独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業
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(本記事は、医師が開業時に、すでに存在する医院やクリニックをM&Aすることで承継し開業する方法を説明する伊勢呂哲也氏の著書『独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

環境を変えて、情報を集め、人脈をつくる

① 環境を変える

私は勤務医として勤務しはじめるころから、いつかは開業をしたいと考えていました。しかし、これまでもお伝えしたように、勤務医をしていると日常の流れの中に取り込まれてしまいがちです。

このままでは先に進めないと思い、まず考えたことは、今いる環境を変えなければならないということ。勤務医をしながら漠然と日々を過ごすのではなく、そうしていながらも自らの刺激になるような、そして自分は開業するのだということを再度意識するために動き出しました。

私がまずはじめたことは、グロービス経営大学院(https://mba.globis.ac.jp/以下、グロービス)に通いMBAを取ることでした。このグロービスには私のように仕事を持っている人、もちろん会社勤めをしている方などが多く通い、人、モノ、情報が自然と集まる環境が用意されていました。もちろんMBAを取得するための経営学・経済学なども学んでいきます。

日本では医師というと、患者の診療・治療だけやっていればいい、医師は他の業種と比べてそれだけで確たるものがあるのだという考えがあると思います。勤務医とはいえ医師なのだから今さら他に勉強なんか、まして大学院などに行って学ばなくてもいいだろう、そう思われる方もいるかもしれません。たしかに、診療や治療をしていれば医師としての腕は上がっていくかもしれません。しかし、開業しようと考えているのであれば話は変わってきます。私が皆さんにお伝えしたいことは、勤務医をしている延長線上に独立・開業があるのではないということです。独立・開業するためにはそのための動き、準備をすることが重要になります。私も勤務医として漫然と過ごしてきて、このまま開業しても……という不安にも似た想いが去来していました。だからこそ、しっかり準備し、今の自分があるのだと思います。

ただ、本書でも述べてきたとおり、これからの時代、私たち医師を取り巻く環境は厳しさを増し、医師としてだけでは安閑とは過ごしていけないでしょう。まして開業して、経営者として医院を軌道に乗せていかなければならないとなれば、なおさらです。

医師と経営者、この求められる二つの役割をきちんと果たしていくためには、まず私自身に一番足りない経営学を学び、経営者としての意識と知識を身につけることが大きな課題と考え、グロービスに通うことを決めました。

② 人脈を広げ、生きた情報をつかみ取る

私は開業の7年前にグロービスに入学し、そこから4年で修了(卒業)しました。グロービスでは、経営学のMBAを取得できたことはもちろん、多くの人と出会い、今の自分を支えてくれる人脈をつくることができました。とかく世間が狭い医師にとって、グロービスは異業種交流会的なものでもあり、今回、承継開業するにあたってお世話になったマッチング業者の情報なども、ここでの会話から得ることができました。現代社会では、情報はインターネットを使えばほぼすべて、それも容易に得ることができますが、残念ながらインターネットの情報には信用するに足りない、いい加減なものもたくさんあります。一方、グロービスの仲間からの情報=口コミは、経験者やその経験者から聞いた人からの確かな情報であり、私は人と人とのつながりの重要さ、人脈の威力を実感しました。

そもそも医師という職業は、その狭い世界や自分の殻に閉じこもって外の動きが見えなくなってしまいがちで、世の中の一般の価値観がわからなくなったりすることもあります。そんな自分の殻を打ち破るためにも、グロービスのようなところに無理やり身を置いて、経営に興味がある、経営者を目指す人たちの価値観に触れることができたのは、非常に価値があるものだったと思っています。

視野を広げ、今の自分には何が足りないのか、これはこうすればいいのか?
例えば銀行から借り入れするときには、どんな経営計画書を出せばいいのか?
経営を軌道に乗せるためにはどんなマーケティングが必要なのか?

など、「開業=起業」ということを意識し、他の世界で起業を目指している人がどういう勉強をしているかを直接学びとることが大切だということを実感できるのではないかと思います。

ただ、MBAをとるとなると短くても2年から3年はかかるものですから、集中してそんなに時間がとれないというのであれば、起業セミナーなどに参加してみるのもいいかと思います。起業セミナーはせいぜい数日、一週間くらいの期間のものが多いので、参加するハードルもかなり下がります。

MBAにしても起業セミナーにしても、そういったところへ参加することで道が開かれるのだと思います。私はグロービスに通っている期間にあるゴルフのコンペで、私にとってその後の人生に決定的な影響を与えてくれることになる人物との出会いがありました。その人は、有明こどもクリニック理事長 小暮裕之氏です(以下、小暮先生)。小暮先生は、グロービスのことやその後学ぶことになるラーニングエッジのことなど、私にいろいろと教えてくださいました。小暮先生との出会いがなかったら、今の自分はなかったかもしれないといっても過言ではないほどの恩人でもあります。「こんなところがあるよ、こんないいものがあるよ」と何かにつけて親切にアドバイスをしていただきました。小暮先生ご自身も小児科医としてご自分の病院経営を成功させ、複数の分院をもち、その旺盛な好奇心・向学心は衰えることを知りません。後述する医療経営大学なども主催され、多くの医師たちと学び合っておられます。もちろん私も現在に至るまで勉強させていただいています。こういった人生のターニングポイントになるような出会いも、開業に向けて動き出していなかったら、なかったと思っています。

ちなみに先ほど出てきた小暮先生から教えていただいたラーニングエッジは、私もそこで多くを学ばせていただきましたが、本書の読者の方にもおすすめです。私はグロービスとは別に、開業が決まってからはじめました。世界や業界のトップクラスの講師からそのノウハウを学ぶことができるので、とても有意義だと思います。私はここでは主に、マーケティングを学びました。具体的には、病院のホームページからはじまって看板、チラシの作成に至るまでのノウハウです。またラーニングエッジ社主催のセミナー・講演会などへも参加し、ここでも全国各地から異業種の方々が来られるので、人脈づくりや異業種の経営手法などを勉強することができました。

③ 学び続ける姿勢が大事

もう一つ、私が参加してよかったと思うものに医療経営大学があります。参加したきっかけは前項でもふれた小暮先生と知り合いになったことです。医療経営大学は小暮先生が主宰する医療経営に関する勉強会です。小暮先生との会話の中で開業医についていろいろアドバイスをいただく中で、小暮先生が医療の経営について勉強する医療経営大学をつくるという話を聞き、ぜひ参加したいと、その第1号(第1期生)として入学することを決めました。正式に入学したのは、開業してからということになります。

まず、皆さんにお伝えしたいこの大学のすごいところは、「入学金120万円で1000万円の成果保証をします」というもの。成果保証で売り上げ1000万円が立つのですから入学金120万円も損はないでしょう(第2期生以降はコース別料金となります。詳しくは直接お問い合わせください。巻末に問い合わせ先となるHPの情報を掲載しております)。

具体的にどういうことを学ぶのかというと、単に売り上げを上げることだけではなく、看護師をはじめとするスタッフとの関わり方、経営マインド・経営理念の作成などについて学びました。そこから、経営者としての心のあり方、医師としてだけではなく経営者としての側面も磨くことができました。

小暮先生ご自身が、医師だけではなく他業種の経営者とのお付き合いも多く、またそういったセミナーに参加されて切磋琢磨されてきた方なので、単なる開業医の経験者というだけではなく、一歩先を行く感覚をお持ちの方ですので、その小暮先生からのアドバイスや教えは、自分にとっては目新しいことが多く、まさに目からうろこという経験を何度もしました。

また、この大学には数十人単位のコミュニティもあり、「看護師が辞めたがっている」とか「事務スタッフからの不平・不満が多いけど、どうしたらいいだろう」など仕事上の悩みをコミュニティで発信すると、「うちの場合はこうでした」などとすぐリアクションが返ってきて、実際の経験者の体験談を知ることができることは、非常に参考にすべき点が多く、勉強になります。それに、「悩んでいるのは自分一人じゃないんだな」「一人で考えこまなくていいんだ」と勇気づけられました。特に人事に関することは、繊細な部分でもあるので、あまり他医院の情報を知る機会は得られない中、仲間として率直にアドバイスをもらえるのはとても有難いものです。そして、すでに独立・開業している人で、どうしたら自分の医院がもっとよくなるかという、目指す方向が一緒で、共通の志を持ってがんばっている人たちばかりが集まっていることが、何より救いになります。よく「経営者は孤独」といわれますが、こういったコミュニティがあるだけで孤独を感じなくなるものです。これだけでもこの大学に入る価値はあったと思っているくらいです。

皆さんの中には経営と聞くと、細かな数字のことや資金繰りのことなど、まず数字のことを勉強するものだと思い浮かべる人もいるかもしれません。もちろんそういう話がないわけではありませんが、どちらかというとそうした細々した小手先のことよりもっと大きな視点で経営を見ていこう・考えていこうというのが小暮先生のお考えのようです。私も参加している仲間たちもそのお考えに共感しています。

授業は1年制で、私は第1期生で2019年6月に入学して今年(2020年5月)が卒業ということになります。月1回の座学(グループワークが多い)があり、毎週アカウンタビリティといって小暮先生や仲間たちへの報告があります。例えば「この1週間でこんなことがありました。こんな課題があります。こんなふうに解決しようと思っています」などを報告し合います。もちろん良い報告ができるように日々頑張ろう! となりますし、報告に対して仲間から「私はこんなふうに乗り越えたよ」などと意見がもらえます。毎週日曜日がこの報告会にあてられるのですが、問題や課題を設定して結果を報告することを毎週続けるのは正直キツイです。でも、1年近くやってきて得た学びの量から考えると、やることで損はなく、1年間がんばる価値があります。会場もいい雰囲気の中で頭を働かせようということで、雅叙園でやったりアメリカンクラブを使ったり嗜好を凝らしていますし、合宿などもやっているので、楽しみながらできることも大きいと思います。

また、小暮先生は、病院のブランディングというものにも力を入れるよう生徒にはすすめています。その一環がメディア戦略で、小暮先生ご自身もテレビ番組をもっていらっしゃったことがありますし、私にもテレビやラジオなどへの出演を紹介してくださいました。本書を執筆中に新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された最中、テレビ番組からコメントを求められ、私も何度かテレビに出演しました。そうやってマスコミへの露出度を上げていき、病院のブランドをつくり上げていくことが集患をはじめ、医師や看護師、事務スタッフの採用につながるわけです。

私が医療経営大学に入学したのは開業してまもなくでしたが、開業3年目とか10年目、20年目という方もおられ、年齢的にも経験的にも多彩な方々がおられます。現在のところは(本書執筆時2020年5月末)まだ私たち1期生だけですが、今後2期生、3期生と入学してくると医療業界の中での大きな勢力になってくるのではないかとも思っています。この医療経営大学には、YouTubeチャンネルがあります。私も出演していますが、皆さんにもぜひ見ていただきたいと思います。私が文字では伝えきれなかったことなどは、映像から汲み取っていただけると思います。開業前の方でも、私のように開業してすぐの方でも、開業して数年経った方でも関係なく入学できます。皆さんもこの医療経営大学に入学して同じ志をもった精鋭の中で切磋琢磨して、物心ともに開業へのテンションをあげていってください。

独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業
伊勢呂 哲也
大宮エヴァグリーンクリニック院長。名古屋大学医学部医学科卒業。JAあいち豊田厚生病院初期研修医を経て、JAあいち豊田厚生病院腎臓泌尿器外科に勤務(若手研究B 科研費取得)。その後、2014年に医療法人仁生会高木病院、医療法人誠高会おおたかの森病院を経て現職。おおたかの森病院では、泌尿器科を新規の診療科として立ち上げ、科の長として運営に携わる。2019年、第三者承継によって大宮エヴァグリーンクリニック院長に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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『独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業』シリーズ
  1. 環境を変え、情報を集め、人脈をつくることが重要な理由
  2. 開業するには自分の専門外の勉強が必須な理由
  3. 承継者がまず経営基盤を固めるべき理由
  4. 経営者が経営理念をみんなで作るべき理由
  5. 承継者が最初にホームページを刷新すべき理由