7月上旬、東京の吉祥寺に1軒のステーキハウスがオープンした。店の名前は「やっぱりステーキ」。某有名チェーンと間違えてしまいそうな屋号だが、もちろん真似したわけではない。屋号が似ているのは単なる偶然で、ビジネスモデルやこれまでの歩みはまるで違う。話題のチェーンを率いる義元大蔵社長に今後の意気込みを聞いた。

(※2020年12月号「FOCUS―注目FC―」より)

義元 大蔵 社長(45)
(画像=義元 大蔵 社長(45))
義元 大蔵 社長(45)
義元 大蔵 社長(45)
よしもと・だいぞう
1975年2月生まれ。沖縄県那覇市出身。高校卒業後に渡米し、現地でフード関連の仕事に従事。帰国後、広告代理店や物流、インターネットなどの仕事を経て、40歳で独立。「やっぱりステーキ」を広めるために全国を行脚中。

――フランチャイズを含め、51店舗を展開しています。今年6月には吉祥寺店をオープンし、ついに東京初進出を果たしました。

義元 ようやくという感じですね。東京初進出というと、普通は新宿や渋谷などに出店するんでしょうが、少し控えめにしようということで、あえて吉祥寺を選びました。下見に来てみると想像以上に良いところで、非常に気に入っています。

――吉祥寺店は、ペットと同伴で利用できるそうですね。これにはどんな狙いがあるのでしょうか。

義元 実際にこの街を歩いてみて、ペットを連れて歩いている方が多いと感じました。それならペットと一緒でも入れる店にした方が、地元の方々にも受け入れてもらいやすいのではないかと考えたわけです。それができそうな店舗物件を探した結果、運よく理想通りの物件が見つかりました。おかげさまで、吉祥寺店は連日行列ができる盛況ぶり。土日ともなれば、1日に400人が来店されます。メディアにもかなり取り上げていただいたおかげで、コロナ禍で売上が落ちていた地方の店舗にも、客足が戻ってきました。

――耳にタコができるほど聞かれていると思いますが、店名の由来は。

義元 もう何十回と説明していますよ(笑)本土の方はご存知ないかもしれませんが、沖縄にはお酒を飲んだ後の〆で、ステーキを食べる文化があります。私もステーキには目がなく、「今日の〆は何にする」「やっぱりステーキだろう」というような会話のやり取りを、日常的にしていました。これがそのまま屋号になりました。だから決して「いきなり!ステーキ」さんを真似したわけではありませんよ。

――義元社長のプロフィールを拝見すると、物流関係や広告代理店、食品会社、インターネットなど、さまざまな仕事を経験されています。

義元 いつか起業しようという思いは20歳の頃からありました。D’sPlanning (ディーズプランニング)という会社名もその時から温めていたもので、〝大蔵がつくるもの〞という意味を込めています。いろいろな仕事に携わってきましたが、独立するなら飲食でと決めていましたので、必ず飲食に役立つ仕事を選んできました。結局、20年下積みをして、40歳で独立しました。

▲スープ・サラダ・ライス付きで1000円
(画像=▲スープ・サラダ・ライス付きで1000円)

――2015年に、沖縄の那覇に1号店をオープンしました。

義元 3坪でカウンター6席しかない小さな店で、おまけにロケーションもそれほど良くない。しかし、赤身肉のステーキ200g を、スープとサラダ、ライス付きで1000円で提供するというスタイルが話題となり、たちまち行列ができるようになりました。居酒屋やバーなどで働いている方も利用できるように、営業時間を朝5時までとしたことも功を奏しました。1日当たりの平均売上は15万円、月商にして280万円です。たった3坪の店でこれだけの売上が上がったのだから、手応えは十分でしたね。これはいけると確信し、半年後には2号店をオープンしました。

――さまざまな飲食業態がある中で、なぜステーキで勝負しようと考えたのでしょうか。沖縄であれば、他にも地元ならではの料理がたくさんあります。

義元 一言で言えば、自分好みのステーキがなかったからです。沖縄はステーキ文化が根付いているので、ステーキ店はたくさんあります。確かにどこも安くてそれなりに美味しいのですが、ボリュームが不足していたり、100%満足できなかったんですね。そもそもステーキは赤身が一番おいしい。だから肉厚な赤身のステーキを安く提供するお店を作ろうと思ったんです。

――牛肉の仕入れ原価が上がっている中で、1000円という低価格を維持するためには、いろいろな部分で工夫が必要だと思います。

義元 分かりやすいもので言うと、少人数で運営できるように客席の配置や導線など、レイアウトを工夫しています。だからほとんどの店舗は3人で回せます。これで人件費も抑えられますし、意外と生産効率も上がるんです。うまくいけば人件費は13%以下になる。出店立地についても、賃料を抑えられるように、あえて超一等地でない場所を選んでいます。

――また、居抜き物件に出店することで、初期投資も抑えています。

義元 使える設備があればそのまま再利用するので、減価償却も早く終わります。牛肉の仕入れ原価が上がっても利益を出せるのは、こうした工夫の積み重ねがあるからです。

――FC店が37店あります。事業開始当初から、フランチャイズの仕組みを採り入れた店舗展開を考えていたのでしょうか。

義元 そうですね。ただ、大々的に募集活動を行っているわけではなく、興味を持ってくださる方がいたら直接お会いしてみて、それからどうするかを判断しています。ですので、ホームページ上では加盟金や保証金、ロイヤリティなどについては一切記載していません。

▲席の配置や導線に工夫し業務効率を高めている
(画像=▲席の配置や導線に工夫し業務効率を高めている)

――直営・FCに関係なく、新店の出店候補地には、必ず義元社長自ら足を運ぶそうですね。

義元 需要がない、あるいは少ない場所に出店しても長続きしませんからね。出店する以上は、その地域にきちんと根付いて営業できるのかをしっかりと見極めなければなりません。だから、必然性を感じなければ、例え条件が良くても出店を見送ります。よく、「それだとスピード感のある出店ができないのではないか」と聞かれますが、そもそもうちは1年で何店舗増やすというような出店目標は立てていないので、それでもまったく問題はありません。

――今後の事業展開についてはどのように考えておられるのでしょうか。

義元 「やっぱりステーキ」については今申し上げたようなイメージで、需要のある場所を厳選しながら増やしていくつもりです。また、会社としてはこれだけでなく、他の業態にもチャレンジしたいと考えています。すでに居酒屋や沖縄そばのお店を運営していますが、これ以外にもいろいろなアイデアがあります。年内にはもう一つくらい、新業態のお店を出店できればいいですね。