医療業界
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの第3波が起き、まだまだ予断を許さない状況が続いている。コロナ禍が長引くにつれて企業の経営状況は厳しさが増し、従業員を解雇せざるを得ない企業が以前に増して目立っている状況だ。この記事では、業種ごとの解雇データから、各業界に対するコロナ禍のインパクトを考察する。

JAGフィールドによる調査結果を紐解く

総合人材サービスを展開するJAGフィールドは2020年11月、新型コロナウイルスの影響による業界動向の調査結果を発表した。この調査は企業の経営者を対象に実施されたもので、コロナ禍の影響でリストラや解雇といった選択を迫られたかについても聞いている。

以下がその結果だ。「はい」と応えた割合が多かった順にワーストランキング形式で並べてみた。「はい」と応えた割合が最も多かった業種は「医療・介護」業界で46.4%。続いて多かったのが「人材派遣」業界で43.2%という結果となっている。

<「新型コロナウイルスの影響でリストラや解雇といった選択を迫られましたか?」という質問に「はい」と回答した経営者の割合>
ワースト1位:医療・介護(46.4%)
ワースト2位:人材派遣(43.2%)
ワースト3位:小売・卸(38.4%)
ワースト4位:物流・運送(35.6%)
ワースト4位:IT・メディア(35.6%)
ワースト6位:建設・不動産(34.0%)
※調査人数:1,032人/調査期間:2020年10月16〜22日

新型コロナウイルス感染症が拡大していることを考えると、医療・介護業界などは売上高が上がっていそうな気もするが、実際にはリストラや解雇といった選択を迫られた経営者が多い結果となっている。なぜだろうか。

ここからはコロナ禍が実際に各業界にどのような影響を与えているのか、詳しく解説していこう。

医療・介護業界に新型コロナウイルスが与えている影響

新型コロナウイルスの患者が全国的に増えているにも関わらず、医療・介護業界でリストラや解雇といった選択を迫られている経営者が多い。それは、新型コロナウイルスに感染するリスクを避けるために病院を訪れる人が相対的に減り、病院の経営状況が悪化しているからだ。

事実、日本病院会や全日本病院協会などによる最近の調査でも、受診を控える人が増えたことや新型コロナウイルス対策で備品代や対策費がかさんだことで、病院の経営が圧迫されているケースが増えていることが分かっている。7~9月の調査では半数の病院が依然として赤字状態だという。

新型コロナウイルスが介護業界に与えている影響も深刻だ。東京商工リサーチが2020年12月3日に公表した「2020年『老人福祉・介護事業』の倒産状況」によると、老人福祉・介護事業における倒産件数は過去最多を更新している。

倒産件数が増えているのは、病院と同様に施設の利用控えが目立っていることやコロナ対策の費用負担が重荷となっていることが理由だ。倒産は従業員の解雇に直結する。第3波が起きている中で利用控えがさらに長引き、倒産件数が一層増えることに対する懸念が高まっている。

人材派遣業界に新型コロナウイルスが与えている影響

JAGフィールドの調査では、人材派遣業界でもリストラなどを迫られた経営者が多くいることが分かった。なぜだろうか。一言でいえば、人材派遣は景気の影響を大きく受けやすい業界だからだ。

景気が悪くなると、企業が人件費を抑えようとする。さらに、今回の景気の落ち込みは新型コロナウイルスによるものであり、派遣先となる工場などでは操業の一時停止なども余儀なくされるケースが増えたことも大きい。このような点が人材派遣会社の業績を圧迫しているわけだ。

ホテルや旅館など宿泊業向けに人材派遣サービスを展開していた企業も厳しい状況だ。2020年10月には、ホテル向け人材サービスに強みを持っていた神奈川県のヒトビット社が自己破産の準備に入ったことが報じられた。負債額は推定2億円と報じられている。

小売・卸業界に新型コロナウイルスが与えている影響

東京商工リサーチによれば、負債1,000万円以上の新型コロナウイルス関連倒産件数は、2020年12月4日時点で767件に上る。業種別では「アパレル小売店」が50件、「食品卸」が39件、「アパレル卸」が28件、「食品小売」が26件となっており、小売・卸業界の企業がコロナ禍で大ダメージを受けていることが分かる。

感染拡大を防止するために国や自治体が外出自粛を呼び掛けたことで、気軽に買い物に出掛ける人が減ったことなどが、小売・卸業界の企業の経営が厳しくなっている要因の1つだ。食品業界ではEC(電子商取引)などで売上を伸ばしている企業もあるが、リアル店舗での販売がメインの企業は、売上が苦しい企業が多い。

コロナ解雇、23都道府県で7万4,000人超に

各業界で「コロナ解雇」が目立ち始めているが、さらに状況が悪化するとみる専門家も多い。運転資金が厳しい状況になる企業が今後、さらに増えることが予想されるからだ。厚生労働省は12月1日、コロナ解雇が23都道府県で7万4,000人超となったことを発表している。この数字がどれくらいのペースで増えていくのか、引き続き注視していきたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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