日本国内で新型コロナウイルスの第3波が起き、札幌市と大阪市がGo Toトラベルキャンペーンの対象から一時除外されることが決まった。感染拡大防止の観点から妥当な判断と評価する声も多いが、一時除外が決定されるまでに随分時間がかかった。なぜか。その背景として、自民党の二階幹事長と旅行業界の関係を指摘する声もある。
GoToキャンペーンの全体像と一部停止についておさらい
まず、コロナ禍における需要喚起策として実施されている「Go Toキャンペーン事業」と、第3波が起きたことによる「Go To Travelキャンペーン」の一部停止について振り返っておこう。
Go Toキャンペーン事業は、2020年度補正予算で実施されている需要喚起策で、観光キャンペーンの「Go To Travelキャンペーン」、飲⾷キャンペーンの「Go To Eatキャンペーン」、イベントなどを対象として「Go To Eventキャンペーン」などで構成される。
このうち、Go To Travelキャンペーンは、旅行代金の1/2相当額を国が支援する事業だ。旅行代金の35%を割引という形で、15%を「地域共通クーポン」の付与という形で支援するというものだ。
このGo To Travelキャンペーンについて政府は、2020年11月24日、大阪市と札幌市をキャンペーンの対象から一時除外することを決めた。キャンペーンの対象から外すかどうかは北海道と大阪府の知事の判断に委ねられ、結果的に両知事が一時除外の意思表明をしたことから、今回の決定となった。
第3波発生にも関わらず一部除外になかなか踏み切らなかった政府
ここで、全国の新型コロナウイルスの感染者数の推移をみていこう。第3波発生の兆候は11月上旬ごろにあった。7~8月にかけて起きた第2波はいったん落ち着きをみせていたが、徐々に新規感染者数が増え始め、11月中旬には第2波のピーク時よりも1日の新規感染者が多くなった。
そして特に、札幌市や大阪市などで感染者数の増加が顕著であり、11月中旬の段階ですでにGo Toトラベルによる両市との往来を危惧する声が高まっていた。しかし、国はすぐには対策実施に動かず、前述の通り、最終的には国側は一時除外の判断をせず、北海道と大阪の知事に判断を委ねた。
Go Toトラベル事業は国の事業であるにも関わらず、知事側に判断を委ねたことに批判の声が高まった。病床の逼迫などが深刻化している医療業界などからもGo Toトラベルの一時停止を求める声が高まっていた。しかしなぜここまで政府の腰は重く、Go Toトラベルの中断に及び腰だったのだろうか。
なぜ政府の腰は重かったのか…その背景には政治家と旅行業界の癒着?
その理由として、政治家と旅行業界の癒着が要因となっていると指摘する声も少なくない。Go Toトラベルキャンペーンは旅行業界・観光業界を支援するための施策だ。Go Toトラベルが中断となると旅行・観光業界に影響が及ぶため、なかなか中断できなかったという見方だ。
実際のところは、政治家と旅行業界の癒着が要因とであるかは現時点では分からない。しかし、そう思わせる理由はいくつかある。
例えば、自民党総裁に次ぐ第2のポストにいる二階俊博幹事長は、全国旅行業協会(ANTA)の会長を長年務めている。その二階幹事長の政府・与党に対する影響力が大きいことから、Go Toトラベルを中断しにくかったのでは、という見方だ。
観光業界と二階幹事長のつながりは、別なニュースからも見て取れる。週刊文春が報じたところによれば、Go Toトラベルキャンペーンを受託した「ツーリズム産業共同提案体」に名を連ねる観光関連の団体から、二階幹事長らに献金が行われていたという。
実際、Go Toトラベルキャンペーンの実施実現のために二階幹事長は奔走したといわれており、二階幹事長の存在によりGo Toトラベル中断の決断が遅れたという見方は、確かに一定の説得力を帯びている感じがする。
政府は決定の遅れに対する説明責任を果たすべき
新型コロナウイルスの感染拡大防止は、国民の命を守る上で非常に重要な視点で、感染者の増減に合わせて政府が柔軟な対応を取るべきであることは間違いない。そしてその判断に、特定の業界との癒着などが影響することは許されるものではない。
もちろん、二階幹事長が旅行業界と関係が深いことを、Go Toトラベルの一部除外の決定が遅れた理由に直接結びつけることは現時点ではできないが、このような指摘がメディアや国民から上がっている以上、政府は決定の遅れに対する説明責任を果たすべきではないか。
新型コロナウイルスに関して最近はワクチン開発に関する明るいニュースも多いが、まだまだ予断を許さない状況だ。第3波がいったん落ち着いたとしても、ワクチン接種を待たずに第4波が発生する可能性もある。そのときは素早い判断が改めて国に求められる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)