自由抑制
(画像=mango/stock.adobe.com)

トランプ大統領が火蓋をきった中国批判は、コロナ対応や人権、言論の自由抑制をめぐり、今やオーストラリアやスウェーデンなど世界各地に広がっている。

最新のピュー研究所の調査では、調査対象となった14ヵ国の回答者の6~8割が「中国に対する否定的な見方」を示すなど、世界の中でも中国に対して反発が強まっていることが明らかになった。世界各国で中国へのヘイトが高まっている要因と現状を、中国はどのように受けとめているのだろう。

対中制裁を強化する米国 国民の約3割が「中国は敵」

貿易戦争に始まり、トランプ大統領の「コロナ発祥地」「中国ウィルス(Chinese Virus)」発言や中国IT企業締め出しなど、米国は中国との摩擦が最も激しい国だ。トランプ大統領は、コロナの感染拡大の初期から中国政府のコロナ対応を公に批判しており、9月の国連の演説では政府間組織に「中国共産党政府のコロナ対応責任」を追及するよう要求した。

人権問題で強まる糾弾

7月には、中国政府によるウイグル人やその他のイスラム教徒少数派グループへの弾圧をめぐり、虐待行為や奴隷労働などに関与したエスケル・テキスタイルを含む中国企業9社を、エンティティリスト(EL)に追加した。また、弾圧に関与した高官およびその家族のビザ発給を制限するなど、厳しい措置を次々と講じている。

ELはいわゆるブラックリストで、米国企業は許可を取得せずに掲載された企業に技術や製品を販売できない。つまり実質上の禁輸措置だ。このリストには海外の5G市場から締め出された、ファーウェイ(華為科技)も名を連ねている。

米国民の間でも悪化する対中感情

対中感情は国民の間でも悪化しており、ピュー研究所の調査では、回答者1,003人の73%が「中国に否定的な感情をもっている」と回答した。2018年と比べると、その数は26ポイント増となっている。また、回答者の78%が「パンデミックの責任の一部あるいは大部分は中国政府にある」、26%が「中国は米国の敵だ」など露骨な敵対心を見せた。

中国は制裁に対し、「国際法違反」「中国IT企業いじめ」などと反論しているが、現時点においては具体的な報復の意思を明らかにしていない。

対中外交関係が悪化するオーストラリア 9割以上が「中国依存」を懸念

一方、中国と友好関係を維持してきたオーストラリアでも、コロナ感染拡大を機に中国批判が高まっている。

中国への経済依存脱却が始まる?

中国はオーストラリアの輸出の3分の1以上を占める、重要な輸出市場だ。中国の鉄鉱石輸入の60%以上、液化天然ガス輸入のほぼ半分、石炭輸入の約40%は、オーストラリアが供給している。しかし5月、コロナの発祥源や感染拡大に関する独立調査を、モリソン豪首相が世界保健総会(WHA)に要請したことで、両国の関係は一転した。さらに7月には米外相と豪国防相が対談を行い、中国の南シナ海領有権をめぐる国際規範違反や、香港の民主的自由の保護に取り組む意向を明らかにした。

中国への経済依存を懸念する国民も多く、2020年の世論調査では94%が「中国以外の協定先を探すべき」と答えた。またピュー研究所の調査では、中国に対する否定的な感情を抱く国民の数が14ヵ国中で最も増え、前年から24ポイント増の81%に達した。

関係の悪化に応じ、中国は自国民に「オーストラリアに旅行すると、人種差別的な攻撃を受けるリスクがある」と警告した。5月以降はオーストラリアの4つの牛肉加工施設からの輸入を禁止しているほか、今後5年にわたって大麦に80%もの関税を課するなど反撃している。

対中感情が日本の次に高いスウェーデン 「言論の自由」をめぐる紛争

スウェーデンは、コロナ以前から欧州で先頭を切って、中国の圧力と戦ってきた国だ。ことの発端は、中国の指導者を批判する本を出版した中国生まれ、香港在住のスウェーデン国民、桂民海氏が、2015年にタイで拉致され、中国本土で拘留された事件にさかのぼる。

悪化し続ける瑞中関係

同氏は、2019年に言論の自由を讃えるスウェーデンの団体Swedish PENから、公権力と戦う作家に贈られる「トゥホルスキー賞」を受賞した。しかし中国が受賞撤回の圧力をかけ、スウェーデンがこれを拒絶したため、両国間は険悪な空気で満たされた。そして両国の関係は、コロナの感染拡大を機に悪化し続けている。

2020年9月には「ストックホルム自由世界フォーラム」のシニアフェロー、パトリック・オクサネン氏が、桂民海氏の一件をテーマにした『静かなる批評家に対する中国の攻撃』というレポートを発表し、中国の人権や言論の自由への圧力を批判した。

このような感情はスウェーデン国民にも根深く浸透しており、ピュー研究所の調査では14ヵ国中、日本(86%)に次いで高い85%が、中国に対する否定的な見方を示している。ストックホルムの中国領事館は、桂民海氏の受賞について、「茶番劇であるだけでなく、真の言論の自由への嘲笑、そしてPENが自らを侮辱する行為だ」とコメントした。

中国共産党が所有する出版社は、ロックダウンやマスク着用など厳しい行動規制を実施しないスウェーデンのコロナ対策を、「(コロナへの)降伏」「(コロナ感染を広げる)ブラックホール」などと強く批判した。

コロナ経済回復は中国の一人勝ち?

世界各地で対中感情が広がっている要因は、もう一つ考えられる。

新型コロナの影響で各国がGDPを軒並み低下させている状況の中、中国は「コロナ発祥地」の疑惑を払拭できないまま、経済成長を続けている。国際通貨基金(IMF)の10月の予想によると、先進国の経済成長が2020年は-5.8%、2021年は3.9%に留まるのに対し、中国はそれぞれ1.9%、8.2%と一人勝ちの状況だ。このような経済成長格差が、他国の反感や不信感を招いても不思議ではない。

繰り返しになるが、対中感情は広範囲に広がっている。習近平主席についても、14ヵ国の8~9割が「世界の問題で正しい判断や行動をすると思えない」と答えるなど、世界各地で中国に対する不信感が目立つ。国際的な視点から見ると、「他国からの信用回復」は中国にとって極めて深刻な課題だが、中国側がどこまで深刻に受けとめているのかは定かではない。今後の中国の対応、そしてそれに対する他国の対応が注視される。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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