自社株買い,目的,メリット,デメリット
(写真=PIXTA)

近年、国内で多くの企業から注目されている「自社株買い」。自社株買いには企業価値を高める効果があるものの、一方で注意するべきデメリットやリスクも存在する。自社株買いを検討中の経営者は、綿密な計画を立てるために正しい知識を身につけておこう。

自社株買いとは?

自社株買いとは、企業が自社の株を買い戻すことだ。すでに市場に流通した株式を買い戻すため、発行時の株式価格ではなく市場の時価で買い戻しをする必要がある。国内における自社株買いは、もともとは原則として禁止されていた。しかし、1994年や2001年の法改正によって、買付時などの一定の条件を守れば、金庫株(市場に出回らない株)として保有することが認められている。

単純な視点で見れば、わざわざ資金を費やして自社株を買い戻す行動であるため、あまりメリットを感じられないかもしれない。しかし以下で解説する通り、自社株買いはさまざまな目的で行われている。

自社株買いが行われる主な目的と事例

企業が自社株買いを行う目的は、大きく以下の3つに分けられる。

自社株買いの目的 概要
【1】株主への利益還元 自社株買いには株価を引き上げる効果があるため、その結果として株主に利益を還元できる。
【2】ストックオプションの取得 手に入れたストックオプションを、将来的に役員・従業員に報酬として与えるケースが多い。
(※詳しくは後述のメリットの見出しで解説)
【3】敵対的買収への対策 自社の持株比率を高めることで、敵対的な買収から会社を守ることが可能。

上記の中でも特に押さえておきたいポイントは、自社株買いには「株価の引き上げ効果」がある点だ。自社株買いが無制限に行われると、買付によって株価を大幅に釣り上げることが可能になるため、相場操縦行為を防ぐ意味合いで以下のような買付時のルールが設けられている。

〇自社株買いの買付時のルール
・1日に買付できる証券会社は1つまで
・1日の買付は、直近4週間における1日あたりの平均取引数量の25%まで
・大引け30分前になると買付できない
・寄付前の買い注文では、前日終値以下での指値注文はできない
・寄付後の買い注文では、その日の高値を超えた価格での指値注文や、直近の売買価格を上回る価格で反復継続した指値注文ができない

実際のケースにおいては、どのような目的で自社株買いが行われているのだろうか。もう少しイメージをつかむために以下では自社株買いの具体例を紹介しよう。

NTTの事例

2017年9月、日本電信電話株式会社(NTT)は1,500億円を費やして3,000万株の自社株買いを実施すると発表した。自社株買いの目的は「資本効率の向上」と「株主還元の充実」の2つであり、発表の翌日には100円ほど株価が跳ね上がっている。株価上昇の要因がほかにある可能性も考えられるが、NTTのような大企業の場合は、自社株買いの発表によって投資家の注目を集められる可能性がある。そういった側面からも自社株買いは株価の引き上げ効果を期待できるのだ。

ソフトバンクの事例

2019年8~9月にかけてソフトバンクグループも積極的な自社株買いを行っている。その目的は「ストックオプションの行使」などであり、2020年3月までは740億円を上限として引き続き自社株を購入する意向だ。この自社株買いを行った背景としては、株価が2018年12月の公開価格を下回っていたことが大きいと考えられる。つまり企業価値を回復させる(=株価を上昇させる)手段として自社株買いを行った可能性もあるだろう。

自社株買いは大企業でも頻繁に行われており、全体としては株主への利益還元や株価の引き上げを目的にしているケースが多い。ほかにも自社株買いにはさまざまな事例があるため、実態を知りたい人はニュースなどで確認しておくと良いだろう。

自社株買いが株価上昇につながる理由

自社株買いの仕組みをより理解するために、次は株価上昇につながる理由を解説しよう。自社株買いによる株価上昇には、ROEとPERの2つの指標が関係している。

1. ROEによる株価上昇

ROE(Return On Equity)とは、「当期純利益÷自己資本(株主資本)」で求められる自己資本利益率のことだ。この指標は簡単にいえば株主から集めた資金を使うことで企業がどれくらい効率的に収益を得たのかを表している。このROEが上がると株主や投資家からの評価が高まるため、それが株価の上昇につながっていく。自社株買いによってROEが高まるメカニズムを以下の例で確認していこう。

〇自社株買いでROEが高まる例
当期純利益が2,000万円、自己資本が1億円の企業では、ROEは以下の式で計算される。

2,000万円÷1億円×100=20.0%……【1】

自社株買いは自己資本を使って行われるため、たとえば2,000万円分の自社株を購入する場合は、以下のように自己資本が減少する。

2,000万円÷(1億円-2,000万円)×100=25.0%……【2】

【1】と【2】の計算結果を見てわかる通り、自社株買いをすれば自己資本が下がるので、自然とROEが高まっていく仕組みだ。ROEが高いほど、自己資本の効率性や収益性が高いことを意味するため、世の中の投資家から注目されやすくなる。

2. PERによる株価上昇

PER(Price Earnings Ratio)は「株価÷1株当たりの純利益(EPS)」で計算される株価の割安度を判断するための投資尺度だ。ある株価に関してEPSの何倍の値段がつけられているかを表しており、PERの数値が低いほど株価は割安であると判断される。自社株買いによってPERが変動するメカニズムも以下の例で確認していこう。

〇自社株買いでPERが下がる例
株価が2,000円、当期純利益が2,000万円、発行済み株式が10万株の企業では、PERは以下の式で計算される。(EPSは「当期純利益÷発行済み株式数」の式で計算)

2,000円÷(2,000万円÷10万株)=10倍…【3】

自社株買いで2万株を買い戻した場合、発行済み株式は8万株に減少(10万株-2万株)するため、この場合のPERは以下の式で算出できる。

2,000円÷(2,000万円÷8万株)=8倍…【4】

【3】と【4】の結果から自社株買いによってPERが2倍下がったことがわかる。つまりこの株式は割安の状態になったため、投資家から注目される可能性が高まるだろう。自社株買いを行うと発行済み株式が減り、その影響でPERも下がる仕組みはしっかりと理解しておきたい。ROEやPERは株価に影響を及ぼすが、実際の株価は投資家の動向によって変わる。

そのため自社株買いは必ずしも株価が上昇するわけではない。直後は株価が上昇したものの、最終的には下落してしまう例もあるため、後述で解説するリスクや注意点も意識することが重要だ。