WORDS by EXECUTIVE
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「もし20年後も紙で印刷されているとすれば、とても驚くべきことだ」——。アメリカを代表する新聞と言えるニューヨーク・タイムズのマーク・トンプソンCEO(最高経営責任者)は、米テレビ局のインタビューでこう答えた。

デジタル収入が紙媒体の収入を抜き、新聞業界におけるデジタル展開をリードするニューヨーク・タイムズ。デジタルで成果を挙げているとは言え、紙をやめるという発言は、新聞業界が岐路に立たされているということを改めて思わせる。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はイギリスのBBCで会長を務めた経歴も有するマーク・トンプソンCEOの発言を取り上げ、同社の戦略のほか、9月に就任した新CEOについても触れていく。

トンプソンCEOの発言の背景にあるものは?

冒頭紹介したトンプソンCEOの発言は、アメリカのニュース専門放送局であるCNBCのインタビューにおけるものだ。実際にはその発言の前に、次のように語っている。「私はニューヨーク・タイムズが次の10年間は間違いなく印刷されていると信じている。そして恐らく、15年以上経ってもだ」

そしてそれに続くのが冒頭の発言だ。今はまだ新聞を紙で読みたいという読者層は一定程度存在する。紙で読むことに慣れた高齢の層などだ。ただ10年後、20年後もその層が有料購読を続けてくれるわけではない。トンプソンCEOが語った「スケジュール感」は、こうしたことももちろん念頭に置いているとみられる。

ただトンプソンCEOの発言は、そうした単純な理由だけに基づくものではない。新型コロナウイルスで落ち込んだ新聞広告の収入は簡単には元に戻らないと指摘し、広告に頼らないビジネスモデルの必要性を強調している。だから同氏は将来的には完全なデジタルへの移行が必然と考えているわけだ。

当然ながら、デジタルに移行すればメディアとしてのコスト削減につながる。印刷費も削れ、配達コストもゼロとなる。

「ニュースコンテンツのデジタル化」の次の一手は?

CEOに就任してから8年間にわたってニューヨーク・タイムズのデジタル化を主導してきたトンプソン氏。冒頭の発言の背景には、ニューヨーク・タイムズのデジタル版が好調なこともある。

2020年4〜6月におけるニューヨーク・タイムズの収入は、デジタル関連が紙関連を初めて四半期ベースで上回った。このことが発表された日、トンプソンCEOは「大事な節目を迎えた」と語っている。

ニューヨーク・タイムズの発表によれば、デジタル版の有料講読者数は約440万人(6月末)で、前年同月と比べると47%も増加している。ニューヨーク・タイムズはデジタルでやっていける——。トンプソンCEOは改めてそう思ったはずだ。

そしてそんなトンプソンCEOは2020年9月で新たなCEOにバトンタッチした。新たにCEOに就任したのは元COO(最高執行責任者)のメレディス・コピット・レビアン氏で、デジタル広告に強い人物だ。

つまり「ニュースコンテンツのデジタル化」に成功したニューヨーク・タイムズは、次は「広告のデジタル化」に挑戦するということなのだろう。

業界の将来を占う試金石的な役割も帯びる

新聞業界は今、非常に厳しい。日本も含めてだ。紙の講読者数が右肩下がりの状況が続いており、今後はさらにその状況が加速するのは確実だ。日経新聞などはデジタル版の講読者増が顕著だが、業界全体からみればこのようにうまくいっている事例はほとんどない。広告収入の落ち込みも大きい。

そんな中でニューヨーク・タイムズの今後の成否は、業界の将来を占う試金石的な役割も帯びていると言える。レビアン新CEOにバトンタッチしたあとのニューヨーク・タイムズがどのような動きを見せるのか、その動向に今後は要注目だ。

経営トップ、発言の真意
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