かつて日本の家電製品は、海外の電器店でも一際存在感を放っていた。しかしその状況は既に変わりつつある。価格競争力や製品力で力をつけた海外メーカーの台頭が目立ち、日本製品が隅に追いやられるようになってきた。このような状況は、パナソニックや東芝など日の丸家電大手の業績を圧迫している。
海外家電メーカーが日本のシェアを奪ってきた
かつて、日本の家電メーカーの売上高は世界の中で見ても上位を独占していた。1990年代ごろから徐々にシェアを失っていくが、2002年はまだ、フォーチュン誌による世界の家電売上高ランキングでも、ソニーが1位、松下電器(現・パナソニック)が2位、東芝が6位、日立が9位と、日本の家電メーカーが上位に位置していた。
しかし、現在ではこのランキングに大きな変化が出ている。韓国勢のサムスンや中国勢のハイアールの売上増加が著しく、これらの海外勢に首位の座を奪われているのだ。そして、世界シェアが落ちれば売上の低下や利益率の低下につながり、その結果は業績に表れてくる。
もちろん、日本の家電メーカーもさまざまな取り組みを行っているため、「家電売上の世界シェアの低下=業績の悪化」とシンプルに紐付けることはできないが、各社の業績の悪化につながっていることは間違いない。
パナソニック、収益力を伴った新ビジネスの確立を模索
このように、パナソニックは家電売上の世界シェアを落とす中で、不採算事業からの撤退や新たな収益力の軸を模索し続けてきた。しかし、収益力を伴った新ビジネスを確立することは容易ではない。パナソニックは車載事業を収益力の軸にしようと試みたが、うまくはいっていない。
このような状況の中で、パナソニックの社長に就任して9年目となっていた津賀一宏氏の退任が発表された。プラズマテレビ事業からの撤退などを決断した津賀氏の功績は大きいが、退任発表に伴う記者会見では、収益力を伴うビジネスの確立の難しさを吐露する場面もあった。
新社長には常務執行役員の楠見雄規氏が就く。新体制の下でパナソニックがどのような動きを見せるのか注目を集めるが、当面は同社の「エナジー事業」から目が離せない状況が続きそうだ。
2020年11月に開催された経営方針説明会で、津賀氏は車載電池・非車載電池の両事業について、「エナジー事業として法人化し、新たな基幹事業として、着実に成長させてまいります」と述べている。特に最近では米EV(電気自動車)大手のテスラ向けの車載電池事業の収益が改善しており、期待感は高まっている。
東芝は不採算事業のリストラを断行、再エネ事業やシステムLSIで復活?
一方、東芝はどのような状況だろうか。東芝は現在経営再建中で、不採算事業の整理を進めている。すでに、アメリカにおけるLNG(液化天然ガス)事業や海外原子力建設事業などからは撤退しており、人材派遣サービスや物流サービスを展開する子会社の売却も行っている。
既存事業から今後、さらに撤退することも考えられる。具体的には、システムLSI(大規模集積回路)やHDD(ハードディスク駆動装置)、そして火力発電所の建設などだ。営業利益率が低い状態が続けば、経営再建に向けて撤退やむなしという決断を迫られそうだ。
そのため、東芝もパナソニックと同様に、成長事業を育てていくことに力を入れている。いま照準を定めているのが再生エネルギー事業のようで、すでに国内シェアで首位のメガソーラー設置や水力発電設備の事業には、引き続き注力していくものとみられる。
また、先行投資が重荷となり、現在は東芝の足を引っ張ってしまっているシステムLSIだが、将来的には東芝の収益の柱となる可能性もある。自動車業界で技術開発が進む「自動運転」においてシステムLSIは無くてはならない存在だからだ。
民間調査会社の富士キメラ総研のレポートによれば、自動運転車は2030年頃から市場が急速に拡大し、高度な自動運転が可能な車両(自動運転レベル4〜5)の世界市場は、2045年には2,139万台規模に達するとみられている。この有望市場で東芝のシステムLSIが大きなシェアを獲得できれば、東芝の収益力の柱となる可能性は高そうだ。
「勝ち組」が決まっていないビジネスで勝負!?
日本の家電メーカーが厳しい状況に陥っている背景には、海外勢の台頭があることは間違いない。しかしマクロ的に世界市場を見渡すと、まだまだ「勝ち組」が決まっていないビジネス領域もあり、その領域で日本の家電メーカーが新たに戦いを挑んで勝てば、また日本の時代がやってくるかもしれない。
勝ち組が決まっていないビジネス領域といえば、AI(人工知能)や自動運転、ブロックチェーン、仮想現実(VR)や複合現実(MR)などのXR技術などが代表格だ。すでに、東芝はシステムLSIで自動運転の領域にチャレンジしている。開発に対する先行投資はかさむが、粘り強く事業を続けていってほしい気もする。
日本の家電メーカーの経営陣が復活に向けてどう舵を切っていくのか、引き続き注視していきたいところだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)