にも出てきていますが、「WHY」ではなく「HOW」で質問することを忘れずに。たとえば山の風景写真が後ろに飾ってあったら、「なぜ、その写真を飾ってあるんですか?」ではなく、「自分で撮ったんですか?」「どうやって手に入れたんですか?」とかですね。自分で選んだバーチャル背景(ツールによっては、好きな画像を背景に入れ込めるサービスもあります)を使っている人なら、その人なりの考えもあるでしょうから、それに触れてあげるといいでしょう。趣味を最大限に発揮して、自分も好きなものに関する背景画像を使ってみるのもいいかもしれませんね。

私も、自分の名刺画像とSNSのQRコードを表示している人や、自分の座右の銘を映している人と打ち合わせでご一緒したことがあります。息の詰まりそうなオンライン会議で、数少ない自由を感じられるポイントなので、背景では存分に遊んだほうが、みんなにとってプラスですね。

最後に身も蓋もない話ですが、予算や環境によってままならないことも多いでしょうが、インターネット回線やカメラやマイクの品質は、高ければ高いほどお互いにとって有益なのはまちがいないです。

オンラインコミュニケーションが教えてくれたこと

オンラインコミュニケーションは発展途上にあります。その中での作法やマナーなども、今後作られていくでしょう。また、通信のクオリティが上がっていけば、より多くの情報をやりとりすることができるようになって、会話の性質も変わっていくと思われます。

ただ、オンラインコミュニケーションの普及によって、リアルな会議って、単に連絡や議論をするための場というだけでなく、親睦を深める場でもあったんだ、ということが改めて浮き彫りになりました。同じ時間に同じ場所に集まって、同じテーマについて話し合う前後に、「娘さん最近どうしてるの?」とか軽い会話をすることが、とても重要だったわけです。会議の議題に参加するときよりも、そんな他愛のない会話にどんな態度で参加するかの方が、その人が集団に対してどう思ったり感じたりしているかを、はるかに雄弁に物語っているわけです。

結局、本当に大切なことだけをやりとりするなら、顔を見なくてもいい。電話でも、文字だけでもかまいません。でも、わざわざ顔の見えるオンライン会議を選ぶのは、私たちは本質的に「雑談」というコミュニケーションを求めているということの証拠だと思います。今後、直接会う会議がまた自由にできるようになったら、むしろ、たくさん雑談したくなりませんか?

オンラインコミュニケーションは、「私たちが本当は雑談が大好き」ということを教えてくれたんではないでしょうか。

元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書
吉田 尚記
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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