バブル崩壊から今に至るまで、日本企業は「選択と集中」と「持たざる経営」を進めてきた。その結果、どうなったか。
「法人企業統計調査年報」によると、ここ5年以上、日本企業全体の経常利益は安定して増勢基調であり、2016年には75兆円と、バブル期の倍近い水準に達した。一方で、売上高はこの30年間ほとんど横ばい。1989年以降を見ても、日本全体で1300兆~1600兆円のレンジ内を上下していて、直近の数字も1400兆円強にとどまっている。
日本企業は利益を伸ばすことには成功したが、新たな事業創造ができず、売上のトップラインを伸ばすことができずにいる。それに加えてのコロナショック、である。
これから成長を目指す企業には、「選択と集中」に対する正しいと戦略の軌道修正が必要ではないだろうか。M&Aアドバイザリー企業の代表取締役(匿名希望)に、成長を目指す日本企業が目指すべき道について4回に渡って寄稿してもらった。
1回目は、日本企業が金科玉条のように掲げる「選択と集中」の誤解の歴史についてだ。
1990年代後半に始まった「選択と集中」誤解の歴史
日本で「選択と集中」という言葉が一般化したのはいつ頃だろうか。今では、当たり前のように使われているこの言葉が広く紹介されるようになったのは、1990年代後半からだ。
1981~2001年の20年にわたり、ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOに君臨したカリスマ経営者、ジャック・ウェルチの著書が、1990年代後半に日本でベストセラーとなり、一気に広まったのだ。
だが、意外かもしれないが、ウェルチは「GEの全ての事業は、将来的にその分野における業界ナンバーワンかナンバーツーになるものだけにする必要がある」という考え方を述べたに過ぎず、多角化を否定するものでも、リストラを推進するものでもなかった。この時から「選択と集中」に対する誤った解釈の歴史が始まってしまったのだ。
背景には、日本の経済情勢があった。90年代後半、山一證券や日本長期信用銀行など、日本を代表する大手金融機関の経営破たんが相次いだ。その結果、金融機関各社は自らのバランスシート圧縮を迫られ、日本において一般的に使用されてきた事業会社同士での企業間信用(金融機関を介さない手法)も同様に圧縮を余儀なくされた。
こうした惨状を目の当たりにした日本の各事業会社は、バブル時に膨らませたバランスシートを圧縮する必要に迫られた。そんな折に紹介されたウェルチの言葉は、日本の経営者にとって“福音”となり、大ブームとなったわけだ。