親子上場という言葉を聞いたことがあるだろうか。親会社が上場しているにも関わらず、同じような名称の子会社も上場しており疑問に思う人も少なくないだろう。今回は親子上場の仕組みや、親会社や子会社にとってのメリットやデメリット、親子上場の具体的な事例などを紹介していきたい。
目次
親子上場とは
親子上場とは、その名の通り、親会社と子会社がそれぞれ上場している状態のことである。
上場とは、株式や債券といった有価証券はもちろん、先物取引の対象商品を取引所で売買できるようにすることであり、上場をすることによって、原則として金融商品取引法の規制を受けることになる。
会社法での定義
親会社と子会社の定義は、会社法において以下のように規定されている。
・親会社
株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(会社法第2条第4号)
・子会社
会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(会社法第2条第3号)
細かい例外を除くと、基本的には子会社の過半数の株式を保有している会社が親会社であると認識しておけばよいだろう。
子会社上場のメリット3つ
子会社を上場することで、会社にとってはいくつかのメリットがある。
メリット1. 資金調達がしやすくなる
まず、親会社にとっては、資金調達をしやすくなるといったメリットがある。子会社を上場する際には、親会社が子会社の株式を売却することになるため、売却益によって親会社に資金が流入することになり、新規事業などへの投資が可能となる。
メリット2. 子会社の信用力向上
また、子会社が上場することによって市場価値が上がるだけでなく、子会社自体の信用力向上が期待できる。そうすれば、子会社独自の信用による人材採用や資金調達が可能となり、ひいてはグループ全体の信用力向上につながり、親会社の株式価格も上昇する可能性がある。
メリット3. 経営の自由度が向上
また、子会社にとっても、親会社からの独立性が高まることによって、経営の自由度が増すというメリットがある。これにより、子会社の従業員のモチベーション向上や生産性向上が期待できる。
子会社上場のデメリット5つ
もちろん、子会社上場にはデメリットも存在する。
デメリット1. 経営判断が円滑にできなくなる可能性がある
まず、親会社の支配力が弱まることで、グループ全体としての経営判断に遅れやブレが生じる可能性がある。
デメリット2. 子会社の利益が流出する恐れがある
そして、子会社の利益がグループ外部に流出してしまうといったデメリットもある。子会社には親会社以外の株主がおり、それらステークホルダーの意向が子会社の経営に反映され、グループの一定的経営が阻害されるなど、必要以上の配当等による社外流出がなされる可能性がある。
デメリット3. ガバナンス管理コストが増大する
また、子会社に対しても、親会社に準ずる詳細な情報開示や上場基準に準拠した高いレベルのガバナンスが要求されることになるため、事務処理の負担や内部管理体制のコストが増大することになる。
デメリット4. 親会社以外の株主の利益が損なわれる恐れがある
子会社の少数株主にとっても、親会社の利益を優先される可能性がある点で、子会社の上場はデメリットである。
本来、親会社が上場した際には、その企業価値に子会社の企業価値が含まれていたはずである。しかし、子会社を追加で上場したような場合には、一度裏付けにした企業価値を再度使用して資金を集めるといったことになり、過剰な信用創造となってしまう可能性がある。
デメリット5. 親会社の尻拭いをさせられる可能性がある
また、親会社にとって不要な人材を子会社への転籍や出向といった形で送り込んできたり、不採算部門を子会社に押し付けてくるといったことや、親会社の業績が振るわない場合は、子会社の利益を親会社に付け替えようとするインセンティブが働く可能性もある。
親子上場の解消について
子会社の上場にはさまざまなメリットやデメリットがあるが、基本的には、デメリットが強調される傾向にある。日本の代表的な証券取引所である東京証券取引所も、2007年に「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」を公表し、明確に子会社の上場に関するデメリットを強調している。
子会社上場のデメリットを生まない方法
それでは、子会社の上場によるデメリット生まないためには、どうすればいいのであろうか。
親子上場会社の方策については、大きく買収、合併、株式交換が考えられる。
買収については、少数株主比率が非常に低い場合や、親会社と子会社の規模に大きな開きがある場合を除き、子会社の少数株主から現金で株式を買い上げるのは容易ではなく、借入で調達する場合においても、多額のファイナンスになるという問題がある。
合併の場合は、大企業になればなるほど、利害関係者が多くなり、とるべき手続きについて非常にハードルが高くなる。そのため、株式交換という手法を用いる場合が非常に多い。
株式交換
株式交換とは、主にグループ企業の形成やグループ企業の再編などに用いられる手法である。
似た手法に株式移転というものがあるが、こちらは、新しく会社を設立して既存企業の株式を移す手法である。新設された会社は親会社となり、既存の企業は子会社となる仕組みのため、新たにホールディング会社を設立して兄弟会社とする場合などに用いられる。
株式交換は、子会社はあくまで別会社のままであるため法人格は残る。その点で、会社を一緒にして法人格を消滅させてしまう合併とは異なる。
・株式交換を実施する際の流れ
便利な手続きに見える株式交換であるが、株主と債権者に大きな影響があるため、株主と債権者を保護する手続が必要になる。
まず、取締役会決議を行う。株式交換を行う企業は、作成した株式交換契約の内容について取締役会で承認を得る必要がある。その後、株式交換を行う当事者同士で、株式交換契約を締結し、利害関係者が株式交換に関する情報を把握できるようにするために、会社は事前開示書類を本店に備え置かなくてはならない。
なお、事前開示書類とは、株主や債権者が株式交換の判断材料に用いる書類である。
・株式交換には株主総会の承認が必要
株式交換を行うためには、株主総会で承認を得なければならない。株主総会を開催するために、会社は株主に招集通知を発送し、株主総会にて株式交換を行う旨についての株主たちの承認を得る。
簡易株式交換や略式株式交換の要件に該当しなければ、完全親会社となる立場の企業が株式以外の対価を交付すると取り決めた場合は、債権者に不利益が生じる可能性があることから、債権者保護手続きを行う必要がある。株式のみを交付するならば、債権者保護手続気を行う必要はない。
・少数株主の利益を保護する対応が必要
また、株式交換は株主総会で3分の2以上の賛成があれば承認されることになるため、株式交換に反対する少数の株主が不利益を被ることがある。少数株主の利益は保護する必要があるため、会社側は株主に対して株式買取請求権があることを周知し、株式交換に反対する株主から株式の買取請求があった場合は、買い取りに応じなければならない。
その後、株式交換の契約の際に取り決めた効力発生日になった時点で、完全親会社になる予定の企業は、完全子会社化する企業の株式を100%取得することができる。
完全子会社になる会社の株主だった者は、株式交換による対価を受け取ることになり、新規発行された株式を対価とした場合など、資本金の額などの登記事項に異動がある場合には、登記を速やかに行う必要がある。
最後に、株式交換の当事者の会社は、株式交換が終了して後6ヵ月間は、事後開示書類を本店に備え置く必要がある。事後開示処理には株式交換の手続の結果や、買取請求、異議申し立ての状況などを記載することになる。
親子上場の事例
親子上場をしている会社は非常に多くあるが、いくつかの事例を紹介しておきたい。
成立過程はさまざま
親子上場に至った経緯としては、もともと親会社にあった事業部や非上場子会社が独立したもの、企業の組織再編の過程で、100%子会社にせずに少数株主が残ったものがあり、その成立過程はさまざまである。
代表的な親子上場を以下に示すのでイメージを深めてもらいたい。
- 親会社:トヨタ自動車株式会社→子会社:日野自動車株式会社
- 親会社:日本電信電話株式会社(NTT)→子会社:株式会社NTTドコモ
- 親会社:株式会社ヤマダ電機→子会社:株式会社大塚家具
- 親会社:RIZAPグループ株式会社→子会社:株式会社ジーンズメイト
また、親子上場による数々のデメリットを考慮して親子上場を廃止した企業のうち、代表的な企業グループを列記するので、イメージしてもらいたい。
- 親会社:アサヒビール株式会社→子会社アサヒ飲料株式会社
- 親会社:味の素株式会社→子会社:カルピス株式会社
- 親会社:イオン株式会社→子会社:株式会社ダイエー
文・内山瑛(公認会計士)