新型コロナウイルスの影響で軒並み店舗への来店が減少する中、過去最高売上・粗利を記録したのがゴルフパートナーだ。これは3密回避の代表格であるゴルフが注目され、これまで課題となっていた若年層の顧客を獲得した結果とも言える。先行き不透明な状況下で可能性を広げる同社のビジネスモデルについて、話を聞いた。

(※2020年12月号「特集●コロナ禍でも強い地方・郊外型FCビジネス」より)

後藤 泰明氏
(画像=後藤 泰明氏)
後藤 泰明氏(47)
後藤 泰明氏(47)
ごとう・やすあき
大東文化大学経済学部卒業後、商工ファンドを経て、1999年ベンチャー・リンクに入社。 その後、支援先であったゴルフパートナーへSV室長として出向。2003年、同社へ転籍し、FC本部本部長兼執行役員に就任。2007年マザーズ上場、2009年ゼビオグループに参画し、現在に至る。

━━あらゆる業界で苦戦が強いられている中、御社では7月以降、過去最高の売上と粗利を記録されていると聞きました。要因として何がありますか。

後藤 当社でも想定していなかったのですが、いわゆる若年層と呼ばれる20代の若者たちがゴルフを始めたということが大きいです。実際、今年7月の20代の来店者数でいうと、昨年比で159%を記録しました。この数字が実勢を顕著に示していると思います。

━━若者がゴルフを選んだ理由はどこにあると思いますか。

後藤 大きく2点あると思います。まず、ゴルフが「密を回避する」スポーツであったということ。コロナによってこれまで若者たちがやっていた屋内スポーツができなくなってしまったり、屋外でも野球やサッカーといったチームスポーツが難しくなってしまったことが挙げられます。

━━2点目は。

後藤 こうした流れがある中、10万円の定額給付金が支給されたのが大きいと思っています。この10 万円という金額は、ちょうど中古のクラブのフルセットが揃えられる金額なのです。

10万円でフルセットを揃えるのもいいですし、ちょっとプラスすればかなり良いものを購入できるので、その辺が非常に後押しをしてくれたのだと思っています。

━━フルセットの販売も相当多かったと思います。ただゴルフの場合、一回フルセットを購入してしまうと、なかなか次に購入するまで期間が空いてしまうのではないのでしょうか。

後藤 私たちも若者が来てくれたからといって、安心できない部分があります。それはゴルフというのが、あらゆるスポーツの中で最も初回離脱率が高いと言われているからです。「上手く打てない」「難しい」「お金がかかる」といった理由で、約90%の方が初回で離脱してしまうのです。せっかくセットで揃えていただいた方々がごそっと離脱してしまうと、私たちの価値も無くなってしまいます。

ですから「自分に合うクラブを買い替えしながらスコアアップを目指しましょう」という形で、お客様を鼓舞しながら来店いただけるように手厚くサポートしています。

来店時にその場でクラブを診断 買取からプラスアルファの売上に

━━ゴルフ人口は2009年の990万人から10年間で780万人まで減少してきています。その中で、御社は238店舗から381店舗というように増店ペースにあります。まだまだシェアは伸ばせますか。

後藤 今後何店舗まで出店できるかというよりも、ゴルフ業界全体の市場で考えた時に、まず私たちは中古のマーケットを押さえています。ただ新品小売りでいうと、大手の量販店さんたちがしっかりと押さえてこられた。しかし今、これら量販店さんが非常に苦しくなってきていますこれはゴルフ人口が減ってきた中で、新品クラブだけでは厳しいことを示しています。

そのため撤退が増えてきているのですが、逆に当社はその撤退した後のエリアにおけるゴルファーの受け皿になるよう出店していっています。

━━エリアマーケティングして出店数を算出するというよりは、他社の撤退を見越して出店していくということですね。

後藤 人口に占めるゴルファー比率は一昔前の10%から7%に減少しています。ですから当社もよりターゲット層にピンポイントで訴求できるように、ゴルフ場や練習場と契約をして敷内にショップを出し始めています。それを入れるとまだまだ出店はできる。

独立開業プランの特徴
(画像=独立開業プランの特徴)

━━ただ、やはり基本はロードサイドに出店するのが多いんですよね。

後藤 90%ほどがロードサイドになります。奇しくも現在、コロナの影響で人口動態が変化し、郊外やロードサイド立地への需要が高まってきています。当社としても地方への出店を拡大していきたいと思っておりますが、直営だけではなかなかカバーしきれないので、このタイミングで独立開業プランでの募集を開始し、出店の選択肢を広げました。

━━エンドユーザーの集客方法で、独自の取り組みはありますか。

後藤 たとえばお客様の中で、「今、ゼクシオを使っている」という方がいらっしゃったとします。その場合、スタッフは「何代目のクラブですか?」とお聞きするのですが、お客様は細まで把握しておらず、「こういう形」といった曖昧な返事になってしまいます。つまり、最適な接客ができないのです。

そこで私たちが行っているのが、「クラブセッティング」というものです。これはロードサイドの立地を活かして、ご来店のお客様が停めている車のトランクから直接クラブを持ってきてもらい、そこから診断するというものです。そうするとお客様が言っていたクラブがしっかり判明しますし、ほかのクラブの状態も分かる。

その上で、5万円の買い取りだけではなく、新たに10万円の販売につながったりするのです。その上、それでお客様のスコアが上がれば評判が口コミで広がり、リピーターにつながる。これはあくまで、過去のクラブモデルも取り扱っている中古店ならではの強みだと思います。

━━こうした細かな取り組みがリピーター率の向上につながると。

後藤 極端ですが、当社の場合は10回販売するよりも1回買い取りをさせてもらった方がリピート率が上がるのです。なぜなら買い取りの際にはご自身の免許証も見せますし、自分の情報を開示する。だからお客様というのは買ったお店は忘れても、売ったお店は覚えているのです。だからこそ、買い取りを経験してもらう。そしてそのためには、今使っているものを売ってまで買いたいものがあると思える品揃えを取り揃えられるかどうかが重要になるのです。

▲国内500店舗体制を目指す
(画像=▲国内500店舗体制を目指す)

━━今後の成長戦略についてはどうお考えですか。

後藤 まず国内は500店の出店を一つの目安としています。そしてそのための施策として、今年9月から新たに独立開業プランを設けました。個人の方がご自身の地元で始められるため、事業を通じて地域のゴルファーの活性化につなげていただければと考えています。同プランは店舗やゴルフクラブ等の在庫も本部が一旦すべて準備するので、初期投資は600万円済みます。こうした施策を通じて、エリアを問わず、出店を拡大していきたいと思っています