会社を成長させるには、従業員のモチベーションを高めることが必要不可欠だ。従業員に的確なアプローチができなければ、会社の生産性は下がってしまう。本記事で紹介する施策や事例などを参考に、モチベーション向上に視点を置いた取り組みを実践していこう。

目次

  1. モチベーションは外発的動機づけより内発的動機づけで高まる
  2. 外発的動機づけと内発的動機づけの違い
    1. 外発的動機づけとは
    2. 内発的動機づけとは
  3. モチベーションを効率的に高めるハーズバーグの二要因理論
  4. 従業員のモチベーションを高める効果とは?
    1. 1.離職率が低下し、採用コストを抑えられる
    2. 2.労働生産性が高まる
    3. 3.効率的に人材を育成できる
  5. 従業員のモチベーションを高める施策とは?具体例を紹介
    1. 1.マスタリー目標やキャリアビジョンを明確にする
    2. 2.こまめにフィードバックをする
    3. 3.ひとり一人の性格・特性を見える化する
    4. 4.人事評価制度を見直す
    5. 5.成果や進捗を見える化する
  6. モチベーションマネジメントの成功事例
    1. 【事例その1】ザ・リッツ・カールトン
    2. 【事例その2】クックパッド株式会社
    3. 【事例その3】東京海上日動システムズ株式会社
  7. 従業員のモチベーションを注視し、課題に適したモチベーションマネジメントを
経営戦略
(画像=PIXTA)

モチベーションは外発的動機づけより内発的動機づけで高まる

持続的なモチベーションを生みだすには、内面から意欲を起こす「内発的動機づけ」が重要になる。周りの人間に促される「外発的動機づけ」では、報酬や罰則などの外的要因に慣れることで、次第にモチベーションが薄れていくためだ。

米国の心理学教授だったエドワード・L.デシ氏は、かつて「外的報酬(外から与えられる報酬)は内発的なモチベーションを低下させる」という考え方を提唱した。この理論は「アンダーマイニング効果」と呼ばれており、通常は以下のような流れで生じる。

  1. 業務内容に見合った報酬(昇給や昇進)を与える
  2. 従業員のモチベーションが高まる
  3. 次第に従業員の目的が「報酬を得ること」だけになる

従業員の立場から見ると、本来の目的(モチベーションの刺激)と手段(外的報酬)が入れ替わってしまっている。外的報酬が目的になると、メリットがない限りは意欲が刺激されないため、モチベーションを持続させることは難しい。

つまり、外発的動機づけを排除しつつ内発的動機づけができるようになると、持続的かつ高いモチベーションを生みだしやすくなる。

外発的動機づけと内発的動機づけの違い

具体的な施策を考える前に、まずは外発的動機づけと内発的動機づけの違いを理解する必要がある。以下では、それぞれの概要や具体例などを解説する。

外発的動機づけとは

外発的動機づけとは、外部からの働きかけによって物事への意欲を刺激することである。前述では外的報酬と表現したが、外部からの働きかけには罰則や懲罰なども含まれる。

たとえば、納品遅れなどに対して減給などの罰則があると、従業員はペナルティを避けるために必死に働くことが予想される。また、十分な報酬(昇給や昇進など)が用意されている場合、モチベーションが高まることは言うまでもない。

また、ハンガリーの心理学者であるチクセントミハイ氏によると、個々のレベルに合った課題も外発的動機づけにつながる可能性がある。

チクセントミハイは,人は自分のスキルレベルにあった課題を行うようなとき,課題への注意が高まると同時に没入経験が生じ(時間を忘れて課題に取り組むような状態のことである),課題をすることそのものが動機づけになるとした(Csikszentmihalyi 1990)。その
ような心的状態をフロー(flow)と呼ぶ。

(引用:日本労働研究雑誌「労働の動機づけにおける金銭的報酬と非金銭的報酬の役割

一般的に、外発的動機づけは短期的な効果は期待できるものの、自発的な行動を促すことは難しいとされている。

内発的動機づけとは

内発的動機づけとは、内側から起こる興味や関心などによって意欲を起こすことである。どのようなケースが該当するのか、以下で例を紹介しよう。

・業務自体に楽しさを感じて、自ら仕事を求めるようになる
・挑戦自体にやりがいを感じて、資格取得やスキルアップを目指す
・充実感を得るためにチーム全体の残業に取り組む

内発的動機づけに成功した者は、自発的に業務や課題を求めるようになる。外的報酬というゴールがなくても自らアクションを起こすため、高いモチベーションを維持しやすい。

なお、外発的動機づけと内発的動機づけは混在することが基本であり、明確な区別が難しい場合もある。

従来、内発的動機づけは外 発的動機づけとの対立図式の中で捉えられてきた。この二分法は、ある活動がどちらか一方の動機づけによってのみ引き起こされるかのような誤解を生じさせた。
個人の活動に作用する動機づけは外から確認できないが、一方の動機づけのみが活動を生じさせることはむしろ希であると思われる。

(引用:大阪大学「内発的動機づけ研究に関する一考察 : 臨床心理学の視点から」)

たとえば、周りからの評価を高める目的で、モチベーションを高めた従業員がいたとしよう。一見すると内発的動機づけに思えるかもしれないが、会社がつくった「評価制度」や「周りに評価させる風潮」は外的報酬にあたるため、外発的動機づけも混在していることになる。

モチベーションを効率的に高めるハーズバーグの二要因理論

業務のモチベーションに関わる代表的な理論としては、「ハーズバーグの二要因理論」もある。これは、モチベーションの構成要素には「動機付け要因」と「衛生要因」があり、双方にアプローチをすることによって、モチベーションを効率的に高める考え方だ。

動機付け要因とは、仕事の満足度に関わる要因である。ないからといってすぐに不満を招くわけではないが、あればあるほど仕事への満足感が高まる。

一方で、衛生要因は仕事の不満に関わる要因であり、整備されていないと従業員は不満を感じやすい。ただし、整備されていても満足感が高まるわけではない点には注意が必要だ。

それぞれどのようなものが該当するのか、以下で例を紹介しよう。

<動機付け要因の例>
・達成
・承認
・仕事そのもの
・責任
・昇進
・成長 など

<衛生要因の例>
・会社の方針と管理
・会社や上司からの監督
・監督者との関係
・労働条件
・給与
・福利厚生 など

「異なる要因が共存している」という考え方がこの理論の特徴であり、両者は相反するわけではなく、互いに足りない部分を補うような関係性となっている。つまり、動機付け要因や衛生要因のどちらか一方だけを満たすのではなく、不満に関わる衛生要因を解消したうえで動機付け要因にアプローチすることが、モチベーションを高める近道になるわけだ。

従業員のモチベーションを高める効果とは?

上記で解説したハーズバーグの二要因理論を活用すれば、従業員へのモチベーションマネジメントは効果的に遂行できる。では、従業員のモチベーションが高まるとどのような利点があるのか、主な3つのメリットや効果についてひとつずつ確認していこう。

1.離職率が低下し、採用コストを抑えられる

一般的にモチベーションが下がった従業員は、退職を意識することが多い。そのため、従業員のモチベーションを高めることは離職率の低下につながり、それによって人員不足で人手を補う必要性がなくなることから、「採用コストの削減効果」も期待できる。

2.労働生産性が高まる

従業員のモチベーションが高いほど、業務に対する集中力やパフォーマンスはアップする。つまり、クオリティの高い仕事を効率的に遂行できるようになり、必然的に組織としての生産性も高まる。

3.効率的に人材を育成できる

従業員のモチベーションが高まると、自ら作業効率や質の向上に努めたり、スキルアップに励んだりといった能動的な行動が増える傾向にある。それに伴って個々の成長スピードが高まるため、モチベーションマネジメントに取り組めばより効率的に人材を育成できるはずだ。

従業員のモチベーションを高める施策とは?具体例を紹介

実際のモチベーションマネジメントとしては、どのような取り組みが有効なのだろうか。ここからは前述のモチベーション理論を軸に、モチベーションを高めるための施策を紹介する。

1.マスタリー目標やキャリアビジョンを明確にする

マスタリー目標とは、成長や能力向上にフォーカスした目標である。個々のマスタリー目標やキャリアビジョンを明確にすると、「どのような姿を目指したいか」が可視化されるため、前述の内発的動機づけにつながる。

ただし、会社側が理想とする目標・ビジョンを押しつけると、外的報酬の意味合いが強まってしまう。モチベーションはあくまで自発的に高めることが望ましいため、従業員自身に目標・ビジョンを考えさせることが重要だ。

2.こまめにフィードバックをする

給料や待遇面などの外的報酬は、持続的なモチベーションにはつながりにくい。ハーズバーグの二要因理論にもある通り、衛生要因は仕事への満足感を満たすものではないためだ。

そのため、日頃から従業員の働きぶりを確認し、こまめにフィードバックをすることが重要になる。たとえば、「この仕事はあなたにしかできない」と能力を褒めたり、「○○さんがいるから助かっている」と努力を認めたりすると、従業員は衛生要因以外のやりがいを感じやすくなる。

3.ひとり一人の性格・特性を見える化する

会社側としては重大な仕事を任せたつもりであっても、従業員によっては「押しつけられた」と感じてしまう。従業員のキャリアビジョンに合わせた業務を割り振る必要があるため、ひとり一人の性格・特性を見える化する施策も欠かせないだろう。

具体策としては、将来に関するヒアリングをしたり、業務適正のアンケートを行ったりする方法がある。

4.人事評価制度を見直す

人事評価制度は外的報酬にあたるが、じつは内発的動機づけにもつながる。公平でキャリアアップを目指せるような仕組みがあると、ひとり一人が「将来どうなりたいのか?」や「なにをすればよいのか?」を自発的に考えるようになるためだ。

また、成果だけではなくプロセスも評価すると、失敗を恐れない環境を作りだせる。従業員が自ら考えて行動を起こせるように、挑戦しやすい環境づくりにも取り組みたい。

5.成果や進捗を見える化する

人事評価制度の見直しと同時に、成果や進捗の見える化も必要になる。成果・進捗を見える化すると、社会や組織の中で「自分がどのように役に立っているか?」が明確になり、動機付け要因が満たされるためだ。

その一方で、全社員に営業成績などを公開する方法は、外的報酬の意味合いが強くなってしまう。フィードバックは重要だが、優れた成果を残せていない従業員にも配慮できる方法を考えたい。

モチベーションマネジメントの成功事例

ここからは、実際にモチベーションマネジメントに成功した事例をチェックしていこう。以下で紹介する3社の取り組みを参考に、自社にはどのような施策が効果的なのか考えてみてはいかがだろうか。

【事例その1】ザ・リッツ・カールトン

まず注目したいのが、世界規模でホテル事業を展開する『ザ・リッツ・カールトン』が実施している施策である。同ホテルブランドは、「クレド」と呼ばれる経営理念の実現に向け、顧客だけではなく上司や同僚、部下にも感謝を示せるシステムを確立させた。

具体的には、従業員全員に「ファーストクラス・カード」と呼ばれる感謝・敬意の意味をもつカードを配布し、お礼を伝えたいときなどにそのカードを用いることで、従業員が気軽にお互いを褒め合うというもの。ちなみに、そのカードには「どのような状況でどのように助けてもらい、それによってどれだけ助かったのか?」などを詳しく記載する欄があり、最終的にはコピーを人事が預かって評価に反映させる仕組みがとられている。

この制度によって従業員は自らの成長や貢献を目に見える形で実感でき、さらには組織からも評価されてモチベーションが向上する。また、コピーは社内食堂に提示されるため、ほかの従業員にも良い刺激や教訓を与えられるのだ。

このザ・リッツ・カールトンの事例は、ハーズバーグの理論のうち動機付け要因にあたる「承認」を上手く活用した効果的な施策といえる。

【事例その2】クックパッド株式会社

レシピサイトを運営する『クックパッド』では、従業員のキャリアビジョンへの欲求を満たすことを目的とした施策を遂行している。具体的には、追加で人員が必要になった部門が現れた場合に、社外だけではなく社内からも募集を行い、従業員からの異動願いを歓迎するといった施策だ。

つまり、会社として個々の「やりたい」という意思を尊重し、その実現に向けて全面的に応援する姿勢を形にした制度である。ちなみに、社内公募に申し込む際は直属の上司による承認などは一切必要なく、さらには公募に申し込んだ事実も内密にしてもらえる。

この施策によって、クックパッドでは従業員ひとり一人の自発性が向上し、高いモチベーションが保たれている。

【事例その3】東京海上日動システムズ株式会社

東京海上グループにおけるIT戦略の中核を担う『東京海上日動システムズ』では、すべての従業員が経営ビジョンを話し合う「全社論議」を開催することで、モチベーションマネジメントを行っている。つまり、全従業員参加型の会議で自由に意見を交わさせることにより、従業員の意欲を巧みに刺激しているのだ。

ちなみに、経営層は会社の方向性を提示するのみで、具体的な目標やプランは各部署やチームに委ねている。このように、経営を大きく左右する領域にまで従業員の意見を反映させれば、特に意識が高い従業員のモチベーションは格段にアップするだろう。

従業員のモチベーションを注視し、課題に適したモチベーションマネジメントを

従業員のモチベーションは、会社の成長や業績に直結する要素である。そのため、経営者は常に多角的なアンテナを張り、モチベーションの維持・向上に視点を置いた施策に取り組むことが重要だ。

まずは、現状の労働環境や評価制度が適切なものなのか、従業員の目線で見直してみると良いだろう。その上で課題に適したアプローチを心がけ、効率的なモチベーションマネジメントを目指していきたい。

文・石田真帆(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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