自社開発やM&Aで業容拡大を進めてきたジャスダック上場のジー・テイスト(愛知県名古屋市)。傘下の外食チェーンは82ブランドにのぼり、2020年3月期の連結売上は約280億円を記録した。今期は新型コロナウイルスの影響で苦戦が続くものの、好調な焼肉業態で巻き返しを図る。阿久津貴史社長を直撃した

(※2020年12月号「FOCUS―注目FC―」より)

阿久津 貴史 社長(49)
(画像=阿久津 貴史 社長(49))
阿久津 貴史 社長(49)
阿久津 貴史 社長(49)
あくつ・たかふみ
1971年2月生まれ。立教大学卒業。暖中カンパニー取締役FC営業部長を経て、ダイニング企画社長に就任。2018年4月、ジー・テイスト社長に就任。大台商事社長、壁の穴社長なども兼務する。。

居酒屋業態の先行きは不透明 一方で食べ放題焼肉は好調

――「肉匠坂井」や「とりあえず吾平」「村さ来」など、さまざまな業態の外食ブランドを展開されています。

阿久津 現在82ブランド648店を運営しています。直営のブランドが多いですが、中にはフランチャイズ化しているものもあります。

――外食業界は新型コロナウイルスの影響で大きなダメージを受けました。御社の状況はいかがでしょうか。

阿久津 ブランドに関係なく、弊社の店舗も4月、5月はほとんど営業できませんでした。最近になって、ブランドによっては客足が少しずつ戻ってきていますが、居酒屋関係については今も状況は芳しくありません。首都圏の居酒屋は去年の5、6割くらいの売上しかありませんし、郊外の店舗についても、会食がほとんどないため苦戦しています。個人飲みも以前の状態にはほど遠い。本来であれば、年末年始は宴会で大忙しになりますが、今年はおそらくそれも見込めないでしょう。宴会の比率が高かった店ほど、状況は深刻です。

――居酒屋に限って言えば、コロナが収束したとしても以前のような状態に戻ることはないだろうという意見が多いです。

阿久津 特に総合居酒屋は、コロナ以前から客離れが進んでいましたからね。弊社もそうした現状を踏まえ、海鮮系に特化するなどして業態の改革に取り組んできました。

――居酒屋以外の業態についてはいかがでしょうか。これだけいろいろな業態を手掛けていると、中にはすでに、ある程度のところまで売上が回復しているものもあるかと思います。

阿久津 焼肉は非常に良いですね。特に6年前に始めた焼肉食べ放題のブランド「肉匠坂井」は、外出自粛の反動があったおかげで、7月の時点で、売上は昨年対比100%になり、以降もずっと昨年並みか、もしくはそれを少し上回る水準で推移しています。焼肉はファミリーの人気が特に高い。コロナとはいえ、たまには家族揃って外に食べに行こうとなったときに、利用されるケースが非常に多い。焼肉の強さを改めて実感させられましたね。

――会社としても、今まで以上に焼肉業態に力を入れていくことになるということでしょか。

阿久津 そもそも、昔と比べて、宴会需要もお酒を飲む人も減っていたわけですから、居酒屋業態はいずれこういう状況になっていたでしょう。コロナで、それが思ったよりも早く来たというだけのことです。だから今後は、食事を意識した事業展開が必要で、そういった意味で焼肉は力を入れていかなければならない業態だと考えています。

技術と仕入れ力で月商1500万円も

――「肉匠坂井」は食べ放題の郊外型焼肉店です。最近は郊外に行けば、御社も含め、大手の食べ放題焼肉店がしのぎを削っています。

阿久津 まさに戦場ですね。都心部ではそれほどでもないのですが、郊外はとにかく食べ放題が強い。しかも値段は2980円が相場。きちんとしたオペレーションを組んだうえで勝負しないと、簡単に淘汰されてしまいます。

――なぜ2980円なのでしょうか。

阿久津 これは郊外型食べ放題焼肉店の先駆者である、「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションさんが作った相場です。弊社と「焼肉きんぐ」、それとワン・ダイニングさんの「ワンカルビ」、郊外ではこの3つがよく競合しています。

――世界的に需要が増えている影響で、肉の仕入れ原価が上がっています。そうした中で、2980円という価格を維持しながら、競合との差別化を進めていくのは大変ではないでしょうか。

阿久津 もともと弊社では、「焼肉屋さかい」という店内カットをウリにした焼肉チェーンを運営しています。こちらで培ってきた店内カットの技術と、スケールメリットを生かした仕入れ力があれば、何とかなると考えています。一方で人材育成にも力を入れています。「クラフトマンシップ」というスローガンを掲げていることからも分かるように、スタッフにはとにかくこだわりを持って仕事に取り組むようにと指導しています。

――「肉匠坂井」はフランチャイズの募集も行っています。ビジネスモデルを教えて下さい。

阿久津 居抜きで80坪〜100坪の店舗を出店した場合、加盟金や物件取得費などを含めた総投資額は約8000万円になります。これで月商は1000万から1500万円。直営店だと利益率は約15%前後になりますが、FCになるとロイヤリティなどがかかるため、それよりも若干低くなります。それなりに投資が必要な事業なので、参入障壁は高いです。ただ、先程も申し上げたように、焼肉はファミリー層を中心に、根強い人気があるので、しっかりとしたものを提供し、かつ値段設定さえ間違わなければ、そうそう失敗することはありません。実際、加盟について地方からの問い合わせは増えています。

▲食べ放題の郊外型焼肉店「肉匠坂井」
(画像=▲食べ放題の郊外型焼肉店「肉匠坂井」)

長く続けられるブランドをM&A

――今後の出店計画についてはどう考えておられるのでしょうか。

阿久津 FCを中心とした店舗展開になりますが、がむしゃらに数だけを増やそうとは考えていません。業態自体が儲からなければ加盟店が増えることはないでしょうから、常に中身をブラッシュアップしながら進めていきたいと思っています。

――運営するブランドの中には、M&Aしたものも多数含まれています。

阿久津 今はコロナの影響で投資を控えていますが、状況が変われば積極的にM&Aにも取り組んでいくつもりです。店舗型ビジネスは利益率が低くてそれほど儲かりませんが、

きちんとやれば長く続けることができますからね。

――M&Aする基準のようなものはあるのでしょうか。

阿久津 ブランドの格、それと本質的なものをきちんと提供しているかどうかを見るようにしています。当社に、20年、30年続く、息の長いブランドが多くあるのはそのためです。

「長崎ちゃんめん」にいたっては50年の歴史があります。逆に奇をてらった流行りものには、あまり興味がありません。また業態数を闇雲に増やさないようにも心掛けています。その方が単純に手間がかかりませんし効率も良い。今はレストランなど5つの業態に絞っています。今後も、こうした信念を守りながら、成長を続けていければなと思います